060:緊急クエスト『邪龍の呪穴』②
『邪龍の呪穴』。
現在も未攻略のままになっている高難易度ダンジョンの1つ。
Aランクに分類されているダンジョンだが、Aランクの中でも最高難易度とも言われている。
近年発見された比較的に新しいダンジョンである。
「このダンジョンは少々やっかいでな。呪力がらみで難易度が高いのもそうだが、特に場所が悪いんだよ」
『邪龍の呪穴』はハイエアとローランドの境界領域にあるのだ。
そもそもの発見がハイエアとローランドの混合パーティによるものだったらしい。
両国の間で統治されていないため『無法地帯』などと呼ばれているのが境界領域だ。
その調査のために臨時で組まれたパーティが幸か不幸か発見してしまった。
「それ以来、そのダンジョンの所有権を巡って両国が論争を続けているのさ」
現在は年単位で交互に調査するという形に収まっているが、これは双方から派遣した冒険者同士が鉢合わせになり、最後には殺し合いにまで発展しかけた過去に起因するらしい。
そして現在の攻略権はハイエアが握っている。
「ダンジョンはこの町からもかなりの距離がある。どのような経緯で呪いが伝わってきたのかはまだ不明だが、おかげでローランドとしてはダンジョンを攻略する口実ができたワケさ。我が領土に危険が迫っているのだから調査する権利がある、ってね」
境界領域にあるダンジョンの所有権を手にすれば、それはそのままローランド領土の拡張にも繋がると言う。
ローランド帝国としてはこのチャンスを逃さずにクリアしたいと思っているらしい。
時期的には、もうすぐ攻略権がハイエアからローランドに移る時期でもある。
本来なら焦る必要などなく、攻略権が渡ってくるのを待てば良い。
だがローランドからすれば危険な要因が1つあった。
それがとあるパーティの存在だ。
なんでもハイエア王国に非常に優秀な冒険者パーティが現れたとかで、つい最近Sランクパーティにも昇格したらしい。
勇者を名乗るリーダーが率いていることから勇者パーティなどと呼ばれている。
そのパーティが『邪龍の呪穴』に挑むという噂があるのだ。
なんだか他人事ではない話だった。
おそらくは『黄金の薔薇』の事だろう。
確かにトランたちなら前人未踏のダンジョンだって攻略するだろうな。
ローランド側はそれより先に攻略しようと思って急いでいるワケだ。
「ハイエアからはまだ、攻略成功の知らせは届いていない。Sランクパーティが動き出す前になんとかしたいのさ。せめて調査だけでも行い、ハイエア側の動きを遅らせるのが今回の狙いだな」
ローランドの冒険者が調査中となれば、その間はハイエア側からは手出しできない。
なかなかに政治的なレベルの話だ。
「さりげなく責任重大だな」
「だからこそ君に頼むのさ」
サヴィニアが涼しい顔でさらりと言う。
相変わらずサヴィニアからの俺の評価が高すぎるな。
買いかぶりすぎだと思うのだが……。
「君はギルドにとっても貴重な戦力だよ。だからこそ本来ならこんなに危険な面倒ごとに巻き込みたくはないのだが、呪いがこの土地まで広がるのは避けたいからな。危険を排除できるならしてしまいたいのも本音なんだ」
「まぁ、やれるだけはやるさ」
ギルドマスターの直々の頼みとあっては断れないだろう。
冒険者としてこれからも世話になるわけだしな。
「助かるよ。ダンジョンまでの経路はこちらで手配してある。馬車を呼ぶか?」
「いや、足ならあるよ」
我が家の方が速いし、なにより快適だ。
「噂の城か。本当に君ってヤツは話題に事欠かないな」
「好きで目立っているわけじゃないんだがなぁ……」
依頼の内容は理解した。
サヴィニアができるだけ早期の解決を望んでいることも。
「とりあえず様子を見てくるとしよう」
俺はさっそくダンジョンに向かう事にした。
ちなみにスーは途中から俺の膝の上で丸くなっていた。
スーにはまだ難しい話だったようだ。
眠くなるのも無理はない。
*
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この時、ルードは知らなかった。
トランたちがすでに国王の指示により『邪龍の呪穴』の攻略に挑み、そして無残にも大失敗してパーティ全員が大怪我を負った事も、その責任を問われてBランクに降格までさせられていた事も。
そしてハイエア王国がその事実をローランド帝国に隠している事すらも。
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