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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者から「お前いらない」と言われました。そんな事よりも、俺の職業は錬金術師じゃないって言ってるだろ!

作者: 多々良ひつじ

「錬金術師。お前は、いらない」


 はい?


「お前は、このパーティーから抜けてもらう」

「そうですね。身の為です」

「お荷物だし」

「……チッ」

 

 舌打ちされた……

 順番に、勇者、聖女、魔女、女騎士のご発言。

 女騎士に至っては、発言と呼べる気がしない。

 

「ええ~」


 俺たちは、いわゆる勇者PTって、やつだ。

 目的は、お決まりの魔王の討伐って、やつだ。

 で、こいつが異世界からの召喚勇者って、やつだ。

 魔王が居るせいで、世界が脅かされるって、やつだ。

 王様はおっしゃりやがっていましたが、それよりお膝元の貴族派を何とかする方が先じゃねえの? て、やつだ。

 やつだ、やつだ、やつだ……


「お前がいると、PTの輪が乱れる」


 俺さあ、魔王まであと半分のここまで、ずっとボッチだったんですけど?

 初めは、普通に世間話でもして、良い関係までいかなくても、問題ない程度まで築けるようにと考えていた。


「俺の魔女や聖女、女騎士に言い寄るな」

 

 あれって、俺が口説いてる事になってるの? マジで? 『体調に不調を感じたら遠慮せずに言って下さいね』って、言ってただけじゃん。

 しかも、『俺の』って、男女の関係を隠す気が無いのね。

 目的達成で姫様をもらえるとはいえ、それまで男女間の事は無しって言われたろ。

 あ、もしかして勇者と姫様に限定した事だと曲解してるのかよ。


「もともと、お前をこのPTに入れる事に、俺は反対だったんだ」


 知ってた。

 だって、女じゃなきゃ嫌だって言い過ぎ。

 俺に声がかかる前に、既にそれは有名になっていたからな。


「ポーションや装備の管理やら、旅の助けが必要だ。と言われたが、」


 君たち料理は出来るよ?

 でも、狩りは出来ても、血抜きは知らなかったよね。

 ここまで宿が取れない時は馬車で夜を明かしたけど、この先馬は使えなくなるよ?

 テントの設営できるの? 出来ても、撤去の際の手入れをしないと、凄まじい事になるよ? 面倒がらずに出来るの?


「負傷は、聖女の奇跡で間に合っている。そもそも、俺は怪我なんてしないしな」


 勇者が聖女を見ると、聖女は勇者に祈りを捧げた。

 あんたの祈る相手は、神様でしょうが。

 いやいやいや、ポーションとか大事だよ。

 確かにポーションが出来る事は、聖女も出来るよ? 

 でもよ。聖女が居ない処では、奇跡を受けれないじゃん。別働隊とかPTを分けた行動とか、そういう事を考えられないのかな?


「目くらましや、ちょっとした火なら、魔女の方が優秀だ」


 へんっ、と魔女が一歩出て胸をそらせた。

 おいおいおい、煙幕や閃光くらいで、魔女に魔術を使わせるのかよ?

 魔女の魔力量は半端ないから、魔力消費がかさむ事は問題にならないんだろうけど、連戦が二回、三回で終わるって思ってない?

 それに、ちょっとしたことも魔女頼みになると、戦術幅が狭まるじゃん。

 炎系の魔術に合わせて、油まいたり、小麦粉まいたりとかさ、冷却材をかけるとかさ、あるじゃん色々。


「錬金術師の貴様は、自分の身さえ守れないだろうが。それが、何度女騎士の邪魔になった事か」


 女騎士が剣抜いた。

 待て待て待て、サポート出来て狙われない場所に、位置取りしてましたけど?

 なのに、俺の所に敵を追い込んでおいて、毎回舌打ちする女騎士はなんなの?

