015:スーは契約されたいのです②
「わたしを全部、からだもこころも……ご主人さまの物にしてください……」
スーの人形のようなきれいな肌が月明かりにだけ照らされている。
獣人特有の耳と尻尾が神秘的な輝きを放っているみたいにみえた。
一糸まとわぬ生まれたままの姿で、スーは少しだけ恥ずかしそうにうつむく。
「おねがいします……なのです。本当のご主人さまになってほしいのです……」
スーは俺と本当の奴隷契約を結びたいらしい。
決意に揺れる青い瞳は本気だった。
この手錠をかけ、血を交わし、魔力を混ぜ合わせ、契約の印を刻む。
それはつまり、永遠に俺に服従を誓うという事だ。
手順は知っている。
世界中の魔術を調べたから。
でも俺はそんなつもりはない。
スーを本気で奴隷にするつもりなんてないのだから。
「ごめん。それはできない」
「あ……」
でも、俺に拒絶されて絶望するスーの顔も見たくはなかった。
俺はこの少女の眩しい笑顔を知ってしまったから、それを曇らせたくはなかったんだ。
スーがなんでこんな事を望むのか、なんとなく分かる気がした。
多分、俺もそうだったから。
トランに拾われてから、パーティだけが俺の居場所だと思っていた。
だからその場所にしがみついた。
居場所を失うのが怖かったからだ。
今のスーも同じだ。
信用できる人間のそばにいたい。
そしてそのための方法をスーは1つしか知らなかった。
それが奴隷契約なのだろう。
主と奴隷。
そんな歪な関係しか思いつかなかったのだ。
「だから、その代わりに……」
奴隷契約の代わりに、俺はスーのおでこに小さくキスをした。
以前、魔術書と一緒に読んだ本で見たことがあった。
獣人には独自の文化がある。
これもその1つで、たしか獣人同士のスキンシップではこれが「友情の証明」みたいなヤツだったハズだ。
「これじゃあダメか? 俺はスーと、奴隷なんかよりもっと良い関係になれると思うんだが」
スーに奴隷ではなく、友としての居場所を作ってあげようと思ったのだ。
「~~~っ!!」
スーは顔を真っ赤にして足をジタバタした。
「あ……い、いやだったか?」
「イ、イヤなんかじゃないです! イヤなわけないなのです!」
力強く否定する。
確かに耳も尻尾も元気よくピョコピョコしているから、嫌じゃないのは嘘ではなさそうだ。
「きゅ、急すぎ……なのです。急にランクアップしすぎなのです!」
ん? ランクアップ?
まぁ……確かに「奴隷と主人」よりは「友達同士」の方が上のランクの関係とも考えられるか。
面白い考え方をするものだ。
「あ、あの……でしたら、わたしからも……」
「うん。良いよ」
俺はしゃがんで、スーがおでこに触れられるように前髪をかきあげた。
「……ん? どうした?」
なぜかジーっと見つめられていた。
火照った表情で俺の顔を見つめている。
「あ、やっぱり恥ずかしいか。獣人の文化とはいえ、女の子からキスなんて……」
「そ、そんなことないのです!」
といって、スーは勢いよく俺に近づいて……「チュ」と唇にキスをしたのだった。
「 !? 」
「えへへ、これがわたしのお返事なのです……」
ん、んん……!?
おでこじゃない、だと……!?
「あらためて……よろしくお願いします、なのです。わたしのご主人さま……♡」
だからご主人様じゃないんだけど……まぁ、気にしないでおくか。
なんだかスーが幸せそうだし、これで良いと思う。
呼び方くらい好きにさせてあげよう。
こうして俺に、スーという不思議な友達ができたのだった。
*
*
*
たくさんの本を読んできたルードにもまだ知らない事はある。
例えばそれは、獣人の間でも種族によって様々な文化があるという事。
スーの種族では「男性から女子への口づけ」に様々な意味が込められている。
手の甲、足の先、背中、腹、そしておでこ、ほっぺ、くちびる……すべてに違う意味があるのだ。
そしてルードが「友達の証明」のつもりで行った「おでこへの口づけ」が意味するのが「求婚の予約」である事も、もちろんルードは知らなかった。
同じように「女子から男性への口づけ」には返答の意味が込められている。
スーが行った返答の意味は……「いずれ貴男に全てを捧げます」。
(ご、ご主人さま……大胆すぎるのです! でも、すっごくうれしい……なのです。お顔もカッコ良すぎです! ステキすぎて見惚れてしまったのです……というかファーストキッスしてしまったのです~!!)
なんて考えてスーが1人で興奮しまくっていた事も、もちろん気づいていなかったのだった。
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