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004:新しい一歩①

「…………マジか」


 部屋に戻ると、中が空っぽになっていた。

 棚とか鞄の中とかではなく、部屋の中身が空っぽになっていたのだ。


「そんなにか……」


 まかさ全部売り払われたのか?

 ……と考えて入口で固まっていると、そこに大家さんが通りかかった。


「おや、ルードくんじゃないか。やっと帰ってきたんだんね。おかえり。それにしても急だねぇ」


「あ、ただいま……え?」


「え、って。旅に出るんだろう? 寂しくなるよ。この街では珍しいまともな冒険者くんだったのに……。あ、荷物ならロビーにまとめておいたからね」


「あ、はい。ありがとうございます。お世話になりました」


 おそらくはトランがそう説明したのだろう。

 最後には「もう顔も見たくない」と言っていたが、ここまでやるとはな。


 余計なことを言っても仕方がない。

 大人しくこの街から出ていくしかないだろう。


 ロビーに行くと、やけにこじんまりとした俺のカバンがあった。

 荷物がやけに少ないが……。


 大家さんを探して聞くと「それだけだよ?」と言われた。

 おそらく金になる物は先に売られていたのだろう。


「まぁ、良いか。もう思い出したくもないしな」


 俺の所持品はほとんどがパーティメンバーを補助するための魔道具だった。

 見れば嫌でもこれまでの事を思い出していただろう。


 そうでなくても思い出してしまうのだから……


「いや、もう忘れたはずだろ。しっかりしろ、俺」


 迷いを払うように頬をバシバシ叩いてみると、意外と頭がスッキリした。


「行くか」


 この宿すら俺にとってはパーティに所属していた思い出の宿だ。

 早く離れてしまおう。


 小さなカバンを手に、新しい一歩を踏み出すのだ。


 さよなら、『黄金の薔薇』(ゴールデンローズ)……さよなら、勇者トラン……。


「あ、そうか。もう、これも解除して良いんだな」


 最初の一歩を踏み出す前に、俺はいつも装備していたブレスレットを外す事にした。


 これは俺がパーティメンバーたちのために用意した魔道具だ。

 いつも装備していたから売られずに手元に残った、俺の最後の魔道具になる。


 トラン、スフォウ、メイ、シーン……もう「元」になってしまったパーティの仲間たち。

 彼らを補助する魔術のサポート道具である。


 それぞれに1つの魔石が備え付けられた4つのブレスレットだ。


「なつかしいな……」


 Fランクから始まったパーティがDランクにまで上がった頃、盗賊から夜襲を受けた事があった。

 駆け出しパーティのランクがあがり、所持金が増えたところを狙うという盗賊集団だった。


 その時は偶然にも俺が事前に敵襲を探知できたため誰も傷つくことなく済んだが、一歩間違えれば誰かが命を落としていたかもしれない。

 相手の盗賊たちはそんな非道なヤツらだった。


 それ以来、俺は基本的な強化用の補助魔術を常時発動するようにした。

 術式が複雑になるためかなりの集中力を必要とするし、大量の魔力を消費し続けるため最初は弱い補助しか継続状態にはできなかった。

 だが5年近くやり続け、研究を重ねた事で今ではかなり強力な補助魔術にまで成長できていた。


 その高難易度の魔術を補助するために作った魔道具がこれだ。


【解放】(リリース)!!」


 俺は4つのリングに魔力を流し込む。


 パァン!! と、魔石の中に圧縮されていた魔術式があふれ出して強烈な輝きを放ち、そして次の瞬間には消え去っていった。

 残されたのは魔石を失ったブレスレットのリングだけだ。


 それで俺の補助魔術は完全に解除された。


 呪いにも近いこの魔術を解除する方法はこのブレスレットを破壊する事だけ。

 あえてそういった制約をかける事で魔術の効果を増幅していた。


 ある意味で俺の魔術の起源とも言えるだろう。

 俺はこの魔術の研究のために様々な魔術書を読み込み、そして魔術の幅を広げていったのだ。


「今度こそ、本当にさよならだな」


 仲間を守るために研究を重ねた俺の魔術。

 いつの間にか、それすらも余計なお世話になっていたとは思わなかった。


 だが冷静に考えれば分かる事だ。

 時間と共に成長しているのは俺だけではないのだから。


 俺が気づかない間にトランたちの能力も成長していたのだ。

 補助魔術など必要ないくらいのSランク冒険者として。

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― 新着の感想 ―
[一言] 本当に必要ないのかな? 常時発動していたら、これが自分の力なんだ、と勘違いしていてもおかしくない。 この後の転落が、楽しみ!
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