061:お一人様のダンジョン攻略①
ダンジョンまでの距離は馬車で1週間ほどかかる距離だった。
チャンスイの町を出てから森を抜け、境界領域を魔界付近へと北に進む経路だ。
ダンジョンまでの道はすでに開拓されているため比較的安全だが、モンスターやならず者が存在するために完全には油断できない。
スーと出会った時を少しだけ思い出した。
あの盗賊たちなどがよくいるならず者だ。
だがそんな道中も、移動する城塞と化したこの我が家の中なら安全である。
もはや荷馬車には見えないであろう我が家は猛スピードで進み、半日ほどで目的地に到着した。
室内は速度を上げても揺れないように魔改造してあるのだが、さすがに今回は速度を出し過ぎたようだ。
少しばかり揺れたので後でサスペンションなどを改良する必要があるな。
「さて、行くか」
外に出ながらスーに声をかけると、スーは少しだけ考えるような素振りを見せた。
いつもならすぐについてくるのだが、様子がおかしい。
「どうした?」
「あの……」
スーは俺があげた魔術書を大事そうに胸に抱えている。
アイテムボックス化したポーチに収納できるのだが、こうして持っていたいらしい。
師匠からもらったメガネはネックレスのように首にかけてある。
長時間の着用はかなり負担になるらしく、魔術の練習をするときだけ使うように言われたからだ。
「……今回はお留守番にするのです」
「!?」
いつもなら絶対についてくるハズなのに!?
なぜだ!?
師匠の前でデレデレしすぎたからか!?
もしかしてご主人さまとしての威厳が足りなくなって……
「やっぱりご主人さまはすごすぎます」
「え?」
「本屋さんからもらったこのメガネのおかげでわかったのです。今までご主人さまが簡単にやっつけてくれていたモンスターがどれくらい危険だったのか……」
本屋さんとは師匠の事だ。
スーは師匠からもらったメガネのおかげで魔力を見る事ができるようになった。
漠然とした気配ではなく、ハッキリとその質や量を感じとる事ができるらしい。
意外にもこの「魔力を見る」という事ができない人は多いらしい。
見る事ができなければ術式の理解などはむずかしくなるし、魔術師としての力量も計りにくい。
それができるようになった事で、スーは世界の感じ方も少し変わったようだ。
「ご主人さまはすごい人だって思ってましたけど、やっぱりすごすぎるのです。今のわたしなんかに比べると、とおすぎます……」
スーは道中、やけに真剣に外の景色を眺めていた。
メガネが気に入ったのかと思ったが、そうではなかったようだ。
魔力を見ていたのだ。
森の中ではワイルドボアなどともすれ違った。
これまでとは違う目線でそれを見て、スーなりに分析していたのだろう。
さすがに森の中では速度を落としたからな。
「それに今から行くダンジョンもすごく危険なのです。私がいるときっとご主人の足を引っ張ってしまいます」
スーはメガネをかけて外を見た。
目の前にはこれから攻略する『邪龍の呪穴』がある。
魔力が見えるなら、その危険さはわかりやすいくらいだろう。
おぞましい闇の魔力が充満している。
この入口はまだ密度が薄いくらいだろう。
奥に進めば、こんなものでは済まないハズだ。
それに今回はモンスターとの戦闘がメインになる。
薬草採集の時のようにはいかないだろう。
スーはまだ初級の魔術すら使えない。
魔術書も読み始めたばかりだからな。
お世辞にも戦闘の役に立つとは言えなかった。
「だから今回はおそばにいられないのです。本当はずっと一緒にいたいですけど……」
呪力というのは特に危険なモノだ。
ダンジョンの奥で強い呪術を相手にすることになれば、俺にも解呪できる確証はない。
スーには安全な我が家で待っていてもらった方が安心できるのは本音だった。
だが、こうも思い詰めているのは良くない気がする。
状況分析は冷静で素晴らしいが、そもそもスーは冒険者ではないし、まだまだ子供だ。
魔術だって学び始めたばかりなのだから、そんなに卑屈にはならないでほしいのだが……
「だからもっといっぱい勉強して、ご主人様のお役に立てる奴隷になるのです! ずっとおそばにいられるように、ご主人さまみたいなすごい魔術師になるのです! そのために今日は、我慢なのです」
落ち込んでるのかと思いきや、最後に飛びしたのは前向きな言葉だった。
その眼も暗いものではなく、キラキラと希望を持った目だ。
「そうか。わかった」
だったら俺はその手助けをするだけだ。
魔術書だけでない、冒険をスーにも教えてあげよう。
「じゃあ今日はこれを見ていてくれ」
俺は魔術の勉強用に買ってきていた羊皮紙を1枚手に取ると、魔術で加工してからスーに手渡した。
「ふぇ? なんなのです?」
「ちょっとした魔道具だ。俺の見ている景色を見せてやる」
俺の網膜に備えた魔力と連動させた。
俺の見る景色がそのままこの羊皮紙に映し出される仕組みだ。
ついでに音声も連動させたからダンジョンの中からでも会話ができる。
これは以前のパーティにいた時に考えて発明した魔道具だ。
同じ仕組みを応用してみんなの視点を共有してもらったことがある。
あの時は女性陣の「視界を覗かれてるとかなんかキモイ」という貴重なご意見により1度の使用だけで不採用となったが、それでも得られた情報は大きかった。
仲間たちが何をみて行動しているのかを知ることで、俺はパーティに必要な戦術や魔術を研究する事ができたのだ。
目的は違うが、スーの世界を広げるのに役立てるかも知れない。
そうして俺は一人でダンジョンの中へと進む。
ご主人さまの威厳が失われたわけではなかったと安心しながら。
「スー、どうだ?」
「聞こえますなのです! 映像もバッチリなのです」
目の前には薄暗い洞窟が広がっている。
その景色はスーにも見えているようだ。
音声の疎通も問題ないな。
「そうか、よし……じゃあ攻略を始めようか」
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