ゴーレム言えるかな? その8
次の試合も、その次の試合も『IBO=U』は相手を爆発四散させた。
二回戦目の相手は鳥型のゴーレムであったが、『電磁ウェーブ』により感電させて地上の落としてから『100万ボルト』で止めを刺した。
三戦目の相手は『IBO=U』と似たタイプのカラクリゴーレムであり、クロスボウやハンマーの攻撃を何とか受ける前に『兆速移動』により先制を取り『100万ボルト』で吹き飛ばした。
あまりにも順調であった。
その頃には既にアルフォンスは優勝を確信していた。
こんなに強力な機能があるのだから、ましてや『エリスが作ったゴーレム』なのだから負ける要素があるわけがないのだ。
しかし……アルフォンスは気がついていなかった。
全ての根本が『物質』である以上特性があり、得意不得意はあるのだということを……
「ほう……またでかいのが出て来たな」
決勝戦。アルフォンスの対面には相手のゴーレムがいた。
ゴツゴツした造形の人形。岩と岩をつなぎ合わせて作られた巨大な物体。
「---やっかいなのが残りましたね---」
エリスの『ゴーレム』は言った。
「ただ大きいだけで中身は所詮砂ばかり詰っている筈だ。こんなもの、敵ではない」
「---本当にそうでございましょうか---」
「これまで通りやればいい。さっさ優勝しろ。そして姉上に勝手な行いを謝って来い」
「---了解しました。私のトレーナーであるアルフォンス様を信じます---」
「ふうん……これが例の英雄のゴーレム? すっごくよく出来てるね」
研究者という風には見えない、村娘のような少女……多分15歳くらいだろうか、がエリスのゴーレムを見て言った。これが最後の対戦相手である。
「姉上のゴーレムであると、ご存じなのですね」
「エリス=シンフォニア様は私にとって一番尊敬する偉人だからね。かのお方がゴーレムを使われてるって聞いてたからもしかしたらって思ったけど。光栄だよ、エリス様本人が相手じゃないけどね」
「それが分かっているなら棄権することをお勧めします。そのゴーレム、壊されたくはないでしょ?」
「エリス=シンフォニア様が相手ならもしかしたらしてたかも。ううん、負けると分かってても憧れの人と試合をしたかも。けど負ける気はしないよ」
「随分と強気ですね」
「お互い様。私も代理だけど、『ブリーダー』としては多分君より上だし」
「ふふ……『トレーナー』という言葉も知らないのですね。所詮は子供か」
「そういうところだよ。じゃあよろしくね、恨みっこなしだよ」
「ああ、望むところです」
「さあついにこの『第142回天下一ゴーレムスタジアム』も決勝戦を迎えました! 泣いても笑っても、これが最後! 括目して、この試合の行く末を見守ろうではないですか! それではー『ゴーレムバトル、レディー、ファイト!』
「相手は鈍足だ! 『100万ボルト』で吹き飛ばせ!」
「---アーイー、チュゥゥゥゥゥゥゥ!---」
アルフォンスが叫ぶと当時に凄まじい電撃が相手の岩のゴーレムを襲った。その威力により地面から砂ぼこりが辺りに舞った。勝負はついたに違いない……
「……なっ!」
しかし……何ということだ! 砂ぼこりの中からは、無傷のゴーレムが立っているではないか!
「効いていない、だと……あり得ない! もう一度だ! 『100万ボルト』!」
「---アーイー、チュゥゥゥゥゥゥゥ!---」
もう一度凄まじい電撃が岩のゴーレムを襲う。しかし……同じだ。まるで無傷のようではないか!
「や、やばい! おい、電磁ウェーブで動きを止めろ!」
「---アーイー、チュゥゥゥゥゥゥゥ!---」
凄まじい電気の渦が相手のゴーレムを包む。しかし、ほとんど動いていないとはいえ、はっきりとアルフォンスでも分かった。『まったく効いていない。』
「うん、知らなかったの? 岩は電気を通さない、だからダメージはない。ゴーレムバトルじゃ常識だよ」
「な……そうなのか!?」
「---鉱物並びゴム等の非電動物質に対して警備機能の一部が無効である可能性があります。詳しくはマニュアルの124ページ以降の各機能の項目を参照してください。これに関しては何度も確認した筈です---」
「いや……まあ、あれ以上にあの文章を理解しろというのか! 使い方ですら理解するのにどれだけかかったと思っている!」
「---分かっておりました。多分理解されていないのだと---」
「うるさい! 『パソコン』とか『ゲーム』とか、その説明書を理解するなど、貴族には不要なものだ!」
「うーんと、ゴーレムと話してるところ悪いけど、さっさと勝負をつけさせてもらうよ! 十分に時間が経ってるから、こっちも『気力』が溜まってるからね! いけ! 長距離技、『ぐるぐるバスター』!」
それは一瞬の出来事だった。
いきなり岩のゴーレムはその巨体から考えらないほどの速さで回転しながらエリスの『ゴーレム』へと突進したのだ。その一撃を回避することはエリスの『ゴーレム』には出来なかった。
エリスの『ゴーレム』は宙を舞って高く吹き飛ばれ、そしてそのまま自由落下し地面に叩きつけられた。
「な、何……今、何が……!」
「ゴーレム長距離技の『ぐるぐるバスター』。威力が高いけど命中率が悪いから十分『気力』を溜めてからじゃないと使いにくいんだ。『気力』の消費も大きいし。けど当たったし、さすがに終わりだね。パワーの上がる仕事ばっかりしてるからどんなゴーレムでも一発だよ」
「嘘だ……嘘だと言ってくれ……」
アルフォンスの混乱は収まらない。
こんなことがありえるのか?
