031:冒険者登録テスト 実力測定②
「じゃあ、やるぞ」
「どうぞ!」
これはありがたいチャンスだ。
ゴールデンスライムなんてレアモンスター、狙って出会えるものではない。
もしも実際にダンジョンで遭遇した場合は素直に物理攻撃するつもりだったけど、こうして安全に魔術を試せるなんて願ったり叶ったりだ。
魔術師の天敵と呼ばれる事もあるモンスターに俺の魔術がどれくらい通用するのか……
1回で良いから試してみたかったんだよな。
「って、え? あ、あの……ルードさん?」
「ん? どうした?」
「いえ、杖は使わないのですか?」
「あぁ、杖は不慣れだからな……もしかして使わないとダメか?」
「え? いえ、別にそのようなルールはないですが……」
「そうか、良かった。だったらいつも通りに素手でやるよ」
不慣れな事をして失敗したくないからな。
「ん? え? 素手? いつも杖なしで?」
「そうだが? 手がふさがると不便だし」
雑用係は地図を確認したり荷物を持ったりサポート用の他の魔道具を使ったりと忙しかったからな。
両手は常に空けておくのが雑用係の基本なのだ。
「へ、へぇ~……?」
さて、何の魔術を使おうか。
たしかゴールデンスライム自体には弱点属性はなかったハズだ。
だったら単属性でシンプルな破壊力に優れている火魔術か。
メイの得意技でもあった【火球】……いや、ターゲットが単体ならより密度の高い【火矢】が妥当なところか。
威力なら【獄炎球】が圧倒的だろうけど、上級魔術だからな。
シンプルな術式の基本魔術の範囲だと、やはり【火矢】がベストだな。
「『我が身に宿りし内なる火よ、今こそ顕現せよ』……」
今まで攻撃魔術の研究はあまりしてこなかった。
常にパーティのサポートに使える魔術にばかり気を使っていたからだ。
特に火の魔術はサポートに使える魔術が少なかった。
魔術の知識はあるが、術式の細部まで調整したりはできていない。
だから今ここで行う。
「『その荒ぶりを矢と変えて風を焼き焦がし貫け』……」
詠唱による術式構成の補助を開始。
魔力の流れを調整。
同時に火属性への魔力の適応。
そして俺の魔力に対する術式の最適化を実行。
一部術式の構成を変更。
制御力は無視して威力重視にする。
術式の調整、完了。
魔力圧縮、術式多重展開。
過剰な魔力を圧縮して術式に適用できる限界値を上昇させ、それに耐えられる術式構造を追加。
これくらいやっても基本魔術なら制御できるだろう。
その全てを指先へ集め、解き放つ。
「あ、やっぱりなんかすごくイヤな予感が……ルードさんちょっと待っ――」
「【火矢】……えっ?」
エナンの声は、ほんの一瞬だけ遅かった。
すでに術式は完成し、魔法は放たれた。
俺の指先から赤い閃光が走る。
その光はまっすぐにファイブくんを貫いて……
ドッゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!
「ファイブくぅーーーーーーーーーーーーーーーーん!?!?!?!?!?」
ファイブくんは爆発四散した。
巻き起こった衝撃波が中庭を揺らす。
スカートがめくれてパンツが見えてもエナンはそれどころではない。
「あ、あの……今のって基本魔術ですか? ……上級魔術ではないですよね?」
「ん? 基本の【火矢】だが」
魔力には個人差がある。
だから術式を自己流に再構成するのは一般的な行為だ。
今回は威力を上昇させるために色々と細工したが、これくらい魔術師ならみんなやってるだろう。
「で、ですよね……あはは……」
跡形もなくなったファイブくんを見つめたまま、エナンが震える手で丸を作った。
「ご、合格ですぅ……」
この娘、笑いながら泣いている……!?
さすがだ、受付嬢……!!
「いや、なんか……ごめん?」
「あは……あははは…………」
うーん、完全にやりすぎたな。
威力重視の術式に再構成したとはいえ、俺自身もここまで威力が出せるとは予想外だった。
これなら攻撃魔術でも戦える。
俺の戦闘スタイルの幅を広げられる良い経験になったな。
とはいえ、このままではギルドが火事になってしまうな。
そうなる前に水魔術で鎮火しよう。
いろいろ燃えてしまっている。
というか消し炭になっている。
これ、請求されないよな……?
エナンが全力でやって良いって言ったんだしな?
急いで消火する俺。
笑顔のまま泣くエナン。
もはや地獄絵図となる中庭で、スーだけは目をキラキラさせていた。
「さすがご主人さまなのです!! やっぱりご主人さまはすっごいのですーーー!!」
* * * * *
受験者:ルード
観測者:エナン
魔術実力:∞
実力測定:合格
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