014:スーは契約されたいのです①
死者の埋葬を終えて、修理した荷馬車に揺られて近くの森までやってきた。
荷馬車はそのままテント代わりに使えそうだから、まずは食料の調達をしよう。
寝る場所が確保できたのは不幸中の幸いってヤツか。
「スーはニクとサカナ、どっちが好きなんだ?」
「あ、えっと……スーはパンとミルクしか食べたことがないのです」
うん、悲しい。
「じゃあ、どっちも食べてみるか。よし、獲ってくる」
「あ、わたしも行きます! わたしが奴隷で、ご主人さまはご主人さまです! だから手伝います!」
う、うーん?
よく分からないが、とにかく手伝いたいらしい。
もしかしたら、働かないと怒られると思っているのだろうか。
そんなことはしないし、そもそも奴隷になんてならなくても良いのだけど……。
まだトラウマが残っているのかもしれないな。
「わかった。一緒に行くか……でも手伝うなら、邪魔だな。それ」
スーの両手をふさぐ手錠は奴隷の証でもある。
奴隷契約の一部になっているようで、奴隷や第三者には外せない。
俺が外そうと思うなら、まずはスーの奴隷契約そのものを破棄する必要があるだろう。
「あ、でもこれは……」
もちろん奴隷契約を第三者が勝手に解除する事など許されない。
奴隷商人が死んでいるのに、スーの奴隷契約が解除されていない。
これはつまり、スーはすでに買い付けが終わっているという事だ。
買い手との奴隷契約はもう終わっていて、あとは本当に引き渡すだけの状態だったのだろう。
主は商人ではなかったのだ。
この形態での売買は、たいてい貴族相手に行われる。
それを破棄するなど、バレたら重罪だな。
でも、もう決めている。
俺は勝手に、好きに生きると決めたのだから。
「【契約解除】」
バチン!! バチバチバチ!!
どす黒い光を放つ闇の魔術式が手錠から展開され、それを俺も闇魔術にて相殺していく。
それは魔術と言うよりは呪術の類だった。
貴族が商売相手だからか、かなり厳重な契約だ。
絶対に逆らわないように何重にも術式が重ねられている。
恐らくは1人で作った物ではない。
組織ぐるみで複雑で堅牢に作り上げられている。
普通の魔術師ならとても解除などできないだろう……俺でなければ。
俺はSランクパーティの魔術師だったんだ。
Aランクまでのあらゆるダンジョンで罠の解除から呪いの解除までなんでもやってきた。
仲間たちをもっとも安全なルートで攻略させるために、なんども無理やりに新しいルートを開拓してきたんだ。
……もっとも、それが評価されることはなかったけどな。
だから得意なんだよ。
なにかをこじ開ける事ってのは。
ガチャ……ン。
「えっ……!!」
なんとか解除できた。
手錠はスーの手をスルリと抜けて地面に落ちる。
同時にスーの胸に残っていた奴隷の印も消えていく。
「ふぅ……外れたぞ。これで本当に自由だ」
「あ、ありがとうございます!! すごい……商人さんがどんな魔術師にも絶対に解けないって言ってたのに……」
商人とは奴隷商人の事だろう。
おそらく「絶対に解けないから逃げても無駄だ」とでも言って脅していたのだろうが、この世界に絶対なんてないんだよ。
物体も、魔術も、それ以外に……絆みたいなものだってな。
まぁ、パーティの絆なんてものは最初から俺の勘違いだったんだけど。
おっと、ダメだダメだ……。
こうやってすぐ思い出す悪い癖を早く抜かないとな。
「気にするな。手伝ってもらうなら両手が使えた方が良いってだけだから」
「い、いえ……手錠だけじゃなくて、わたしの病気やケガも治してくれました! 不治の病で、呪いみたいなものだって言われてて、絶対に治らないって教会の偉い人もあきらめて……それで、それで村から捨てられたわたしなのに……」
スーが自分の右の頬に触れる。
初めて見た時にはひどく爛れていた部分だが、今は綺麗でやわらかそうな白い肌になっている。
辛い事や、悲しい思い出があふれかえってきたのだろう。
まだ心の傷は完全には治せていないみたいだ。
俺はそんな暗い過去を少しでも塗り替えてあげたくて、スーの髪をやさしく撫でた。
「あっ。それ、好き……なのです……」
スーがうっとりと目を細め、その小さな身体を俺に預けてくる。
「それに、こんなかわいいお洋服も用意してくれました。盗賊からも助けてくれました。ご主人様はわたしの命の恩人です! わたしを変えてくれた……わたしの救世主さまなのです!!」
「そんな大層な者じゃないさ。俺はただの魔術師だ。スーは、本来の姿に戻っただけだよ」
「ご主人さまはスゴすぎます。普通に使っている魔術も、わたし見たことないものばっかりなのです。……すごすぎて、なんだか遠く感じるのです」
スーは俺から離れると、魔力を失った奴隷の手錠を拾い上げた。
そして着ていた服を丁寧に脱ぎ、足元に置いた。
「だから……ちゃんと、わたしをご主人様の物にしてほしい……なのです」
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