 だいたい、モンスター寄せの為に、毎回俺から香袋を持っていってるのは、なんでなんだよ。


「何より、彼女だ」


 勇者が指差した先には、今も一人黙っている彼女がいた。


「お前の性で、いつも彼女はお前を守る事になって、戦力が削られるんだよ」


 線の細い身。先のとがった耳。エルフの特徴を持ちながら、ところどころ分不相応なボリューム。

 彼女は、いわゆるハーフエルフというやつだ。

 聖女が淑女恥じらい系。 

 魔女が年上妖艶系。 

 女騎士がクッコロ系。

 なら、

 彼女はエロリ系だろう。

 姫様? 知らん。


「彼女は、俺の指示よりお前の安全を優先する」


 俺みたいなのは前衛と後衛の中間、やや前衛よりに居た方がよいのは、分かっている。

 だが、この勇者。

 自身を真ん中に置きたがる――女に囲まれたいんだって。

 後衛を近くに置きたがる――後衛にも自分の活躍を見せたいんだって。

 斥候のハーフエルフを遊撃させない――いない所で俺とイチャイチャしてるか不安になるんだって。

 で、俺は弾かれた位置に指定。

 そりゃ、一人でいる奴から狙うのは、セオリーだろう。

 で、視野の広い彼女が、その都度俺をガードしてくれるわけだ。 

 勇者は、彼女につかつかと歩み寄ると、これ見よがしに、


「彼女だって困ってるんだ」


 彼女の腰へ腕を回して抱き寄せた。

 ……彼女がすごい勢いで頭を左右にふっている。

 勢いよく彼女の髪も振り回される。

 目に当たる髪が痛いのか目を開けられないでいる勇者。

 なんかウィンクしてますをアピールしてるけど、誰にだろうね。


「ねえ、勇者。その子も追い出しちゃったら?」

「駄目だ、魔女。彼女は必要だ。あ、」


 一瞬の隙を突いて、彼女は勇者の腕から逃れた。

 

「僕には君が必要なんだ」

「俺?」

「お前じゃない! 彼女だ!」


 いや、勇者。俺に向って、手を伸ばしたじゃん。

 まあ、勇者の求める彼女が、俺の後ろへ隠れたからなんだけどね。

 

「あいつ等は、いらないのか?」


 指さす俺に、間髪入れずに勇者が答えた。


「彼女たちも必要だ!」


 おいおいおい、ただのハーレム宣言になんで顔を赤らめる。君たち。

 ただのコレクターだろ?

 そりゃ、勇者は金髪・碧眼・イケメン・長身・足長だよ。

 それに比べて俺は、灰色の髪に、灰色の瞳、身長は高くないし、足は長くないね……

 でも、顔はふつ――


「不細工ですよね」

「ブサ夫ね」

「ぺっ」


 ――う~。って、思わせてもくれなかった……


「いいから、彼女を寄こすんだ!」

「嫌だよ」

「なん……だと?」


 この旅の間、俺は勇者に意見するような事はしてこなかった。

 だからだろう、少し声を荒げればビビると思ってた俺の態度に、頭がついて来ないようだ。


「い、や、だ」


 もう一度言ってやった。


「女の前だからって、粋がるなよ」

「触るなって、言ってるでしょ!」

「え?」


 勇者ドン引き。

 冥王も裸足で逃げ出すデスボイスが炸裂した。

 彼女――ハーフエルフは、もともと美声であったらしいが、長期化した戦争の際に、喉を酷使したせいで声をつぶしてしまったらしい。

 だみ声が恥ずかしくて、人前では声を出さないようにしていたんだって。

 旅を始めて間もない頃、そんな彼女の声を俺は偶然聞いてしまった。

 つまづいた彼女に手を伸ばしたら、『ヴィデ』って、ちょっと文字に起こせない微妙な音が、彼女の口から洩れた。

 彼女はあわてふためいて思わず、職業斥候から殺し屋にジョブチェンジしかけたが、必至の言い訳――いや説明で、気にならい事が伝わると、彼女は安心してくれた。

 俺も安心してくれた。

 と、思わず他人事にしてしまいたくなった程だ。

 安心を安全にと、喉にいい薬湯や薬丸をあげたら喜ばれた。

 何でも、怪我とかではないため、回復系の魔術は効果がなかったそうだ。

 ハーフエルフに偏見があるこの人の世で、金だけ取って……ではなかったと思いたいね。

 

