050:薬草とゾンビボア②
「なるほど……呪力に侵されて巨大化、狂暴化したモンスターか」
「というかAランク相当のモンスターを1人で討伐されたんですね……ルードさんならそれくらい余裕で倒せそうではありますけど」
これまでの出来事を説明するとサヴィニアは深刻そうな表情になった。
エナンの笑顔にも緊張が走る。
呪力とはそれだけ厄介なモノなのだ。
「Aランクと言っても、俺が総合的な危険度を勝手に判断しただけだ。動きも単調で討伐するだけなら簡単な相手だったからな」
「君からすればそうなんだろうな。だが普通の低ランク冒険者ではそうもいかない。エナン、すぐにこのエリアの依頼を停止しよう。特に低ランク向けの依頼は急いでくれ」
「わかりました」
エナンは慌ただしくカウンターに戻って行った。
それを見届けて、改まった様子でサヴィニアが口を開く。
「さて、この状況……君ならどう判断する?」
専門家でない俺の意見など聞かれても困るが、とりあえず今わかる事を話してみる。
「呪力の大本は森か、さらに奥にある。早急に原因の解明をしたほうが良いだろうな。今は俺の封印魔術で抑制しているが、それも簡易的なモノだから長くは続かない」
「当たり前のように言うが、君は封印魔術まで使えるのか……」
「専門家には劣るさ。だからこれを持ってきた」
そうしてアイテムボックスから封印したゾンビボアの頭部を取り出す。
「これは……!!」
冷静なサヴィニアが目を見開いて驚く。
呪力で巨大化したゾンビボアは頭部だけでもかなりの大きさだ。
「呪力は封印しているから心配ない。原因解明のヒントになるかと思って保管しておいたんだ」
【呪力封印】の結界に守られているため呪力が漏れ出すことはない。
「それからこっちは解呪済みの肉片。これも何かに使えたら使ってくれ」
「はぁ……本当に規格外だな、君という存在は。なにが専門家に劣るって? こんな完璧な封印は初めて見るくらいだぞ?」
「そうなのか?」
サヴィニアはなぜか呆れたようにため息をついた。
「いや、そもそも……その大きさを圧縮して収納できるアイテムボックスにも突っ込むべきなのだろうが、今はそれどころではないな。というかさり気なく解呪までしてるし。いや、もう君なら驚かないよ」
なんだかエナンと似たような事を言われてしまった。
封印術に関しては俺も専門家にあったことがないから基準がわからないのだ。
魔術書を読んで覚えただけだからそこまでレベルの高い魔術ではないと思っていたのだが。
ちなみにスーはというと、難しい話が続いたからかウトウトし始めていたのでそのまま俺の膝の上で寝かしつけている。
眠ってくれているおかげでグロテスクな物を見せずにすんだ。
「そもそも当たり前のようにアイテムボックスを使う事だって普通ではないから、覚えておくと良い。君の経歴を考えれば、変に目立ちたくはないだろう」
「そうだな。気を付ける」
「それにしてもすごいな……これだけ近づいても全く呪力を感じない。完璧な結界になっている」
サヴィニアは再びメガネをかけてからゾンビボアを観察した。
「たしかに呪力の影響で変形しているようだが、森に生息するワイルドボアと一致する特徴があるな……問題は呪力の出所か」
「現場にも呪力は残ってる。今は簡単な封印をほどこしているが、そこから辿る事もできるはずだ」
「……わかった。ギルドで調査してみよう」
「あぁ、なにか協力が必要ならいつでも言ってくれ」
「そうだね……おそらく、後で正式に協力の依頼を出すと思う。今日のところはここまでにしよう。その子を休ませてやると良い」
そう言ってサヴィニアは安らかに眠っているスーを見た。
今日は薬草採集でがんばってくれたからな。
その疲れもあったのだろう。
「そうさせてもらうよ」
そう言って俺はスーを起こさないようにそっと抱きかかえ、席を立つ。
「それから、この件に関して特別報酬を出す。受け取ってくれ」
帰り際、サヴィニアがそう言ってきた。
「いや、別にいらんが」
「そうはいかない。そのまま放っておけば……いや、ルード以外がコイツに遭遇していたら無事では済まなかっただろうし、被害も広がっていたのは間違いない。だからこれはギルドからの感謝の気持ちだ。受け取ってもらわないとこちらの立場がないんだよ」
「そうか。わかった」
ギルドマスターというのも大変そうだ。
別に金のためにやったわけではないのだが、くれるというのなら貰っておこう。
そういえば、いろいろと買いたいものもあるしな。
「ルード、ありがとう。君がこのギルドに来てくれて本当に良かったよ。君の魔術は何というか……神がかっているな」
最後にサヴィニアはそう言って深く頭を下げたのだった。
やれやれ、大げさだな。
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