ゴーレム言えるかな? その2
「……部屋から出るのが遅い! 見誤ったのか!? まさか姉上は未だに動いていないのか!? なんてことだ……怠惰な生活に魂まで腐らせてしまったのか!?」
約束をして数時間が経過した。
しかし、エリスは一向に部屋から出ようとしていないようだった。
クレアに聞けば、着替えを手伝うという申し出を断ったのだという。
ならば……まだ寝巻だというのか?
腕を組みながら部屋の前で怒りを発散させるようにアルフォンスはコツコツと靴を鳴らす。何度かその姿を見かけた屋敷のメイド達は逃げるように去っていった。
「ふざけるな……どうする? いや、まだ決まったわけじゃない……いい加減待てるものかっ!」
ついにアルフォンスはドンドンとドアを叩いた。
「姉上! 入りますよ! いいですね!」
そう叫んで入ろうとする前に……何と! そんなことがあるのだろうか!
アルフォンスがドアを開く前にドアの方から動いたではないか!
あのベッドから少しも動こうともしない姉上が、自ら扉を開いたのだ!!
あまりの事態にアルフォンスは恐ろしく動揺したが……対面にある姿が更に彼の動揺を誘った。
「---どなたですか---」
なんと、扉を開けたのはエリスではなかったのだが……何だこれは!?
白いフォルム。人型をしているが人形というにはあまりにもカラクリチックな姿。望遠鏡のレンズような瞳。そして、重装歩兵を思わせるような胴体。そして何とも言い難い、固い声!
「な、何だ!?」
「---ご主人様、お客様です---」
「ああ、アル! 丁度良かった! 丁度組み立てが終わったところ! 何口をパクパクさせてるの? 悪役の大臣にもなったつもり?」
「いや、何だこれは!? 『パソコン』、なのか!? 何処から持ってきた!?」
「違うよ、これはパソコンじゃなくてロボット! メカよメカ! サイバーアイランドって異世界に行って来て買ってきたの! 十万くらいしたのよ! 十万よ十万!」
「ロボット? メカ? いや、何だ……ゴーレムなのか、これは?」
「---お初にお目にかかります。万能家事手伝い専用ロボット、ASHUMOーU型です---」
「アシュモ……お前の名前なのか?」
「---いえ、私にはまだ名前が設定されていません。初期設定が完了するまでは無名となります。名前の設定は後にでも出来ますが、その場合はデフォルトとしてASHUMO-Uとなっています。しかし命令系の不備が発生する可能性があるので特に二台以上運用する場合には命名をすることを強くお勧めします。詳しい初期設定の方法はマニュアル12ページを参照してください---」
「わけがわからん……こいつは何を言ってるんだ……姉上が魔力で制御しているのですか?」
「何言ってんの、自立型AI搭載なんだから! 常人くらいの知能があるんだよ!」
「……とにかく、この数時間姉上はこのアシュモというゴーレムを作っていたということですか?」
「買って来て最初の組み立てしただけだけどね。うん、駄目そう? やっぱファンタジーな世界の
アルにはよく分からない?」
「いや……それはいい、それはいい……落ち着け、俺……姉上、それよりも、何を遊んでおられるのですか? 先ほど使用人を増やすことを約束されたばかりでしょう。それとも後日動くとでもおっしゃるおつもりですか?」
混乱しながらも何とか自我を保ちつつ、アルフォンスは尋ねた。
「だから、買って来たの」
「意味が分かりません」
「だから……この子が新しい使用人で新キャラ!」
アルフォンスはよく分からずこの『アシュモ』を見た。頭が整理出来ない。この『パソコン』みたいなゴーレムが使用人……?
「---何なりとお申し付けください。家事全般に関してはインストール及び学習は不要です。詳しくはマニュアル25ページをご確認ください。もしも追加の動作をさせたい場合は学習又は追加のソフトをご購入してください。詳しくはマニュアル58ページ又は商品ホームページをご確認ください---」
「いや……いやいや、待て、ゴーレムだぞ? いくら姉上の魔法で作ったのだとしてもゴーレムが家事のような複雑なことが出来るわけがない……いや、そうじゃなくて、姉上、このような『パソコン』で私を騙そうなどとは! 遊んでないでさっさと募集をしてください!」
「だから、この子が新しい使用人なんだって! まあ……アルには分からないよね。じゃあこの子がどれだけ出来るのか実際に見せてあげる! その前にこの子に名前を付けてあげないとね! 大事な新キャラなんだから!」
「---初期設定、名前の更新。名前は以降でも変える事が出来ます。私の名前を教えてください---」
「うーんと……U型のロボットだから…犬っぽくないけどロボットだし……『IBO=U』、貴方は『アイボユー』! ニックネームはアイね!』
「---登録完了。私の名前はアイボユー、ニックネームはアイです。よろしくお願いします、ご主人様---」
「よしよし! じゃあアルにアイちゃんがどれだけ出来る子なのか見せてやりましょう!」




