テスト後
「今日は、最悪だ!」
隣の席の男子生徒が、頭を抱え始めた。学校に入学して初めてに受けたテストが今日を使って全科目が返却された。勿論、僕は赤点なんて無かったが、隣の生徒はどうも駄目だったらしい。
「『今が最悪の状態』と言える間は、まだ最悪の状態ではない。」
後ろの席の女子生徒が涼しげに呟いた。片手に文庫本と、テストは余裕だったようだ。それと、今のはシェイクスピアのリア王の有名ま台詞。
「んだと!これを見てから言え!」
後ろを振り向き、彼は自分のテストを彼女の机の上にばらまいた。
「―――確かに、これは酷い。」
彼女は、無表情で言った。僕も覗いてみたが、三分の一は赤点だった。多分、このクラスのドベは彼だろう。
「だろ!特に化学は・・・。」
彼は、その後言い訳を始めた。勿論、聞く気はない。彼女もないだろう。彼を無視して、彼女に話し掛ける。
「君はどうだった?」
「まあまあ、と言ったところだ。」
そう言って、彼女のテストを見せて貰った。彼女は、ドベの彼とは正反対だった。
「すごいね。」
「大したことない。ちゃんと、復習や予習をしただけだ。一夜漬けなんてなんの意味をもたいない。」
彼女は、そう言い切った。きっと、未だ言い訳を並べている隣の人のことを言ってるんだろう。僕は、はははっと愛想笑いをした。
「『失敗は星星の間ではなく、我々自身の中にある』」
彼女がまた呟いた。
「またリア王?」
「へえ、さっきの聞いただけでリア王とわかったのか。君は、劇が好きなのか?」
「違うよ、父親が好きなんだ、シェイクスピア。『最悪』って言ったらよくああ言って返されたんだ。」
「それでは、君の親とはそりが合いそうだな。」
「てことは、君も?」
「ああ、好きだ。彼みたいな哲人の言葉は特にな。」
そう言って、彼女は手に持った本の表紙を見せてくれた。
―――『哲人訓〜彼らが教えてくれた教訓〜』
とかかれていた。
「へえ。で、さっきの言葉の意味は?」
「『失敗したのは誰のせいではない。原因は、自分にある。反省しろ。』、だ。」
「ふーん、いい言葉だね。でも、彼にはそのありがたい言葉は、届かないと思うよ。」
僕は、隣を見ながらいった。
「そのようだな。」
そう言って、彼女は微笑んだ。
隣の生徒は、きっと楽しい夢でも見ているのだろう。口を半開きにして、楽しそうに寝ていた。
「・・・彼が笑っていられるは今のうちだけだろう。」
彼女は、そう言って悲しそうな目が彼を見た。まあ、あんなに赤点を取ってしまったのならきっとこれから一週間ぐらい地獄が待っているのは間違いない。
「それでも、『逆境も考え方によっては素晴らしいもの』、でしょ?」
僕は、親父が哲学者で有ることに感謝した。
「それもそうだな。」
彼女は、そう言って笑った。
「それにしても、こいつこのままでいいのかな。」
僕が、そう呟くと彼女も何か呟いた。
「『愚者は語り、賢者は聞く』か・・・。」
「何か言った?」
「いや?何も。」
「ならいいや。」
春であることを主張するよう、暖かい風が教室を駆けめぐった。