「ああ、もういいわ。いい加減うざいのよ。すぐにあちこち触りたがるし、理由をつけて部屋に連れ込もうとするし、明け透けすぎてキモイっての!」

「キモイ……」

 

 勇者は今まで、チヤホヤはあっても、罵られた事はなかったんだろう。ちょっと涙目になってるよ。

 俺なんて、『キモイ』で泣いてたら、体の中の水がたりなくなるぜ。

 へこむわー。


「私はね。彼のほうがいいの!」


 口を塞がれた。

 キスは嬉しいけど、舌を絡めてくるとか、飛ばし過ぎじゃね?

 後、俺の脚を跨いで、腰を押しつけて来るとか、頑張りすぎじゃね?

 ハーレム’ズが、すげー文句を言って来る横で、勇者は何とも締まりのない顔でいる事。


「彼女は、ともかく。俺がいらないってのなら、黙って抜けるよ」

「当たり前だ」


 なんでこんなに勇者は偉そうなのかね?


「ただ、貸してたモノは、返してもらうぞ」

「は? 何を言ってるんだ。お前から借りた物なのどない。そっちこそ有り金、装備を置いていけ」

「は? お前こそ、何言ってんの?」

「『お前』じゃない。勇者PTを外れるのだから、『勇者様』と呼べ」


 貴族社会の事も知らないやつが、自分を様付って……

 後ろのハーレム組も、『当然』とかぬかしてるし。


「出発の時にもらった支度金は、勇者が管理するって言ったけど、魔女が『六等分にして個人で管理』を譲らなかったから、お前もそれでいいってしただろう?」

「『お前』じゃない、勇者様だ。このお金は、旅の支度金だ。ここで抜けるお前には、関係ないお金だ。本当は使った分も払わせたいが、それは目をつぶってやるって言うんだ」


 いやいやいや、ここまでの宿代とか食事代とか、後で纏めて王様に請求するから、とりあえず俺が払っとけって、あんたら押し付けたろうが。

 おかげで、俺の為に使ったお金とかないから。

 どうせ帰りの行程も俺が持つことになるんだろうと考えて、宿とか食事とか選らんでましたけど?

 これは魔女の入れ知恵か?

 案の定、魔女のやつドヤ顔かましてくれてるし。


「わかった。ほらよ」

「それでいい。今身につけている物も、置いていってもらおう」

「はあ?」

「国から与えられた物は、国民の血肉で揃えられた物です。この旅から外れるのであれば、当然かと」

「こんなブサ夫の裸なんて見たくないんですけど。どんな罰ゲームよ」

「……」


 誰も見せるなんて言ってないし。

 罰ゲームだと。キスしてくれた彼女に誤りやがれですよ。

 そこの女騎士。口を押えて何前屈みになってんの? ――って、そんなに?

 へこむわー。

 着けてる物を置いてけ?

