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天才エリスちゃん  作者: 富良野義正
ゴーレム言えるかな?
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ゴーレム言えるかな? その5

 気がつけばあの『ゴーレム』は日常に馴染んでいた。

 メイド達と共に働いていたし、仕事をしているのをよく見たし、当主や客人とも仲良くやっていた。

 

 こうなるとアルフォンスは別段『ゴーレム』の存在を気にしなくなった。同時にそれは、エリスを働かせる振りだけでもさせるには使用人の募集以外の方法を取らせるしかないということだ。


 幸い、『ゴーレム』は別段エリスを甘やかしているわけではない。ぐーたらを加速させたわけではない。単にメイドの仕事の効率が上がっただけなので害はないようだった。


 そうなると別段廃棄に思考を縛られる必要もない。

 気がつけばアルフォンスは元通りの生活に戻っていた。



 しかし……決して全てが元通りになるわけではない。

 ましてや、ここは物語にとって都合の良いことが起こる中世ナーロッパの世界である。

 平和な日常が続くにしても何のイベントも起こらないわけがない。

 それも、この話のメインとなる『ゴーレム』ならば、尚更ではないだろうか。





 夜、アルフォンス専用の書斎。



「次はどうするべきだ……麦の需要が上がるのか? いや……麻が不作で生産量が減っているとも聞いた……そもそも投資せずに様子を見るべきなのか……うーむ……」



 アルフォンスは様々なデータを見ながら、資金をどう運用するかについて考えていた。当然、エリスに任せるのが一番確実で早いのだろうが、そんなことはしない。自分に能力が無いことはアルフォンスは分かっていたが、貴族である以上結局は自分の力で仕事をしないといけないのだ。しかし毎晩唸った挙句に大した成果があがるわけでもない。



「いかん……シンフォニア家の男児として頑張らねば……しかし、どうも決まらん……ふむ……急く事も無いか……?」



 するとコンコン、とノックする音が聞こえた。

 この時間に来る者……いや、『モノ』は一つしかない。



「入れ」


「---失礼致します---」



 やはりあの『ゴーレム』だ。時々深夜になるとハーブティーを入れて持って来ることがあるのだ。



「今は忙しい。お茶だろう、適当な所に置いておけ」


「---いえ、本日は別の要件で参りました---」



 アルフォンスが見ると、確かに『ゴーレム』はお盆を持っていない。その変わり、右手には封筒を握っているのが分かった。



「手紙か? 急ぎの用事でないならば明日の朝にしてくれ」


「---確かに手紙ですがアルフォンス様への手紙ではありません。それについて一つお頼みしたいことがあり失礼ながら藪遅くに伺ったのです---」


「お前は姉上の所有物だ。姉上に頼んでくれ」


「---いえ、アルフォンス様でなければなりません。これをご覧ください。失礼します---」



 『ゴーレム』は部屋に入るとアルフォンスに手紙を差し出した。



「……これは、まさか!」


「---はい、天下一ゴーレムスタジアムの招待状です---」



 あまりの驚きにアルフォンスは断りも無くその封筒を受け取り、その中にある紙を取り出した。



「本物だ! 何故ここに招待状が!」


「---ご主人様宛に送られて来たのです。私の事を調べて参加資格ありと判断されたのでしょう---」


「しかし、こんなものが送られて来たとしてどうしようもないだろう……この大会は……」


「---私は出場したいと思っております---」


「な……! 天下一ゴーレムスタジアムが何か分かっているのか! 世界中の洗礼さえた軍事ゴーレム開発者の中で世界一強いゴーレムを決める大会だぞ!」


「---そしてそこではトーナメントによる戦いによって勝者を決める。勝った一人にしか栄光は与えられず、負けたゴーレムの殆どは破壊され原型さえ留めない---」



  天下一ゴーレムスタジアムの苛烈さは有名である。しかも3年前からその苛烈さは増し、参加したゴーレムの殆どは完全に破壊されている。



「馬鹿なっ、こんな大会を姉上が参加するわけがあるまい。こういうイベント好きではないし何だかんだ姉上はこういう名誉に興味は無い筈だ」


「---だからアルフォンス様に頼みに来たのです。私のトレーナーとして出場して頂きたい---」


「……姉上の頼みか? 自分はこういう大会に興味がない、だから俺にやらせるということなのか?」


「---いえ、ご主人様はこの大会の招待状が来たことさえ知らないでしょう。ですのでこれは私の望みで我儘です。そしてアルフォンス様にもメリットがあります。私は出場したならば、高い確率で私はスクラップになるのですから---」


「確かにそれは望むところだが……しかし分からん、何故こんなものに出場したがる。家事だけしていればいいだろう。誰も『家事手伝いゴーレム』が戦闘をすることなど、この屋敷の誰も望んでは無い筈だ」


「---アルフォンス様ならお分かりなると思いますが私も男ですので。『自らの高み』というものを見たいのです---」


「自らの高み、だと……」


「---私は所詮スクラップとなるべき存在です。それが今こうしてこの世界に立っていて、幸運にもこのような栄誉ある大会への出場資格を得ることが出来ました。それならば、鉄屑になろうが酸に溶かされようが自らの存在を試したいのです。誰の為でもありません、私の為に試したいのです。しかし、それは私だけでは出来ません。この大会に出場するのは『ゴーレム』ではなく『ゴーレムのトレーナー』なのですから---」


「……だが姉上は絶対に出場しない」


「---それにきっと話せば出場を禁止されるでしょう。だからそこご主人様には内密に出場しなければならない。なのでアルフォンス様にご迷惑おかけするかと。ですがお願いいたします。私が鉄屑になるというのは悪い条件ではないと思います---」



 アルフォンスは目の前の『ゴーレム』を見ながら考える。こんなことをしても良いのだろうか? 明らかに貴族の通りに反している……他人の所有物を無断で持ち出して破壊するなどとは!


 だが、何故かアルフォンスは『却下する』と言葉にすることが出来ない。

 目の前の『ゴーレム』は所詮は物で無機物だ。

 しかし……



「まったく……馬鹿げている」



 大きく息を吐いてアルフォンスは背もたれに体重をかけ、天井を見ながら言った。



「勝算はあるんだな?」


「---私には対暴漢用の護衛機能も備わっております。ある程度の戦闘は可能でしょう。詳しくはマニュアルの124ページからをご覧ください。マニュアルは後日御持ち致します---」


「決して姉上に見つからないように持って来い。お前を見てるとゴーレム自体が嫌いになった。くだらん大会のゴーレムを1体でも多くぶっ壊してやらなければ気が収まらん。だから俺が勝手に出場してやる」


「---感謝致します。この『IBO=U』、全パーツを捧げてもアルフォンス様の望みを叶えて見せましょう---」

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