シンデレラになったら幸せになれる そう思ってた時期が私にもありました その1
この世界においても大体の中世ナーロッパと同じように貴族の関係は重要である。
しかし別になんか陰謀云々がある世界観ではない。
単に人付き合いというレベルの話である。
飲み会に誘われたら行く、オンラインゲームに誘われたらやる、同じレベルのことをこの世界の貴族には要求される。
だから別段思惑が何たらとか権力が何たらとかは考えなくていい。所詮は都合のいいナーロッパの世界でナーロッパに都合の良い祝福を受けた転生者こそエリスなのだ。
「気分悪い……酔った、吐きそう……エチケット袋はどこ? 酔い止めは? やばい、太陽がまぶしい溶ける……」
豪奢な馬車の中で素晴らしいドレスを着たエリス=シンフォニアは口を押えていた。
「吐いていいですが馬車の外でお願いします。それにドレスを汚さないでください。そんなに気分が悪ければ魔法でどうにかしてください……回復魔法も姉上なら出来るでしょ?」
アルフォンスは彼の姉に溜息交じりで言った。
「知ってる? これは呪いみたいなものでキアリーもケアルも……レロレロレロっ!!」
「ああ! 喋りながら吐きやがった! 馬車を止めろ! すぐに止めろ!」
急停止する馬車。阿鼻叫喚の車内から飛び出すのはアルフォンスである。
「うぅ……来る前にポテチなんて食べなきゃ良かった……」
「おい、どうすんだよ! 予備は持ってきてるんだよな! おい、クレア! クレア! 姉上が吐いた! ドレスを持って来てくれ!」
「ああ、大丈夫……時空変異魔法で……うげぇぇぇぇぇ」
「だから吐くな!!! 吐くなら喋るな!!!」
「じ、時空変異で私の吐かない世界線をコピーして……後ポテチも食べなかったことに……」
一瞬光が辺りを包むと既に彼女の口が生産した危険物は消えていて、アルフォンスの服についた危険な半固形物も無くなっていた。
「まったく……姉上はこういうことも出来るのですね。吐く前から使ってください。なんか嫌な匂いが鼻の中に残ってる感じがしますよ」
「まあ、ほら。大丈夫だと思うじゃん……ね? うん……あっ! ポテチ食べたい! クレア! ポテチ持って来て! 私のポテチ!」
「遊んでないで早く行きますよ! ほら戻ってください! 大丈夫でしょうね、馬車の中は!」
こんなやりとりを数回繰り返して数台続く馬車は巨大な城へと進んでいった。いかにも中世ナーロッパという風な城の門をくぐった所で馬車が止まるとアルフォンスに続いて口を押えたエリスが降りた。
「ほら、着きましたよ。しっかりしてください、王宮に入るのですから」
「ねえ、ほら、この城大丈夫? 太陽眩しすぎない? 亀の王様とか出て来ない? ハンマー無しで大丈夫? まずキノコの家探しましょ?」
「またよく分からない事を……皆の前でその調子はやめてくださいよ。さあ、ほら、歩いて」
アルフォンスに手を引かれながら足元がおぼつかなく顔色の悪いエリスが歩いていく。
「ああ、エリス=シンフォニア様!」
しかし場内に入る前にすぐに奥から一人の好青年が歩いて来る。綺麗なタキシード、誰もが振り返るであろう美形の青年。
「王子! これは、何という! 姉上、しっかりしてください! 王子自らお迎えに有らせられたんですよ! 姉上! 挨拶を!」
「ご招待にして頂き誠に嬉しゅうございます、皇太子殿下。先日の件はお許しくださいませ。初めまして、エリス=シンフォニアです」
「あああああ! 姉上! 先の戦場や祝賀会でお会いしてるでしょ! いや、姉上が失礼致しました! 少し馬車に酔ったようで!」
「お気になさらずに。婚姻は父上が勝手に進めていたことですから。それより貴女にお会い出来たことが何より嬉しいのです」
眩しい笑顔。太陽が地上にあるするならば、丁度ここにあるだろうという風なあまりにも美しい微笑み。
「しかしエリス様の顔色がすぐれませんね。ご体調が優れないのでしたらご欠席なられてもよかったのですが……申し訳りません、無理をさせてしまったのでしょうか」
「いえ! 滅相もございません!」間髪いれずにアルフォンスが答えた。「そうでしょ、姉上!」
「ええ、御気になさらずに。さあ皇太子殿下が迎えに来てくださったのですから、早く入りましょう」
エリスは取っていたアルフォンスの手を離すとまっすぐと前に歩き出した。