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058:魔人の脅威②(追放サイド)


 少女の刺突剣(レイピア)が闇を切り裂くと、ダンジョンには光が戻りました。


「こんなところに人がいるとは驚きですわね……ご無事でして?」


「あ、ぅ……」


 女騎士のような恰好をした少女が尋ねてきますが、喉が震えて声が出ません。


「あら、どうやら魔力切れみたいですわね。ミグ、回復を頼みますわ」


「はいよー。よっと」


 続いて現れたのはローブ姿の少女でした。

 魔法使いのように見えますが、その手には大きな剣が握られています。


【魔力供給】(マナディバイド)


 ミグと呼ばれた少女の魔力が分け与えれました。

 魔力が回復して体が動くようになります。


「あ、ありがとうございます……!!」


「少ししか回復できなくてごめんねー。こっちも余裕ないからさー」


 ミグさんはそう言いますが、十分な魔力でした。

 これで「少し」だなんて、この人の魔力量はかなり豊富なのでしょう。


「私はリリルル。冒険者でしてよ。アナタの名前を聞いても良いかしら?」


 刺突剣を持った少女が名乗ります。


「えっと、『黄金の薔薇』(ゴールデンローズ)のパフです。いちおう、元Sランクパーティです」


 リリルルさんたちは首をかしげます。

 これでも『黄金の薔薇』はハイエアでは有名なパーティなのですが……。


「聞いたことがありませんわね。もしかしてハイエアの冒険者かしら?」


「そうかもねー。場所が場所だしー」


「え?」


 この人たちはローランド領の冒険者という事でしょうか。


 なぜここにローランド領の人が……。


「まあ良いですわ。今はそれどころではなさそうですし」


「うん。おしゃべりしてる暇はないかもねー」


 一度は姿を消した黒い影が再び人型を成していました。


 砕けた封印の水晶の中からリリルルさんたちの様子を窺うように首だけを伸ばしています。


 魔人は今まで、水晶から出てきてもいなかったようです。


 そんな……。


 絶望しかありません。

 つまり私たちは、この魔人が放つ魔力の気配だけで壊滅していたという事なのですから。


 ですがそんな圧倒的な化け物を前に、リリルルさんたちは怯んだりしませんでした。


「この場はワタクシたち『勇猛なる猪牙』(ラッシュタスク)が受け持ちますわっ!」


 魔人に剣先を突き付け、高らかに名乗りました。


 それを挑発と受け取ったのでしょうか。


 魔人の体がグニャリと変形し、リリルルさんに飛び掛かります。


「来ますわよっ!!」


「りょーかい」


 魔人のその身体が水晶から出た瞬間、ゾワリと全身に鳥肌が立ちました。



 これが魔人の本当の力……!!

 先ほどよりも更に濃密で強力な闇の気配です!!



 圧倒的な密度を持った闇がボコンと泡立つように膨れ上がり、子供のような姿から巨人のように変わりました。


 巨大化した拳がリリルルさんの魔力を込めた刺突とぶつかり、弾けます。


 魔人の体からは無数の腕が生え、それを今度はミグさんが大剣でまとめて薙ぎ払う。


 その隙にリリルルさんは魔人の本体に肉薄する。


 魔人もそれを迎撃するようにさらに鞭のような刃のような腕を伸ばします。


 それらは一瞬の出来事でした。


 1つ1つの攻防がAランク……いえ、Sランクレベルのモンスターとの激闘のようです。


「一気に仕留めますわよっ!! フィート、合わせてちょうだいっ!!」


「おうよ!! ぶっころ!!!!」


 もう1人、今度は格闘家のような軽装の少女でした。


 魔人に気づかれないように隠れて潜んでいたようです。


 両手に握られたダガーのような小さな剣が、リリルルさんを狙う魔人の迎撃を受けとめ、(さば)きました。


  そして…………


【疾風迅雷】(サンダーゲイル)!!」


 ズギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!


 リリルルさんの強烈な刺突が、空気を切り裂くような雷の轟音と共に魔人の中心部を吹き飛ばしたのです。


 リリルルさんの一撃のための一糸乱れぬ連携でした。

 トランさんたちとはまるで違う完璧なパーティとしての戦い方です。


 すごい……。

 これが本当の高ランクパーティの戦い……。


 私は思わず呼吸すら忘れて見入っていました。


「やったか!?」


「やってないねー」


「ですわね。逃げられましたわ」


 えっ?


 胴体を吹き飛ばされた魔人の体はサラサラと消え去っていきました。

 目の前の魔人は倒したハズです。


 先ほどまでの重苦しい気配も消えています。

 やっと恐怖から解放されたような気分でした。


「チィ、やっぱりかよ」


 みなさんがダンジョンの上を見上げました。


 あっ……!


 そこには地上まで続く大きな穴が開いていたのです。


 いつの間にできていたのか、全く気が付きませんでした。


「当然ですわね。魔人がこの程度なワケありませんでしてよ。今のは魔人の一部に過ぎませんわね」


「そうでなければボクらが死んでただろうけどねー」


「笑えねーっての」


 いつの間にか封印から逃れた魔人はここを去っていたのです。


 私たちは魔人どころか、その残滓にすら手も足も出なかったのです。


「本体に逃げられた以上、どこで被害が出るかわかりませんわ。急いで戻りますわよ!」


「りょーかい」


「おう、アタイも後輩たちが心配だぜ」


「さて、パフさんでしたね。ワタクシたちについてきていただきますわよ? アナタはこの件の重要参考人ですから」


 こうして私はリリルルさんたちに助けられ、無事にダンジョンを脱出する事ができました。


 ですがメイさん、シーンさん……そしてトランさんの姿はダンジョンのどこにもありませんでした。


「それにしてもこんな事態になってるとは思いませんでいたわ。やっぱりルードさえいてくれたら再封印までできたのに……ですわ」


「またルードの話ー? 好きすぎでは―?」


「な、なんでそうなりますの!? ワタクシはパーティの戦力として……!!」


「ほんとそれな。もう聞き飽きたんだが? というか話盛りすぎじゃね?」


「盛ってませんわよ!! ルードなら本当にやってのけますわよ!!」


「へいへーい」


 え?

 ルードさんって…………え?

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