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第三者視点 夜霧の森 その5

誤字報告いつもありがとうございます。

 ミナとアモンの戦いが決着した頃、『夜霧の森』には異変が生じていた。



「なんだ!? 急に霧が晴れて行くぞ!?」


 最初に気付いたのはアルベルトだった。


「魔獣が離れて行く!?」


 次に気付いたのはシルベスターだった。


「空を覆っていた黒い靄も消えましたわ」


 シャロンが空を見上げて呟く。


「光が差し込んで来ましたね」


 エリオットが眩しそうに手を翳す。


 精霊達もそれぞれに反応した。


『闇の力が消えたわね~』


 とウンディーネが言えば、


『うん! 気持ち良くなったね!』


 シルフが続き、


『きっと闇の力の源を絶ったんだね』


 ノームが頷き、


『......』


 イフリートは沈黙を貫いた。


「ミナかアリシアが闇の力を退けたってことだな」


 アルベルトが全員を見渡しながら言うと、それぞれ納得したように頷いた。


「早いとこあの二人と合流しよう」


「「「 応っ! 」」」


 全員の声が揃った。



◇◇◇



「精霊王様、ここだけ雨を降らすことって出来ますか?」


 ミナがアモンの落ちた穴を土で埋めながら問い掛ける。


「出来るが雨を降らせてどうするんじゃ?」


「ここの土ってどうやら石灰質みたいなんですよ。だから水で濡らしてセメント化出来ないかなと思って」


「セメント化? なんじゃそれは?」


「まぁ、要するに地面を固くするってことです。二度と出て来れないように」


「フォッフォッフォッ、それは良いのう。早速やるとしようかの」


 精霊王はさも痛快だと言わんばかりに笑いながら局地的に雨を降らせた。


「あぁ、そのくらいで十分です。ありがとうございます」


「ミナよ、杖を持って次は何をやるんじゃ?」


「土を撹拌します。水と良く混ざるように」


「お主一人では大変じゃろう? ゴーレムを作ってやらせた方が良いぞ?」


「えっ? ゴーレムですか? 私はまだ作れないと思いますけど?」


 土魔法で使役するゴーレムを作り出すのは、かなり高度な技である。


「いや、今のお主なら可能じゃろう。試しにやってみるが良い」


「はぁ、やってみます」


 半信半疑ながらミナはゴーレムをイメージしてみた。すると、


「うわっ!? ホントに出来たっ!」


 ミナの背丈と同じくらいの大きさのゴーレムが生まれた。


「儂の言った通りじゃろ? その程度の大きさなら、あと5、6体くらい作っても問題無く動かせるじゃろう」


「やってみます!」


 その後、6体まで作ってみた。この辺りが現在のミナの魔力の限界だと分かった。


「こんな風に土をかき混ぜるの。分かった?」


 ミナがお手本を示し、その指示通りに動くゴーレムを見て、新しい魔法を覚えたことがなんだか嬉しくなった。激闘の後で疲れ切っているはずなのに、そのことを忘れるくらい興奮していた。

 

「これでそのセメントとかいうのが出来るのかの?」


「えぇ、ある程度撹拌させたら乾かします。それで固くなります」


「フォッフォッフォッ、それは楽しみじゃの~」


 そんな精霊王の楽しそうな声に被さるように、


『アリシアっ! こっちよ! 急いで!』


 レムの声が響いたと思ったら、


「ミナっ! ミナっ! ミナっ~!」


 アリシアが泣きながら物凄いスピードで飛んで来て、ミナを抱き締めた。


「うわっぷっ! ど、どうしたの、アリシア? お、落ち着いて?」


 いきなり抱き着かれたミナは目を白黒させている。


「ミナ、ミナ、ミナ~!」


 泣きじゃくるアリシアはただミナの名前を連呼するばかりだ。


『泣かせてあげて。あなたのことが心配で心配でしょうがなかったんだから』


 レムから事の次第を聞かされたミナは、思わず目頭が熱くなった。


「そっか、そんなに心配してくれたんだね。アリシア、ありがとう。それとアリシアが無事で本当に良かったよ」


 そう言ってアリシアの背中に手を回し、きつく抱き返した。


「ミナ~!」


 その間もアリシアは泣き続けていた。そこへ、


「居たぞっ! こっちだ! ミナっ! アリシアっ!」


 アルベルトの声が響いた。


「みんなっ! 良かった! 無事だったんだね!」


 ようやく全員が合流出来た。



◇◇◇



 女性陣は涙を流しながら抱き締め合い、男性陣はホッとした顔でお互いの無事を喜び合った後、これまでの顛末を報告し合った。


「や、闇の眷族の四天王を倒しただと!? それもミナが単独で!?」


 アルベルトの驚愕した声が響く。


「いえ、私一人でって訳じゃないですよ? 精霊王様に手伝って貰いましたし」


「なんのなんの、儂は仕上げにちょっと手を貸しただけじゃ。ほとんどミナが倒したようなもんじゃよ」


「いえいえ、そんなことは無いですって」


 ミナは恐縮しきりだ。


「それとアリシアはベヒモスを単独で倒したって?」


 アルベルトがまた驚愕していると、


「頑張りました! まぁ、私もレムに手伝って貰いましたけどね」


 アリシアは何でも無かったかのように破顔した。とてもじゃないが単独で倒せる相手じゃないってことは全員が理解していた。


「「「 はぁ~... 」」」


 男性陣が揃って長いため息を吐く。この二人とまた差がついてしまったことに、男なりのプライドが刺激されたようだ。もっと強くあらねばと。


 その後男性陣は、彼ら及びシャロンの置かれた状況をミナとアリシアに説明した所「大変だったじゃないですか!」とか「ご無事で何よりです」とか言われて、また何とも言えない複雑な心境になったのだった。



