ゴーレム言えるかな? その7
アルフォンスの一戦目の相手は白衣を着て眼鏡をかけ、そして何故かその下に海パンを履き、頭にじは水泳用のゴーグルとキャップをかけた男だった。
「ほう……貴族とは珍しい。さながら代理での出場と見ましたスイーム」
対戦相手の男は眼鏡をクイクイ動かしながら言った。
「まあ言いたいことは沢山ありますが……そもそも何で眼鏡とゴーグルを同時につけているのですか? まったく意味が分かりませんよ」
貴族であるアルフォンスは普段通りを心がけ、貴族らしく尋ねた。
「これがわからないというのは、やはり所詮は素人でスイーム! ゴーレムの特性を知らなければこの大会に勝つ事は絶対に出来ないでスイーム」
「ええい! よく分からん語尾もつけるな! ……いかん、冷静に……少なくとも私は代理だが『コレ』については持ち主より熟知しているつもりです」
「笑わせるでスイーム。貴方の言葉からは技術者としての知性のかけらも感じないでスイーム。理解したと思い込んでるだけというのが関の山スイーム」
「もういい、さっさと始めるぞ! いけ、相手のゴーレムをぶっ壊せ!」
「勝負するまでも無いでスイーム、行くのです我が最高傑作の『スイーム』よ、相手を完全に溶かすでスイーム!」
離れた場所それぞれのゴーレムが配置され開始の合図を待っている。
右側……東側は『IBO=U』である。 そして左側……西側は相手のゴーレムである。
「くそ……分からせてやりたいが……しかし、あれに本当に勝てるのか? そもそもこいつの説明書に載っていた攻撃を俺は見たことが無い。想像よりもずっと弱ければ、酸に溶かされ一瞬で消えて無くなるぞ……」
アルフォンスは対面に見える『ゴーレム』の姿を見た。
ゴーレムというよりはスライムに近いのだろう。既に地面からは何か蒸気が立っている。間違いなく強力な酸で構成されたゴーレムだ。酸の水たまりがそのまま地面から盛り上がって立っているように見える。
「---アルフォンス様、どうぞ、始まりましたら指示をください---」
「……そうだ、既に引けない。引くわけにはいかん。せいぜい全力を出して、酸に溶かされるのなら諦めろ」
「さて、両者準備が出来たようです! では1回戦第2試合、『ゴーレムバトル、レディ、ファイト!』
アルフォンスは初手をどうするか既に決めている。
いや……この初手が効果なければ勝負はついてしまう。
間違いなく相手の酸のゴーレムは素早い。降参は間に合わない。気がついた時には既にドロドロに溶かされているだろう。
だからアルフォンスは自分の選択と『コレ』の性能を信じるしかない。
そのために大会までまったくよく分からない説明書を何度もよく読み、分からない所を『コレ』に聞いて、何とか形になる程度まで理解したつもりだ。
その点では、確かにこのふざけたゴーグル眼鏡の男の言う『理解したと思い込んでいる』という言葉は間違っていない。
しかし、全て理解していなければ勝てないとは決まっていない。
「いけ! 100万ボルトだ!」
「---アーイー、チュゥゥゥゥゥゥゥ!---」
それはマニュアルで想像していたよりもずっと大きな電流だった。
『100万ボルト』は例の通り凄まじい電流を相手に与える機能である。その放たれた電流はそのまま相手の酸ゴーレムを直撃した。
一瞬だった。
電気に晒された酸のゴーレムは巨大化し蹴られるなり切られるなりした怪人のように爆発し、四散した。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁスイーム!」
その衝撃でゴーグル眼鏡の男は吹き飛んで倒れた。
「……勝負あり! 勝者、アルフォンス=シンフォニア!」
会場を凄まじい歓声が包む。
その歓声の中で、アルフォンスはこの『100万ボルト』の性能や結果を理解するのに時間が掛かった。
「……さすがは姉上の作った『ゴーレム』だ……これならば優勝も夢ではない」
しかし結局大して理解出来なかったので、『天才のエリスが作ったゴーレムだから当然だ』とアルフォンスは無理矢理納得した。




