064:お一人様のダンジョン攻略④
基礎魔術である【火矢】は冒険者登録テストの時にすでに見せている。
今回はさらにのその上の魔術が良いだろう。
だったら上級魔術だな。
俺が選んだのは、元パーティメンバーである魔術師のメイが必殺技として強敵相手によく使っていた火魔術だ。
上級の攻撃魔術を実戦で使うのは初めてだが、この魔術はメイが使うのを何度も見てきた。
そして【威力上昇】や【範囲拡大】などのサポートもしてきたから【火矢】よりも術式を理解できている。
メイのアレンジが入っているだろうが、その詠唱も覚えていた。
基本の形状は知らないが、俺にとってはこれが一番馴染みのある形だ。
そのまま使わせてもらうぞ。
「『我が血に滾り燻る灰よ、舞い踊りて地を焦がせ。太古の炎よ今甦り、灼熱業火の地獄の炎と化せ』……」
冒険者登録テストの時とは違う、上級魔術。
もちろん基礎魔術に比べると術式は複雑で難解になる。
魔力の消耗も大きい。
だからこそ上級なんて呼ばれるのだ。
しかし同じ火属性の攻撃魔術には変わりない。
その構成は【火矢】と良く似ている。
上級魔術なら威力は十分だろう。
魔力の最適化のみを行い、まずは術式の安定した形成に重点を置く。
余計な範囲攻撃も必要ない。
術式を圧縮し、目標を目の前の巨大なゴブリン1体に絞る。
最後に闇に効果の高い光の属性を加えてアレンジは完成だ。
詠唱の終わりと共に、高密度に圧縮された破壊に特化した炎の球が顕現する。
ダンジョンの暗闇の中で、もはや明かりが不要になるほどの輝度だ。
ヒリつくような熱を肌に感じる。
ん……?
いや、何か思ったよりデカいな……?
メイが使っていた時よりも大きい気がする。
さすがにこれを狭い空間で放つのには自分の身の危険を感じるレベルだ。
ちょっと魔力の量を抑えて……
よし!
「【獄炎球】」
俺は完成したそれをゴブリンゾンビキングに向かって打ち放った。
赤光が帯を残して走り、ジュっッとキングの肌を一瞬にして溶かして貫通した。
獄炎球はそのままダンジョンの地面に突き刺さり……
ドッ
ッゴォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!
想定外の威力をもって地面を吹き飛ばしたのだ。
あ、あぶねー……。
魔力をセーブしていて良かった。
そうでなければダンジョンがなくなるところだった。
「ご、ご主人さま!? 大丈夫なのですー!?」
「お、おう。大丈夫だぞ?」
あまりの威力にスーが慌てていた。
いや、こんなのは俺も想定外なんだがな。
俺自身も成長しているのは自覚していたが、まさかここまでの威力がでるとは……。
これが上級魔術か。
恐ろしいものだな。
「すごい威力なのです! さすがご主人さまなのです!!」
「ま、まぁな? スー、覚えておけ。これが本当の上級魔術だ……!!」
ご主人さまの威厳を保つため、ここは当然の振りをしてドヤ顔を決めておこう。
スーはその威力に感心してくれているし何も問題ないよな。
しかし、すごいことになってしまった……。
ゴブリンゾンビキングどころか、その周囲一帯が吹き飛んでいる。
だがその成果もあって呪力の気配も一気に薄らいだ。
ん……?
いや、なんか急に魔力の濃度が下がりすぎじゃないか?
周囲から闇の魔力が消えていくのを感じる。
目に見えてその濃度は下がった。
まるでこのダンジョンをクリアしたみたいに……。
爆風による土煙が落ち着いてくると、獄炎球によってできた穴がよく見えるようになる。
それは地下へと続いていた。
獄炎球は地面だけでなく、さらに奥深くへと貫通したようだ。
表面が赤熱したままの大穴は先が見えない程に続いており、その奥には何かがある。
「【浮遊魔術】」
魔術で体を浮かせ、新しくできてしまったその道を進む。
穴はかなりの深さまで到達していた。
そしてその先にあったのは、体の大半が熱で溶けて白骨化した巨大なドラゴンの姿だった。
所々が炭化したり赤く光ったりしていて、それが獄炎球によるダメージの跡だと分かる。
「これがダンジョンのボスなのです?」
まぁ、そうだろうな。
ドラゴンなんて珍しいモンスター、そんなに数はいない。
何より強力な呪力の残滓が今、目の前で消えていっている。
あれ……?
もしかして『邪龍』、さっきのに巻き込まれて死んだ……?
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