037:パーティ恐怖症②
ギルドでも期待のAランクパーティのリーダー、リリルルが顔面にゲロを吐きかけられるという事件によりギルドは一時騒然となったらしい。
だがゲロった本人である俺は気絶。
それをもろに浴びたリリルルも気絶。
エナンたちが場を納めて俺たちを休憩室に運んでくれたらしい。
気づけば体まできれいにされていた。
リリルルも騎士の鎧からドレスのような服装に着替えている。
目覚めると同時に土下座をキメた俺だが、リリルルは意外にも怒ってなどいなかった。
リリルルは見るからに高貴な感じで、というか普通なら誰だってゲロなんかひっかけられたら絶対に怒ると思ったのだが……
「先ほどは『パーティ』という単語に反応していたように見えましたけど、なにか理由があるのでして?」
リリルルはやさしい声でそう問いかけた。
さすがはAランクパーティのリーダーという事だろう。
よく見ている。
外面だけでなく、心の中身まで。
黙っているのも失礼だと思い、俺は全てを話した。
「もう聞いてるだろうけど、俺はハイエアで冒険者をやっていたんだ」
Sランクパーティに所属していた事。
そして役立たずとして追放された事。
最後には冒険者資格すら剥奪された事。
追放からローランドで冒険者を目指したことまで、その全てを説明した。
「アナタを追放っ!? そんなのありえませんわっ!! これほどの逸材を手放すなんてどうかしてますのよっ!? いったいどんな思考回路してるんですの? そのパーティのメンバーは!?」
「まったくその通りなのです! ご主人さまよりすごい人はいないのです! ご主人さまは最高の魔術師なのです!!」
「私もルードさんレベルの魔術師さんは見たことないですけど……ハイエアには不思議なパーティさんがあるんですね。代わりの人などまず見つからないと思うのですが」
「正直、私にも理解できないな。君ほど適応できる人間は中々いないと思うが……ルードの力が必要ないほどのメンバーか、あるいは力を過信しただけのただの無能か。前者である確率は限りなく低いと思うぞ?」
話を聞いたみんなは追放された事を黙っていた俺に怒るのではなく、むしろ追放したトランたちに怒っていた。
なぜかリリルルを警戒している様子だったスーは一瞬にして意気投合している。
冒険者の事情にくわしくないスーだけでなく、ギルドの人間であるエナンやサヴィニアも同じ意見だったのだから少し驚いた。
そう言ってもらえるだけでもなんだか気持ちが軽くなる。
「信じていた仲間に捨てられた。それが心の傷……トラウマになっているのでしょうか」
「だからパーティを組もうとすると吐いて気絶してしまうってことですの?」
「そのようだな。パーティ恐怖症ってところか」
「ご主人さま、かわいそうなのです」
まさかそんなことになっているとは気づかなかった。
スーのトラウマを治してやりたいだなんて思っておきながら、自分にも深いトラウマがあったなんて。
スーに頭をポンポンされる。
これではどっちがご主人さまか分からないな。
「話はわかりましたわっ。今日のところは出直します。パーティ加入の話はまた次の機会にしましょう」
「えっ? でも……」
この状態ではパーティに加入するの何て無理だ。
リリルルもそれは理解しただろう。
それにAランクパーティなら俺なんかよりもっと優秀な人材が集まる。
わざわざこんな状態の俺を選ぶ必要なんてないのだ。
「ワタクシはリリルルっ! 欲しい物は全て手に入れますわっ! ルード、アナタもねっ!」
立ち上がったリリルルが俺を指さした。
強い意志を秘めたまっすぐな紅の瞳にはまだ俺の姿が映っている。
「卑屈になるのはおやめなさい! ワタクシが欲しいのはルード、アナタですのよっ? Aランクパーティに加入する意思があるのなら、もっと自分に自信を持ちなさいっ! 少なくともワタクシは認めましたのよ? アナタにはAランクに相応しい……いやそれ以上の実力があるのだとっ!!」
そうだ。
昔のトラウマに負けているようではSランクなんて目指せない。
俺は追放されて、生まれ変わった。
これからは勝手に、好きに生きてやると決めたのだ。
「あぁ、そうだな。これくらい、乗り越えないとな」
「そ、それに……ワタクシにあんなものをぶっかけるなんて、アナタが初めてですのよっ!? ワタクシに嘔吐物をぶっかけた責任は取ってもらいますからねっ!!」
「それは本当に悪かった……」
いや、なぜそこで赤面する?
「とにかくっ!! ワタクシは必ずアナタをパーティに引き入れてみせますのよっ!」
そしてリリルルは勢いよく俺の手を掴み……
「あっ……」
「えっ……?」
「オエエエエエエエ…………」
「ぎゃーーーーですわっ!!」
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