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金曜日の夜

作者: 杉将
掲載日:2021/09/20

 クラブで踊りまくった女に水を渡すのが俺の仕事だ。今日も最高だったよ、調子はどうだい、いい尻だね、俺は女に睨まれる。女というのは清楚で、謙虚で、オナラもしない、ここではそういう幻想を簡単に打ち砕いてくれる。おい、ちょっと、目だけの合図、俺が女達から名前で呼ばれることはない。こんなところで働き続けるなんて、マゾなのかもしれないと思う。

 俺の前で裸になっている女が、酒を持ってこいという。俺はその裸を見て、何も感じない。テレビで裸族を見ているような感覚だ。俺はフロアに出て、バーテンに酒を頼む。ガンガン鳴っている音楽の中、男が女に声を掛け、腰に手を回しているのを見る。バーテンが瓶に入った酒を俺に渡す。こういう時には瓶の酒を渡すことを、バーテンは心得ている。俺はそれを受け取って、女達の元に戻る。

 俺が戻ると、何で私の酒がないのかと、何人もの女達が騒ぎまくる。俺は一人の女に酒を渡し、またフロアに戻る。背後から要領の悪い男だと罵られながら。

 俺がまたフロアに顔を出すと、バーテンはやれやれという顔をした。俺は持てるだけの酒を出してくれと頼んだ。カウンターの、荷物もまともに置けないような机に肘を掛けて、酒を待った。床に散っていた汗だか酒だか分からない水滴を、靴で踏んだ。

 バーテンが気を利かせて、ショットグラスを俺の前に置く。俺はそれを一息に飲んで、ライムを齧る。持てるだけの瓶を指に挟んで、また、女達の元に戻る。

 俺が戻ると、もう何人かの女はいなくなっていた。俺の渡した酒がヌルいと一人の女が言った。汗で髪が額に張り付いている。女からは香水と汗の混ざった匂いがしている。

 俺の渡した水が、テーブルの上に、床に、化粧台の前に、転がっている。太い芋虫みたいだ。朝方、その水を処分することが俺の仕事になるだろう、と思った。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 「テレビで裸族を見ているような感覚」──目の前の光景に慣れて麻痺してくると、映像越しに現実を眺めているような錯覚に陥る、というのは自分にも普段から覚えのある非常にリアルな感覚でした。 『俺…
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