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異世界転生録  作者: TEMP
3/5

はじまりの話

単話投稿の方で上げたものを連載投稿のほうに上げ直しです。改行とかちょっと弄っただけなので中身変わってません。

 ある日のこと。


 私はいつものようにオフィスチェアによりかかり書類と格闘していた。

 様々な場所から自由勝手なフォーマットで送られてくるので、それらをまとめて整理するだけでも面倒くさくなってくる。

 書き方だけならまだいい。言語が違ったり、書かれている媒体が上ではなく電子メールや羊皮紙だったりもする。挙句の果てには石版に描かれた絵なんてこともあるから厄介だ。人が供物を祭壇に捧げて天に祈っているシーンを見せられても、一体何のことなのか全くイメージできない。


「まったく……グゴロダラスがジェイーダにされたからヘラドーの業火を授けてほしいというだけなのに、どうして羊皮紙30枚も使うかなぁ」


 はぁ、と嘆息していると、横から事務員のヘテロナがお茶を持ってやってきた。


「仕事ですから」


 相変わらずこの娘は言葉が少ない。最初は緊張しているのかとも思ったのだが、どうやらそうではないらしい。


「そりゃあそこは公文書で無駄に形式ばるのが必要だってのは理解してる。だがこっちだって仕事で請け負ってることなんだ。余所の文化を押し付けられても困るんだよなぁ」


「そうですね」


 私はヘテロナが淹れてきてくれたお茶をすする。私の好きなほうじ茶だ。


「次の異動者リストはまとまったかな?」


 私はヘテロナが持っている書類に目をやる。確認してもらうついでにお茶を入れてきてくれたのだろう。無口だけど気配りがよく利く。


 どうぞ、と言って持っていたリストを差し出してきた。私はそれに目を通す。今回面談する相手はあまりパッとしない奴らばかりか。


「今回はどのへんに送れば良いと思う」


「1番から7番はサタスの工業発展期ですね。8番と12番はメンタルに問題があるので、グラーマの大戦後安定期が良いかと。9番から11番は友人同士でありまだ若いため、ヘリンベルの調整初期でも十分活躍できるのでは、と」


「そうだな。では、その方向で検討しよう」


 私は9番から11番の内容を頭に叩き込み、リストを引き出しの中にしまった。


「その3人から最初に話しを聞こう。連れてきなさい」


——


「ここ……どこだ……?」


 転移させられて現れた三人のうち一人が呟いた。三人は突然のことに頭の整理がついていないようだ。

 真っ白でなにもない空間(といっても私のデスクがあるのだが)を訝しむように、怯えるように、そして興味深げに見渡している。


「斉藤一樹、二宮修次、市之瀬光輝、だったかな」


 私が声をかけると、三人は驚いた顔をしてこちらを向いた。


「突然のことに戸惑うのは無理もない。君たちは放課後の帰り道で、居眠り運転をしていた車にはねられ三人揃って亡くなってしまったらしい。お悔やみを申し上げる」


 私は淡々と事情を述べる。自分たちの遭遇した事態を思い出した三人は、それぞれ違った反応を見せた。

 斉藤は驚愕に目を見開き、二宮は恐怖に怯え、市之瀬はその名前に劣らないよう目を光り輝かせた。


「ここは天国のようなところだと思ってもらいたい。そして私は神のようなものだ。といっても、君たちの思っているような全知全能なものではない。もとの世界には戻すことは出来ないのだ。申し訳ないが、それだけは理解しておいてもらいたい」


 私は軽く自己紹介をした。

 斉藤と二宮はどうやら理解が追いついていないようだ。わかるともわからないとも言えないといった顔でうなずく。市之瀬は少し興奮したように一歩前に出る。


「あ、あの、それって……コレってもしかして、その、異世界転生……ってやつだったりしますか!?」


「あ? 光輝、お前いきなりなにを――」


「おぉ、君はそういうのを知っているのか。ならば後で二人にも説明して上げなさい。そのとおり、これは君たち若者が他の世界でもう一度だけ人生をやり直すことができるように我々が用意したものだ」


