賢者を見習え
拒絶されてから、三日が経った。いまだ、拒絶されている。あの日から、香坂は学校に来てないし、二木も授業に出ていない。空席が、僕の心を寂しくさせた。二木は、結局何を考え、動いているのか分からないし。僕は、何をすればいいのか全く分からなかった。
二木に頼る?でも、本人は何処にもいない。香坂に、謝る?謝ったが無理だったじゃないか。僕の中で、色んな心が渦巻いた。
(結局、僕一人じゃ何にもできないのか?)
自問自答を繰り返す。分からない。霧がかかり見えない。三日間、そんな状態だった。でも、諦めたくはなかった。高校で、仲良くなった友達だ。ここで、簡単におさらばしてはいけない。そう、思えた。
「―――!」
真っ黒い闇の中。懐かしい声が、僕を呼んでる。でも、なんて言っているかよく分からない。
「簡――ゃ―いか。」
「なんて言ってるの?」
「簡単じゃないか!」
「???」
なんだこれ?
「おーい、起きろ!」
バチーン。何かで思いっきり叩かれた。
「何するんですか!」
僕は、叩いた相手に抗議した。
「何って、おこした。」
「?」
周りを見渡すと、ここは教室だと分かる。そして、黒板には、『鎌倉幕府成立』の文字。歴史の授業のようだ。
そしてこのハゲ散らかした40代程度のだらしないおっさんは、威張ってばかりの評判の悪い社会科教諭。どうやら、授業中のようだ。
「あれ、寝てました?」
「思いっきりな。」
「・・・すいませんでした。」
「謝らなくても良いぞ?低落な人間は寝てろ。」
そう言って、気持ち悪く笑った。一瞬、張り倒そうかと思ったが、止めた。そんなの無意味だからだ。手を出したら、その人間の思うツボだ。そう言い聞かせ、自分を落ち着かせる。
落ち着くと、夢で見たあの声が蘇ってきた。
―――『簡単じゃないか!』
いつも親父が言う言葉。『賢者は複雑なことをシンプルに考える』って、有名な古代ギリシャの哲学者が言ってたっけ。
賢者じゃないけど、今の状況を簡単に考えてみるか。香坂は拗ねて、二木は変な事を考えている。いや、何も考えていないかも。
取りあえず、謝ったが拒絶。これは、なんでだろう?香坂に、何があった?三日、学校を欠席するほど、嫌だったのか?
・・・落ち着け、もっと簡単に考えるんだ。『あの怒る原因となった台詞』からしてみれば、香坂は自分の性格が変だと思っているのか。あれはあれでいいと思うのに。
そして、二木は何をしているんだ?彼がいなくなる理由がよく分からない。そして、三日前の台詞。
「もっと自分の心に素直になれ、そうすれば解決する。」
『素直になれ』っていいたいのは、分かる。が、それと今回の事に何の関連があるんだろう?
心に素直になれって事は、思っている事を伝えろって事か。・・・そんなんで、本当に解決するのだろうか?
疑問に思ったが、二木の助言に頼ることにした。