053:もしかして……③
ゾンビでもわかる万能魔術学理論入門、通称「ゾンわか」。
それは100年以上昔に作られた魔術書だと言われている。
その著者の名は「アクアクックシ」。
年齢性別全てが不明の謎多き魔術師だ。
もし著者が生まれた瞬間、産声と同時にこの本を書きあげたとしても著者は100歳を超える年齢になる。
いや、いくらなんでもそんな天才はさすがにいないだろう。
「これはワシが産声と同時に書き上げた思い出の一冊というヤツだからな。気に入ってもらえてうれしいぞ?」
そんな天才いた!?!?
「いや、なんの冗談だ? いくらなんでも無理があるぞ」
そもそも目の前の少女が100歳は見えない。
普通なら老婆だ。
長寿で知られるエルフ種ならありえるだろうが、本の中でもアクアクックシは自身が人間であると述べている。
魔術理論も人間による人間のための理論であり、だからこそ俺の師となった。
だからあり得ない。
いや産声と同時に書き上げるのも無理なんだけどな。
「いやワシ、転生してるからな。なんて言うんだ? 転生にて二度目の産声を上げた瞬間のインスピレーション的な? 0から一瞬にして記憶が再構築されるまでのほんのわずかな煌めき的な……それで急いで書き上げたのよ。前世で自動書記セットしといて良かったわ~」
ちょっと理解が追いつかなかった。
転生なんてまだ誰もできていない未知の魔術だ。
理論上は可能だと言われて研究されているが、本当に実現できるような術式を完成させた魔術師はいない。
「転生魔術に成功した……?」
本当だとしたらそれ自体が魔術界における超巨大ニュースだ。
現代の魔術で不可能とされる3大魔術のうちの1つがすでに成功していたとなれば、目の前の少女の存在自体が魔術界の常識を覆すことになる。
「いや、失敗してるぞ? それで成長が止まってる。だから今もこんな体型だし、魔力もかなり劣化してる。あと日光に当たり過ぎると死ぬな。それからすぐめっちゃ眠くなるし……」
当の本人はそんな事には無関心らしい。
そしてなんだか吸血鬼みたいな事を言い出した。
「あ、ちなみに今はマリンって名乗ってるから。そこんとこよろしく」
「え? また転生を……?」
「いや、アクアクックシはペンネームだ。知らんのか? 作家とはペンネームで活動するものなのだぞ?」
「そ、そうだったんですか……」
なんか思わず敬語になってしまった。
いや、むしろ敬語で接するのが正解だろう。
なにせあのアクアクックシだ。
俺にとっての魔術の師匠。
育ての親といっても良いだろう。
もはやママだ。
ならば敬語くらい使うべきだろう。
それを怠るとはなんたる無礼。
「そう堅くなるなよ。ワシ、こう見えてめちゃくちゃすごい魔術師じゃん? だからみんなワシへの態度が堅苦しいんだよな。そういうの苦手なのよ? わかる?」
「わかる」
「いや順応はやいな!?」
「あ、すいません」
俺も敬語とかは苦手だからシンパシーを感じてしまった。
「い、いや、ぜんぜん気にしてないけど? ワシ、天才魔術師だし? 全然よゆー的な? 器がでけーから。心が海だから。だからマリンみたいな?」
「なるほど。さすがですね、師匠」
「さりげなく妙な呼び方するのやめろ?」
よく分からないけどアクアクックシが言うならそうなのだろう。
さすがです、師匠。
「と、まぁそんなわけだから本はやるよ。ここにある本なら好きな時に好きなだけ持ってけ? ワシ、しばらく眠るけど、起きたらまた連絡してやるよ」
師匠は再び大きくあくびをしたかと思うと、不意に接近してきた。
そして俺の顔をペタペタと触りはじめ、ささやいた。
「ワシ、お前の事けっこー気に入ってるから。名前は?」
吐息を感じるほどの距離。
至近距離で見ても傷や汚れをしらない綺麗な白い肌。
ほっそりとした首筋、腕……まるでよく出来た人形のようだった。
「あ、ルードです!」
「ルードね。覚えた。あと敬語やめろって」
「わ、わかった」
やべ~!
アクアクックシが俺の名前おぼえてる!
すごくね!?
テンションあがってきた!!
ていうかこの大人の余裕だよ。
子供の体だと思ってたけどよく見たらなんか大人の色気? みたいなの感じるわ。
かっけぇ~~~~~!!
ていうか転生とかマジパネェ~~~!!
マジ師匠~~~~~~~~~~~~~~~~~!!
「あ、あの、ご主人さま!! わたしの方がご主人さまを気に入ってると思います!?」
俺が秘かに興奮していると、それを遮るようにスーがズイっと俺の前にでてきた。
頬をプクっと膨らませて、なんだか嫉妬しているようだ。
可愛い。
いやいや、憧れのアクアクックシを前にデレデレしすぎたかな。
あとちょっと俺のキャラが崩壊しかけていた気もするな。
気をつけよう。
ご主人様としての威厳を保たねば……。
「おう、そうだな。よしよし」
「あ、あの、今は子ども扱いしちゃダメなのです……! ふにゃあ……」
そうは言っても頭を撫でられるのには耐えられないようで、スーは気持ちよさそうに目を細めたのだった。
「な、なんじゃそれは……」
そんなやり取りを見ていた師匠が急に震え出した。
そしてダン、と床を蹴った。
子供の姿からは想像もできない身のこなし。
そして一瞬にしてスーとの距離をゼロにした。
「なんじゃその可愛い生き物はああああああああああああ!?」
「ふええええええええええええええええええええええええ!?」
スーの可愛さを前に、師匠のキャラも一瞬にして崩壊したのだった。
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