表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/84

015:スーは契約されたいのです②


「わたしを全部、からだもこころも……ご主人さまの物にしてください……」


 スーの人形のようなきれいな肌が月明かりにだけ照らされている。

 獣人特有の耳と尻尾が神秘的な輝きを放っているみたいにみえた。


 一糸まとわぬ生まれたままの姿で、スーは少しだけ恥ずかしそうにうつむく。


「おねがいします……なのです。本当のご主人さまになってほしいのです……」


 スーは俺と本当の奴隷契約を結びたいらしい。

 決意に揺れる青い瞳は本気だった。


 この手錠をかけ、血を交わし、魔力を混ぜ合わせ、契約の印を刻む。

 それはつまり、永遠に俺に服従を誓うという事だ。


 手順は知っている。

 世界中の魔術を調べたから。


 でも俺はそんなつもりはない。

 スーを本気で奴隷にするつもりなんてないのだから。


「ごめん。それはできない」


「あ……」


 でも、俺に拒絶されて絶望するスーの顔も見たくはなかった。

 俺はこの少女の眩しい笑顔を知ってしまったから、それを曇らせたくはなかったんだ。


 スーがなんでこんな事を望むのか、なんとなく分かる気がした。


 多分、俺もそうだったから。

 トランに拾われてから、パーティだけが俺の居場所だと思っていた。


 だからその場所にしがみついた。

 居場所を失うのが怖かったからだ。


 今のスーも同じだ。


 信用できる人間のそばにいたい。

 そしてそのための方法をスーは1つしか知らなかった。


 それが奴隷契約なのだろう。


 主と奴隷。

 そんな歪な関係しか思いつかなかったのだ。


「だから、その代わりに……」


 奴隷契約の代わりに、俺はスーのおでこに小さくキスをした。


 以前、魔術書と一緒に読んだ本で見たことがあった。

 獣人には独自の文化がある。

 これもその1つで、たしか獣人同士のスキンシップではこれが「友情の証明」みたいなヤツだったハズだ。


「これじゃあダメか? 俺はスーと、奴隷なんかよりもっと良い関係になれると思うんだが」


 スーに奴隷ではなく、友としての居場所を作ってあげようと思ったのだ。


「~~~っ!!」


 スーは顔を真っ赤にして足をジタバタした。


「あ……い、いやだったか?」


「イ、イヤなんかじゃないです! イヤなわけないなのです!」


 力強く否定する。

 確かに耳も尻尾も元気よくピョコピョコしているから、嫌じゃないのは嘘ではなさそうだ。


「きゅ、急すぎ……なのです。急にランクアップしすぎなのです!」


 ん? ランクアップ?


 まぁ……確かに「奴隷と主人」よりは「友達同士」の方が上のランクの関係とも考えられるか。

 面白い考え方をするものだ。


「あ、あの……でしたら、わたしからも……」


「うん。良いよ」


 俺はしゃがんで、スーがおでこに触れられるように前髪をかきあげた。


「……ん? どうした?」


 なぜかジーっと見つめられていた。


 火照った表情で俺の顔を見つめている。


「あ、やっぱり恥ずかしいか。獣人の文化とはいえ、女の子からキスなんて……」


「そ、そんなことないのです!」


 といって、スーは勢いよく俺に近づいて……「チュ」と唇にキスをしたのだった。


「 !? 」


「えへへ、これがわたしのお返事なのです……」


 ん、んん……!?

 おでこじゃない、だと……!?


「あらためて……よろしくお願いします、なのです。わたしのご主人さま……♡」


 だからご主人様じゃないんだけど……まぁ、気にしないでおくか。


 なんだかスーが幸せそうだし、これで良いと思う。

 呼び方くらい好きにさせてあげよう。


 こうして俺に、スーという不思議な友達ができたのだった。




 *


 *


 *




 たくさんの本を読んできたルードにもまだ知らない事はある。


 例えばそれは、獣人の間でも種族によって様々な文化があるという事。


 スーの種族では「男性から女子への口づけ」に様々な意味が込められている。

 手の甲、足の先、背中、腹、そしておでこ、ほっぺ、くちびる……すべてに違う意味があるのだ。


 そしてルードが「友達の証明」のつもりで行った「おでこへの口づけ」が意味するのが「求婚の予約」である事も、もちろんルードは知らなかった。


 同じように「女子から男性への口づけ」には返答の意味が込められている。


 スーが行った返答の意味は……「いずれ貴男に全てを捧げます」。


(ご、ご主人さま……大胆すぎるのです! でも、すっごくうれしい……なのです。お顔もカッコ良すぎです! ステキすぎて見惚れてしまったのです……というかファーストキッスしてしまったのです~!!)


 なんて考えてスーが1人で興奮しまくっていた事も、もちろん気づいていなかったのだった。

【応援よろしくお願いします!】

 「面白かった! 続きが気になる!」と思ったら

 下にある☆☆☆☆☆から作品への応援お願いいたします。

 面白かったら★5、つまらなかったら★1など正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!

 ブックマークもいただけると本当にうれしいです。

 執筆を続ける力になりますので、なにとぞお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ご主人様(事実)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