 さっき、文句の一つでも言っておけばよかった。

 こいつ、俺が黙って従った事で何を感じたのか。図に乗りやがって。


「聖女は、本気で言ってんの?」


 うわっ、真顔で首を傾げられたよ。

 そう思うのなら、不相応に豪華な刺繍の入ったその服装を、改めろと言いたい。

 この前、黒パンを前にして『このような食事も試練ですね』なんて言ってたけど、アレ市井の人々では上等な方ですからね。

 なんか思いっきりため息が出た。


「なんだその態度は!」


 おー、女騎士が初めて口を開いたと思ったら、罵声ですか、そうですか。


「お前らは、装備を借りたみたいだけど、これはもともと俺の物だ。持参品」

「嘘をつくな!」


 お前の剣は随分軽いな、女騎士。危ないから剣先を向けるなよ。


「お前を視界に入れたくなくて、ほとんど見ていないとはいえ、お前の装備が変わっている事くらい、分かっているのだぞ!」

「これ、自作。自分の装備が壊れる度に、自分で手直ししてるだけ。材料も自前だ」

「な! 馬鹿な、貴様の装備は形もだが、能力の向上や付与も追加されていたはずだ!」


 いや、俺がそういうことが出来るの、そんなにおかしい?


「だから俺は、錬――」

「馬鹿にするなよ! いくら魔術の知識のない私でも、錬金術師にそんなことが出来ない事くらい知っておるぞ! 嘘をつくな!」

「そうね。錬金術師には出来ないわね」


 と、女騎士を援護する魔女。

 ええ~、硬化剤や柔軟剤を、革や布に浸透させて強度を上げる事や、鉄鋼の加工の際に、耐火や耐腐の薬剤を練り込んで、性質を追加させることは、普通に行われてるでしょうが。そこの魔女。


「ポーションや、薬剤の使用はともかく、革布の加工や、ましてや刻印なんて、そこのブサ夫に出来るはずないわ」


 知識じゃなく感情で、俺否定されてるの?


「だから、いいか、よく聞け。前から言っているが、俺は錬金術師じゃない」

「錬金術師だろ」

「だから違うって、言ってんだろ!」


 この勇者、まだ俺を錬金術師って言うのかよ。


「俺は、錬生術師だ!」


 本当に興味ないのな、俺に。


「もう、いいよ。取りあえず返してもらうからな。シリアルコード、Y100101から……――」


 はあ、もったいない。

 

