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070:虹色の魔人③


「フハハハハ!! 愚かだナ!! 弱者を捨てられぬのガ人間の弱さダ!! 肉人形達と好きなだけ踊るが良イ!!」


 魔人の体内からはシーンと同じようにボコボコと新たな塊が現れていた。


 次々に落ちてくる者たちの装備には見覚えがあった。

 ハイエアの騎士たちだ。


 そしてその中に、見覚えのある黒いローブが混じっていた。


 その背中には巨大な昆虫の足と、袋のように膨らんだ腹部が生えていた。

 まるでクモのような姿だ。


「メイまで……!?」


 落ちてくる人影のどれもが人の姿から逸脱していた。


 シーンも、メイも、まるでモンスターだ。


「ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


「ギィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!」


 シーンはギチギチと【水牢】(ブルーロック)を潰すように触手で締め上げてきた。


 メイは地上から粘着性の糸を吹き出し、俺たちをシーンごと地面に引きずりおろそうとしてくる。


【天球】(サンライト)


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?!?」


 シーンが悲鳴を上げて俺たちから離れた。


「えっ!?」


 師匠が放ったのは【照明魔術】(ライト)の上級魔術だ。

 攻撃魔術ではなく、光の魔力で周囲を照らすだけの魔術である。


 直視すれば目が潰れるほどの光量だが、同時に師匠のマントが俺たちを守ってくれている。


【着火】(イグニッション)


「ギャウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!?!?」


 次は火を起こしてクモの糸を焼き切る。

 そんなに大きな火ではないが、メイはそれから逃げるように建物の陰に隠れた。


「ふむ、性質はスキュラとアラクネそのものだな。スキュラは光の魔術を苦手とする体質を持っているし、アラクネは火を嫌う」


 スキュラと呼ばれる生き物がいる。

 黒いタコのような下半身を持つ亜人だ。


 モンスターのような雄叫びをあげるシーンの姿はまさにそれだった。

 理性を失ったその姿に、聖女として面影などない。


 アラクネは背中が緑色の巨大なクモのようになった亜人だ。


 シーンと同じく理性を失った化け物のような姿。

 喚くような叫び声に魔術師としての威厳はなかった。


「メイとシーンは亜人だったのか……?」


 亜人とはモンスターが人間と交わる事で生まれる忌み子のことだ。

 モンスターの姿を持つ亜人は人々から恐れられ、ハイエアでは迫害の対象だった。


 地位が低くとも存在自体は認められている獣人や奴隷に対し、亜人は存在そのものを否定される存在なのだ。


 特に理性を失った亜人は狩りの対象ですらある。

 人の姿を残していてもモンスターと同じ人類の敵なのだ。


 恐らくはローランドでもそうだろう。


 だから亜人はその姿を隠す。

 完全な人の姿に化けるのだ。


 2人もそうだったのか?


 いや、それは不可能だろう。


 血統に誇りを持つ貴族たちは亜人の存在を特に嫌う。

 貴族の名家に生まれたトランがそんな存在をパーティに受け入れるハズがない。


 ずっと一緒にパーティを組みながら隠し続けるなんて不可能だろう。


「いや、あいつらは人間のハズだ。何年も一緒だったんだから……」


 光を苦手とするスキュラが光の魔術を使えるわけがない。

 火を苦手とするアラクネが火の魔術を好んで使うわけがない。


「メイは炎使いの魔術師だった。シーンは聖女だ」


 でも、だったら目の前の姿はいったい……


「そうだな。元は人間だろう。亜人にされたのだ。魔人の魔力に侵食されて、な」


 俺たちから離れたシーンの体はそのままベシャリと地面に落ちた。

 生気のない瞳を見開いて、操り人形のように俺たちを見上げている。


 建物の陰からはメイが同じような眼で覗いていた。


「魔人の魔術ってことか? 肉体変化の魔術なら聞いたことはあるが、アレは……」


 形だけじゃない。

 魔力の性質そのものが違う。


「少し違うな。人間の魔力を直接変化させて亜人化させて自らの手足に使う。魔人に寄生されているようなモノだな。ヤツらは肉人形と呼んでいたか」


「そんなことまでできるのか」


「簡単ではないがな。そのために魔人は人の心を破壊する。そして壊れた心に忍び込むのだ。そのために相手の最も大切なモノを奪う」


「大切なモノ……?」


「心の中心。精神的な支柱のような、自らが誇れるモノだ。スキュラの娘、聖女ということは光の魔術師だったわけだろう?」


「あぁ。パーティでは回復魔術の担当だった」


「やはりか。だがスキュラの体になった以上はもう、回復も含めて光魔術など使えない」


 スキュラとなったシーンは光の魔力を使った照明を見ただけで悲鳴を上げていた。

 確かにあの様子では、もう光の魔術など使えないだろう。


「おそらくあの娘にとっての大切なモノ……それが聖女という立場だったのだろうな。聖女である事が娘にとっての誇りだったのだろう。だが、もう純潔も散らされておる。あの娘は聖女としての尊厳を奪い取られたのだ。そして魔人の侵食に抗えなくなった」


 純潔を失えば、神に仕える教会の聖女としての立場も失う。

 光魔術も失い、教会での立場も失えば、そこに聖女としてのシーンはもういなくなる。


「そして、わざわざ念入りに光魔術に耐えられないスキュラの体に変えたのだろうな……全く(むご)い事をする。アラクネの娘も同じだろう。虫の亜人とは、知恵を奪われたか。魔術師としての頭脳を狙われたようだな」


 虫型のモンスターは本能のままに行動するため知性は低い。

 アラクネもそうなのだろう。


「ヴァ、アア……」


「ギギ、ギャ……」


 聖女としての神聖さ。

 魔術師としての知恵。


 魔人は2人にとって最も大切なモノを奪い去ったのだ。

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