「それでこのゴーレム達はなんなんですの?」


 未だに土をこねくり回しているゴーレム達を見ながらシャロンが尋ねる。ミナが説明したが「セメント」という聞き慣れない言葉にアリシア以外はキョトンとした顔をしていた。


 そしてミナがゴーレムを作り出し、それを操るのを見たシルベスターが「ボクでもまだ出来ないのに...」と寂しそうに呟いたのは誰の耳にも届かなかった。


「あ、そうだ! 忘れる所だった! 行方不明だった冒険者達を見付けて拘束してあるんです。彼らをどうにかしないと!」


 エリオットが思い出せば、シャロンとシルベスターも「あぁっ!」と同時に叫んだ。二人とも思い出したようだ。


「拘束してある場所は精霊達が分かるはずなので早速向かいましょう!」


『ちょっと待って。あなた達ボロボロじゃない。ヒールを掛けてあげるわ』


『セイントヒール』


 レムのお陰で全員の体力と魔力が回復する。相変わらず凄いと全員が感謝した。


『これからはアリシアが掛けてあげるのよ?』


「えっ? 私にも出来るの!?」


『えぇ、それだけのレベルには達しているわ』  


「凄いっ! やったぁ~!」


 破顔するアリシアを、特に男性陣は眩しそうに眺めていた。



◇◇◇



 その後、冒険者達の所に全員で向かい、アリシアが早速ヒールを掛けてあげた。回復した彼らに話を聞いた所、この森に入って以降の記憶が無いそうだ。どうやら闇の力に操られていたらしい。


 バラバラの場所に拘束していた冒険者達を一ヶ所に集めた。アリシアが大の大人を二人脇に抱えて運ぶ様には男性陣が苦笑していた。怪我は回復したが、飲まず食わずで体力が落ちているので、まずは水と食糧を与え、少し休ませることにした。


 その間にミナはゴーレム達の様子を見に行った。


「うん、これくらいでいいかな。みんな、ありがとうね」


 そう言ってゴーレム達を土に還した。


「これが乾くと固くなるのか?」


 隣に来たアルベルトが聞く。


「えぇ、後は自然乾燥に任せれば...あ、そうだ! 殿下、火魔法で乾かして貰えません?」


「あぁ、いいぞ。こんなもんでどうだ?」


 アルベルトが火で炙るように地面を撫でる。するとあっという間に水分が蒸発した。ミナは地面に触ってみる。固くなっている。叩いてみると、コンコンッと音がした。


「うん、完璧です。ありがとうございました」



 冒険者達を休ませてる間、ミナ達も休憩を取ることにした。携帯食糧を水で流し込みながらアルベルトが呟く。


「しかしあれだな、闇の力に翻弄されたとはいえ、今後も俺達が分断される恐れがあるってのは問題だよな...」


 アルベルトの問題提起に全員が頷く。


「フムッ、それに関しては力になれると思うぞ」


 精霊王が応える。


「本当ですか!?」


「あぁ、ちょっと待っておれ。アトラス、おるか?」


『お呼びでしょうか?』


 すると古代ローマのトーガのような服を纏った美しい女性が現れた。頭に月桂冠を被っている。


「こやつが星の精霊アトラスじゃ。アトラスよ、『星の導き』をこの者達に配ってくれんか?」


『お安いご用です』


 アトラスが手を振ると、ミナを除く全員の手元に星形のペンダントが現れた。


「これは!?」


『私の加護を込めました。これを身に着けていれば、闇の力に晒されても仲間と逸れるようなことは無いでしょう』


「「「「「 ありがとうございます! 」」」」」


 ミナを除いて全員の声が揃った。


「え~と...あの...私は?」


 ミナがおずおずと尋ねる。


「なんじゃ、ミナ。儂の加護だけでは不足なのか!?」


 精霊王が揶揄うように言う。ミナは焦って、


「そ、そんなっ! 滅相も無いですっ!」


『精霊王様、揶揄うのはお止しなさいな。ミナさん、そのペンダントにも私の加護は込められてますから、安心して』


 ミナはホッとした表情になり頷いた。



 その後、体力の回復した冒険者達を引き連れ、森を抜けた一行は、心配しながら待っていたマリーに出迎えられ帰途に就いた。


 こうして波乱に富んだミナ達の夏休みの冒険は幕を閉じたのだった。



作者のモチベーション向上に繋がりますので、出来ましたらブクマ登録及びポイントの応援の方をよろしくお願い致します。


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