 市之瀬はグッと拳を握りガッツポーズをとった。斉藤はまだ疑うように私と市之瀬を交互に見やる。


「なに言ってるんだ光輝、異世界転生? そんな漫画じゃあるまいしあるわけねーだろ。じーさん、俺たちをおちょくってるの?」


「そう思うのも無理はない。だがこれは事実なのだ。どうあがいても元の世界に戻ることは出来ない。これから行く世界を見てもらえればそれも理解できよう」


「あぁ!? 勝手に決めてんじゃねーよ!」


「ちょ、ちょっと一樹ぃ……」


 おどおどしながら二宮が斉藤を制す。斉藤はなにも言わず私を睨み続けている。二宮は間を取り持つように私に問いかける。


「あの、つまり僕たちはこれから他の世界に連れていかれてしまうってことですか……? 拒否した場合とか、言うことに従わなかった場合はどうなるんでしょうか……?」


 落ち着いていて機転の効く子だ。まだ少し混乱しているようだが、今どうすればよいかを正しく考えている。


「申し訳ないが、君たちに拒否権はない。死亡した若い魂は君たちの世界とは異なる世界に移される決まりがあってな。その他の選択肢を我々は用意しておらんのだよ」


 まぁ、例外が無くもないが。と三人には聞こえないようにつぶやいた。あまり余計なことを言って負担が増えるのだけは避けたい。


 はいはい! 質問でーす! と言いながら市之瀬が手のひらを上に上げた。


「異世界転生だったら、転生特典みたいなのってありますか!? ものすごい膨大な魔力が手に入ったり、ドラゴンを一撃で薙ぎ払える強い力だったり。いっその事、何に使えるのかわからないようなマイナースキルでも全然オッケーっす!」


 この子は異世界に異動することに強い興味があるようだ。先程から興奮の収まる気配が全く無い。それだけ元いた世界は面白くなかったのか、それとも辛いことがあったのか。


「ふむ、特定の個人に与えられるような能力というのは存在しないな。ただし新たな世界で肉体を得る過程で、現地の人々が持っていない感覚と力を得ることにはなる。それらをどのように使い、鍛えていくかは君たち次第になる」


 そう言うと市之瀬は、っしゃあ! と叫んで再びガッツポーズをとった。


「早速転生をお願いします! 最強のスキルを習得して異世界生活を満喫しようぜ! なぁお前ら!」


 市之瀬は二人の肩を引き寄せた。しかし二人はまだなにか気になることがありそうだ。斉藤は不満そうな顔をしており、二宮は少し目が泳いでいる。


「もう少し説明をしてあげたいところだが、乗り気になってくれたのならそれも良いだろう」


 何より、次の面談もまだあるのだ。できるだけ短く済ませたい。


「最後に一つ言っておこう。君たちがこれから向かうところは、人間を始めとした多くの生命が滅ぶ危機に面している世界だ。それを解消してくれることを願って私は送り出す。是非とも世界のために活躍してきてもらいたい」


 私は机の上に置いてある地球儀の前に行き、台座に埋め込まれた目盛を回した。その後地球儀のある一点に触れると、その地点が淡く光りだし、三人の少年たちも光に包まれ始めた。


「それでは、健闘を祈る。将来有望な三人の子たちよ」


 行ってまいります! といって市之瀬はビシッと敬礼をした。直後、三人は光に飲み込まれていなくなった。


――


「お疲れ様でした」


 面談をすべて終えると、ヘテロナがお茶を持ってやって来た。


「あぁ、今回も大変だった。突然泣き出すやつ、怒りに任せて殴りかかってこようとするやつ。私の言ったことをこれっぽちも理解してくれないやつ。……他人の相手は、疲れる」


「仕事ですから」


 相変わらずこの娘は言葉は少ない。いくら向き合ってもそんな感想しか出ないでいる。私は置かれたお茶を一口すすった。


「いつもの通り、今回の異動者に対する結果は後ほど報告書をまとめておいてくれ。今回は思っていたよりも興味深い結果が出るかもしれんぞ」


「わかりました。まとまりましたら持ってまいります」


 ヘテロナは軽くお辞儀をすると、自席へと戻っていった。


 さて、一息ついたら作業の続きだ。と机の一端をちらりと見る。

 面談をしている間にも新しい書類が増えていた。これらには様々な願いが書かれた神への願い事がしたためられている。時代も文化も違う場所から無造作に送られてくるため、形も言語もまちまちである。無造作に積み上げられた山を見る度に頭が痛くなり、ため息が自然と出てくる。


「仕事ですから、な。……仕方ない」


 今度ヘテロナを食事に連れ出すか、と私は考えた。彼女は何も話さないため、そういった時間を作ってやらないと近況把握が全然できないのだ。上司としての立場上、面倒でも自分から働きかけなければならない。


 湯呑が空になると、私は書類の山の一番上に置かれた一枚を取り上げた。コレはそれほど難しくなさそうだ。机から筆記用具を取り出して真っ白な紙に願いの内容を書き写していく。


――こうして、神の一日は過ぎていく。

この人は天界の地上世界統括部地球管理課人類係祈願受付室の室長さんです。


名前は特に決まってませんが、とりあえず神様の一人です。多分。

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