拒絶
ドアを開けると、誰もいなかった。
「誰もいないよ?」
僕は、彼に話し掛けた。
「上。」
一言。いつもぼけている彼だが、顔を見て、そんなことしている余裕が無いことが分かった。
「何しに来た?」
ストン。上から彼女は降ってきた。出口の上じゃあ、覗いても見つからないわけだ。ロングヘアーが着地時にふんわりと揺れる。一応、一階分の大きさが有るのに平気そうに立ち上がった彼女。凄いと思った。あんな上から降りて来られるなんて格好いい。
「何しにって,謝りに・・・」
そう言いかけたが、彼女は、続きの言葉を言わせてくれなかった。
「私は、貴様らつるみたくない。帰れ。」
な・・・。僕は、絶句した。折角、仲良く馴れたのに。些細な事で、ここまでくるなんて。そう思うと目眩がした。
「・・・。」
隣は、黙り込んでいる。何か対策でも考えているのだろうか?
「二度と、話掛けるな。貴様らとは、話すと吐き気がする。」
そう吐き捨てた。僕は、ただ立ちつくしていること以外出来なかった。
「そうかよ。」
すると、彼が何も考えてないように、言った。何が目的だったのか、よく分からない。
「・・・二度と近寄るな。」
そう忠告して、彼女は屋上を去った。
「ありゃ、あの言葉は禁句だったかな。」
そういって、頭を手でかく彼。事の重大性に、今更気付いたようだ。
「はあ、どうしよ。」
「どうしようも、こうしようもないだろ?彼女の敵意を無くさなきゃ。しかも、あれはただ怒っているだけじゃないし。それに・・・。」
「それに?」
「いや、なんでもない。お前、さき教室戻っててくれないか?」
そういうと、彼は真剣な顔をして言った。何か考えがあるのだろう。
「わかった。」
何も出来ない僕は、そう頷くしかできなかった。
その後、戻って授業を受けた。普通の授業。なんら変わらない授業。
それは、他人から見ものだった。僕は、授業になんか身が入らず、上の空。結局、二人は昼休みになっても帰ってこなかった。
一部の人は、駆け落ちなんて噂をいう奴もいた。噂している奴を、ぶん殴りたかったが、そんな事をしても無駄だと分かっているし、したらしたで逆効果だ。
僕は、友達がいない、と言うわけではない。が、それほど親しくない、薄い存在だった。僕の周りにいる二人に比べれば薄く、すぐに破れるような存在だ。
「飯一緒にどお?」
クラスメイトが話掛けてくる。決して、彼らは悪くない。逆に、気を使って誘ってくれた。
「誘ってくれてありがとう。でも、もうたべたから。」
僕は、そう言って愛想笑いをした。頭が回らない。何も考えられない。誰とも話したくない。今の自分は、そんな感じだった。
「はあ。」
小さくため息をつく。これでも傷ついているのかも知れない。最初のの言葉は、まだ大丈夫だった。でも
『二度と、話掛けるな。貴様らとは、話すと吐き気がする。』
これは、流石に傷ついた。悲しかった。泣きそうになった。友達にここまで言われて、傷つかないほうが間違っている。
急に、頭に手がのせられた。さすがの僕でも、今ちょっかいだされると、殴り合いになるかも知れない。そう思って、睨み付けると彼が戻ってきていた。
「なーに、ため息なんてついてんの?」
ニコっといつものように、笑った。髪型が崩れ、ツンツン頭が変に曲がっている。息は、切らしていないものの額から汗をかいていて、いかにも不自然だった。
「君が何をしていたか気になってね。」
「それは、秘密。」
彼は、笑顔を崩さず、言った。僕は、思わず固まった。
(なんで、秘密なんだ?なんで、隠すんだ?僕も、『当事者』の一人だろ?二木、君は何を企んでいるんだ?)
「なんで?」
僕は、一瞬全て言いたい気持ちを押さえる。彼にも考えがある。でも、それでも
「君は、何をしてるの?」
「え?」
笑顔が、固まった。
「だから、君はどんな風に動いているの?」
それでも、知りたかった。一緒に協力したい。
「あー」
僕の顔を見て、何か考えているようだ。頭をかいて、悩んでいるようにみえた。
「ごめん、今は言えない。」
「・・・なんだよそれ?僕だけ、仲間外れかよ。」
頭に血が上っている。やばい、このままだと二木まで喧嘩していしまう。
「ふざけんな!」
そういって、胸ぐらを掴んだ。非力な僕は、掴んでその次の行動に移す勇気がなかった。
「―――あ?」
すると、彼のいつものオーラが変わった。彼は僕を睨み付けた。僕を虫けらのような目で。
ゾク。睨み付けられた時、体全体に伝わる悪寒。初めて感じる感覚。僕は、これがなんだか分からず、手が震えた。
「離せ。」
バシっと、手は簡単に叩き落とされた。
「俺は原因だ。」
訳も分からず突っ立っていると、彼が話だした。
「もっと自分の心に素直になれ、そうすれば解決する。」
面と向かって言われた言葉の意味はすぐに分かったが、理解できなかった。