バカと孟浩然
――――春眠暁を覚えず
これは、中学の教科書に載っている有名な漢文。孟浩然「春暁」の一節。春の夜はまことに眠り心地がいいので、朝が来たことにも気付かず、つい寝過ごしてしまう事をしめす。
午後最後の授業。正直、眠くなってきている。眠くなっているのだが、彼の一言で一瞬で目覚めた。
「これ、どういう意味なんだ?」
ここに、貴重な存在が居ます。
「助けて。」
僕は、助けを求めて後ろに振り向く。
「・・・。」
後ろの彼女は、目をそらし空を見ていた。スルーしないで!貴方以外助けてくれる存在が居なんだよ!ここは、窓側の席の後ろの方。後ろの天才、横の天然。斜め後ろに席はない。前にも、二人いるが、どうも仲良くなれない。
「なあ?なんて意味なんだ?」
彼が、配られたプリントの一部分を指さす。ここが進学校ではなく、彼の学力にあった学校だったら文句はないのだが・・・。てか、彼の学力でどうやって入ったんだ!
「辞書でも引いたらどうなんだ。」
彼女は、しょうがないと、助けを入れてくれたようだ。
「辞書は、ない!」
何故か胸を張る天然。
「・・・。」
絶句しないで!
「私は、ここまで耐えてきたがもう耐えきれん。」
「早いよ!まだ、入学して、2ヶ月だよ!」
友人関係で挫折した人一名発見。
「無理だ。私には、なぜできないのか理解できん。」
そういって、彼女は頭を抱える。
「大体、そんな有名な文をなぜ知らないのだ!私は、漢文で一番最初に覚えたぞ!」
「全部寝て過ごしたから。」
「なんで、そんな奴がこの学校にいるのだ!」
「スポーツ推薦で、入ったから。」
「スポーツ推薦、憎むべき!」
今日の彼女は、暴走しているな。
「そこ、いつまでもうるさいぞ!」
先生に、注意されてしまった。
「すいません。」
僕は、取りあえず先生に謝り、彼女を止めに入る。
「取りあえず、落ち着いて!」
そういって、隣の天然を教科書で殴る。ドンという良い音が教室に鳴り響く。
「いってぇな!なんで、俺を殴んだよ!」
そういうと、教室が爆笑する。何故だか彼を殴ると場が納まる。そういう性分なのかも知れない。
(落ち着いた?)
小さな声で彼女に話し掛ける。
(ああ、ありがとう。)
そういって彼女は、笑う。この微笑みは、僕の心を踊らせる。一瞬、天国を見た後、後始末に取り掛かる。
「ああ、ごめんごめん。女の子を殴る訳には、いかないでしょ?」
「だからって、殴るなよ。痛いだろ?」
「悪かったよ、次から優しく殴るよ。」
「殴らないでくれよ!」
「こら!そこまだうるさいぞ!」
最近、注意される回数が増えた気がする。