エリスの『ゴーレム』の技の一切が利かず、そのうえ一度の攻撃で破壊されるなど……!
「さて、残念だけどこの大会のルールじゃ戦闘不能とみなされない限りは終わらないんだよね。原型留めちゃってるし、もっと徹底的に壊さないと」
「……待て、何を言っている! こいつは、倒れているだろ!」
「だから今のうちに完全に壊さないといけないの。それともギブアップしてくれるの?」
「そ、それは……!」
「いっけー! パンチ! キック! チョップ!」
ガンガンガンと金属の音が響く。
倒れている『ゴーレム』に岩のゴーレムが容赦なく攻撃を加えた。
「『気力』が切れちゃったから少し回復しよう。時間制限無いし、さっさ壊しちゃお!」
アルフォンスは考える。
降参するべきなのか?
そもそも『コイツ』を壊す為に大会へ出場した筈だ。単に優勝が見えたから優勝しようかと思っただけで目的は破壊に他ならない。
だからこの岩のゴーレムに壊させるのが一番なのである。
しかし……!
「---ビー、グガ、グググ、コウサン、シナイデクダサイ---」
「な……お、おい……!」
攻撃を受けていた『ゴーレム』が聞いたことも無い甲高い『声』を出した。
「やめろ……何を言っている……!」
そして両手をついて、ボロボロの外装で、ゆっくりと立ちあがった。
「---簡易エラーチェック完了、まだ、私は、戦います---」
「何を言っている! おい、本当に壊れるつもりか!」
「---ビーガガガ、男には引けない瞬間があります。まさに私にとっては、今です。私は、この瞬間の為なら、壊れても構いません---」
「もういい! お前は十分にやった! 全ては俺の油断が原因だ! だから……!」
「---万策尽きたわけではありません。警告・警告。エンドモード起動、エンドモード起動、詳しくはマニュアル最終ページをご確認ください---」
刹那、突然エリスの『ゴーレム』は全身から銀色の光を放った。まるで太陽がそこにあるかのような凄まじい光。
『エンドモード』
その光について、確かにアルフォンスは知っていた。
最終項目にある、最終手段。
「馬鹿野郎! やめろ! すぐに中止しろ! 聞いているのか!」
「---エンドモード終了後は全てアルフォンス様にお任せします。どうぞ、私の生き様をご覧ください---」
「うーん、何か光ってるよ……ちょっと『気力』が足りないかもしれないけど、贅沢言ってたらやばそう。チョップ連打! ついでにデコピンで止めをさしちゃえ!」
少女が叫ぶと、ゴーレムは少し動こうとしたが……ふといきなり猿の真似をしはじめた。
「ちょ、ちょっと! こんな時に行動不明なことしないで!」
「---これで終わりにしましょう---」
一瞬の出来事だった。
凄まじい光が岩のゴーレムに飛び込む。
その光が岩のゴーレムを通り抜けたと思うと、そこには丁度エリスの『ゴーレム』くらいの穴が開いていた。
そして岩のゴーレムは全身から凄まじい光を放ち、そのまま爆発四散した。
段々と光が晴れて来る。
その光が消えた先にあるのは、一体のゴーレムと無残に散らばった岩と砂の塊だった。
「---エンドモード終了、エンドモード終了、システムダウン、システムダウン、アリガトウゴザイマシタ、アルフォンス、サマ---」
「……『IBOぉ!』
事切れたように倒れた『IBO=U』にアルフォンスは駆け寄る。
そして仰向けになるように抱きかかえる。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! IBOぉ! IBOぉ! しっかり見せてもらったぞ、お前の生き様を! お前の勝ちだ! お前は勝ったんだ! お前は無機質な道具なんかじゃない! お前は、お前だ! IBOぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「あーあ、負けちゃった……って泣いてるの? まあゴーレムって結構壊れやすしそんなに悲しむものじゃ……」
少し引いた様子で少女は言った。
「見ていなかったのか、こいつの生き様を! こいつは最後まで自分の命を懸けて戦い抜いたんだ! 涙を流さずにいられるか……!」
「えっと、ちょっと感情移入しすぎじゃ……って、ちょっと、ゴーレムを抱えて立って、どこ行くの!」
「……こいつを姉上の所に返しに行く」
「いや、だって優勝したんだし『ゴーレム・ザ・ゴーレム』の称号の授賞式だってあるんだよ?」
「そんなもの、お前にくれてやる。本来その栄誉はこいつに与えられるものなのだから……」
「え、いや、そういうわけにもいかないでしょ……」
凄まじい閃光からしんとしていた会場。
一部始終を見ていた観客。
立ち上がり、両手にゴーレムを抱える一人の男の姿。
誰かが、パチパチと拍手をした。
それが段々と広がり凄まじい大きさの拍手となり会場に溢れかえった。
「素晴らしい! 何という事だ! こんなにもゴーレムを愛する者がいるとは!」
「こんな天下一ゴーレムスタジアムなど初めてだ! 素晴らしい!」
「間違いない! 『アルフォンス=シンフォニア』こそ……いや、『アルフォンス=シンフォニア』と『IBO=U』こそ真の『ゴーレム・ザ・ゴーレム』だ!」
二人の姿が消えてしばらくは誰も拍手を止めようとしなかった。あの司会者のジョン=ドゥも、ゴーグル眼鏡男も、惜しみない拍手を送った。
「ええ……」
一人、準優勝者の少女を除いては。




