ゴーレム言えるかな? その3
アルフォンスは未だに状況が理解出来てない……いや、理解しとうとも思わないし、認めたくもない。
『IBO=U』と命名されたそのゴーレムは人と同じ速度で歩く。階段も何の支障も無く上り下りする。
ゴーレムは種類にもよるがこのタイプの、何か金属っぽいと物理的なタイプならば特にこんなに複雑な移動が可能だと到底考えにくい。
だが……使用人達の好奇な視点を浴びながらこのゴーレムは何の問題も無く、洗濯中のクレアのいる外にまで移動したのである!
「あ、あの……エリス様、これは……」
「新しい新キャラ。『アイボユー』って言う子。アイちゃんって呼んでね。アイちゃん、この子は貴方と同じ使用人のクレアね」
「---初めましてクレア様。『アイボユー』です。私に分からないことあれば是氏ご教授をお願致します---」
「は、初めまして……初めて見ました……」
「ん……『ゴーレム』くらい見た事あるだろう。少し前に王子に招待された時、警備として配備されていたのを見てなかったのか?」
「いえ……あの……アルフォンス様、ゴーレムは見た事はあるのですけど……この子、『ロボット』ですよね? 本当にあるんですね……」
「え? そんなに有名なものなのか?」
「いえ、あの……アルフォンス様がご存じ無いのは無理も無いかと……」
「いいんだ、まあ……クレアは姉上と一番近い使用人だからな……まあな、うん……知ってるものなのか……」
妙なばつを悪さにアルフォンスは逃げだしたくなった。エリスが意味不明なことを言ってもどうとも思わない。しかし使用人であるクレアですら知ってることを知らないのは、かなりむず痒い。
「丁度洗濯の最中ね! クレア、この子に洗濯は任せなさい!」
「……こいつが洗濯をするのか?」
アルフォンスはもう一度『ゴーレム』を見る。
そのゴツゴツした金属製の指はバスタードソードでさえ簡単に弾くことが出来るのかもしれない。
「あの……エリス様……お言葉ですが、今は繊細なシルクを洗っております。力加減を間違えて……その、駄目にしてしまっては……」
「大丈夫大丈夫、平気平気! 安心しなさい! アイちゃんならぱっぱっぱっとやって、終わりっ!」
「クレア、代わってやれ。今洗っているのは姉上の服ではないか。姉上が代わるようにと命令したのを確かに聞いた。もしもボロボロになってもそれは姉上が全て悪い。私がこの名にかけて保証しよう」
「は、はあ……では……」
洗濯は桶と洗濯板で行われている。上流貴族や王族レベルならば魔法を使って汚れ一つ残さないように出来るのだろうが、中流貴族のシンフォニア家には到底そのようなものを使うことは出来ないし、仮にも可能であっても英雄であり貴族であるエリスにそのような雑用をさせるわけにはいかない。だからメイド達が手作業で洗濯をしているのである。
ただ、それも簡単ではない。素材によっては……特にシルクは繊細に扱わなければ破けたり痛んだりする。それなりの経験と技術がいるのである。
「---では洗濯をさせていただきます。素材繊維分析完了。お任せくださいーーー」
「……な、何ぃぃぃぃぃぃぃ!」
アルフォンスが叫ぶもの無理は無いだろう。
このゴツゴツした指では考えられないような優しく滑らかな動き。桶の中で優雅に魚が泳ぐようにシルクが洗われていく。ゴーレムとは考えらないほど……いや、人であってもこれほど熟練された洗濯など想像できるだろうか?
既にそれは家事の域を超えて芸術と表現してもよい。
そのような洗濯を、この『ゴーレム』は目の前で奏でているのだ!
「ーーー完了致しました。追加があればお申し付けくださいーーー」
「どう? 凄いでしょ! 洗濯機だけじゃなくてちゃんと手洗いも出来るんだよ! それに、ほら! ちゃんと干せる! 追加で購入すればクリーニングに出さなくったってスーツだって洗えるんだって!」
「ここまでゴーレムが出来るものなのか……いや、まだだ……これくらいで認めるわけにはいかない……」
「んんっ??? どうしたのアル??? ねえどんな気持ち??? アイちゃんが洗濯出来て今どんな気持ち???」
「ええい! 洗濯が出来たくらいでシンフォニア家の使用人が務まると思うな! やらなければならない仕事はいくらでもある! その全てが出来るものかっ!」
結果から言えば、この『ゴーレム』はすべての仕事を完全にこなした。
料理をさせれば料理人よりも上手く調理し、掃除をさせれば誰よりも綺麗にし、王族さえ任せられるほどの接客をこなした。
「ぐ、ぐ……認められるか、こんなもの……!」
庭係よりも綺麗に庭の整備をする『ゴーレム』を睨みながらアルフォンスは奥歯を噛んだ。
「ふふふ、さっすが最新型ね! 充電が少し大変だけどメイドの皆にもやり方教えてあるし完璧! ねえアル、それでもアイちゃんを認めないの?」
「だ、だが『ゴーレム』だぞ! それを使用人と認めるのは……!」
「あーアルが差別した! アイちゃんはロボットかもしれないけど、私達人間とまったく変わらないの! メイドの皆だって、アイちゃんは仲間だと思ってるのに、いーけないんだ!」
「うるさい! とにかく、俺は認めないからな! 分かったら早くあれを片付けてさっさと使用人の募集をかけろ! いいな!」
そう言うとアルフォンスは足早に自信の書斎へと歩き出した。
「認めんぞ……絶対に、認めんぞ……」
何度も何度もそう呟きながら。