「――……K100105まで。後、ZLA‐M01――」


 これ造るのに、結構な時間を取られたんだけどなー。でも仕方ないか……


「――機能停止」


 突然呟やいた俺の言葉の意味が分からないのか、何かをしてくる事も無く、言い終える事が出来た。


「重い!」


 劇的な変化があったのは、女騎士だ。

 自分の装備の重さに負けて、地面へ崩れ落ちた。

 勇者、聖女、魔女の装備も、輝きを無くしたリ、縫合がほつれたりし始めている。

 俺が予め組み込んでいたコマンドワードに従って、付加された能力が停止された結果だ。


「貴様! 何をした」

「返してもらったんだよ」

「何を言っているのです。これは国民の――」

「俺が作った」


 勇者よ。聖女よ。よく聞けよ。


「俺が依頼を受けて作ったんだよ」

「それが本当だとしても、やはり国の、国民の、」

「でも、お金が払えないって言われてなー」

「え?」

「仕方がないから、あくまで俺の所有物を貸し出すって事で妥協したんだ。目的を達成したら買い上げる。材料費だけは先に払う。って事でな」


 聖女は目を見開いた。

 ふーん、目を大きく開ける事が出来たんだ。


「俺が作った物なんだから、そりゃ手入れや修繕に俺を同行させるよな」

「そんな事、王は一言もなかったぞ。嘘をつくな」

「また、嘘つき呼ばわりかよ」


 なんで、王から無償の信頼があると、この勇者は考えられるのかね~。


「そこで這いつくばってる女騎士や、魔女ならなんとなく察しがつくんじゃないか?」


 女騎士は、地面に顔を押し付けてるから見えないが、魔女の方は思い当たる処があったようだ。


「じゃあ、この聖剣も……」

「ああ、安心してくれ。ソレは、俺が作ったのじゃないから」


 勇者は、露骨に安堵した。

 女神様からの~って、くだりが、それ程までお気に入りだったのか。


「だから、材料費としての装備は置いていく。けどな、未報酬の能力は返してもらう。というか、結局自分の物を自分で壊しただけだろこれ。本当、大損だ」

「この、ブサ夫! 人でなし!」

「この魔女! ブサ夫は関係ねえだろ! 後、あんま腕を振り回すな。すっぽ抜けんぞ」


 今の魔女の左腕は、切り落とされた魔女の腕を基に、術式を書込み、魔力の増幅触媒を骨として、俺が生成した腕だ。

 聖女の奇跡でも癒せたが、二日も時間をさけないと、勇者が言って聞かなかった。――その村に、女の子はいなかったからな。

 仕方がないので、生体人工腕を俺が生成して、時短と次いでに戦力強化を図ったわけだ。

 押し付けても、くっ付くわけじゃないから、聖女の奇跡との併用。

 俺の機能停止命令に従い、生体としての力を失っている。今くっ付いているのは見た目だけだ。

 静かにしていればいずれ、普通の腕として機能すると思う。

 

「あっ」


 言ってるそばから、抜けたよ。

 ご丁寧にこちらに飛んできた魔女の元腕をキャッチ――することなく、叩き落とす。

 魔女は悲鳴を上げながら、あわてて腕を回収しに走り寄ってくる。


「外れちまったら、もう一度付けようとしても、無理だからな」

「え?」


 腕を拾い上げた魔女は、よほどショックだったのか、マジ泣き顔。


「まあ、聖女の奇跡なら、ソレが無くても直せるだろう。むしろ無い方が、都合がいいんじゃないか? 祭壇儀式が必要だけろうけど、三・四日もあればいけんじゃねえの?」

「本当?」


 魔女のぐずった声と顔に、聖女は微笑みで答えた。


「な? あ、でも急いだ方がいいぞ。この手の奇跡は、時間が経てば経つほど難しくなるのがお約束だからな。まあ、そこの勇者様が、滞在を認めてくれればだが」


 ここから一番近い国教会は、来た道を戻る事になるが、そう遠くない場所にある。

 そこは、勇者が滞在を愚図った町だけどな。

 俺と話すのは、気持ち悪かったんじゃないのかよ。

 

「この先にも町はある。そこでいいだろ」

「いや、国教会が無事かはわからんだろう? 魔族の勢力圏に近づいてるんだからさ」


 なんで線を引いたように、こっから魔族圏、こっからうちの国って、なってると思うのかね? 土地はそうでも、人の生活はそんな簡単に区切れるわけないだろ。


「勇者!」

「大丈夫だ」

「勇者……」

「魔女なら、片腕でも戦えるよ」


 うわ、さすがの魔女も絶句した。

 何だろ? こいつ本当に人間か? なんか夢の中か、お人形遊びをしているような、歪な感じは。


「あれ?」


 魔女に合わせ、聖女もさすがに思うところがあるのか、勇者を見つめている。

 この空気に耐えきれなかったのか、勇者が強引に話題をかえた。


「それより! 彼女だ!」


 ええ~、その話題転換は無いわ~。

 

「Gya」

「君は騙されてるんだ! 何をした錬金術師。何か怪しげな薬でも使ったんだろ!」

「いい加減頭悪いな! 俺は錬生術師だ!」


 勇者に無理やり引き剥がした彼女が、小さな何かを上げる。

 唾飛ばしてくんなよ。

 あんまり殴り易そうな処に、勇者の顔があったからか――


「ぶべっ」


 意識せず殴っていた。

 いやー、結構不満抱えてたんだな、俺。

 あ、いかん。今、術を発動させたっぽい。

 そこの凍った湖面より滑らかな平原胸よ、待つのだ。

 

「ちょっ――」

「残念だったな。この程度、問題にならないよ」

「――と、……やっちまいやがった」


 聖女が、すかさず癒しの奇跡を行った。

 魔女への態度を見た後だと言うのに、さすがと言うか、なんと言うか。

 ちゃんと奇跡がなされたか、勇者の顔を見た聖女が、固まった。

 だから止めようとしたのに。

 

「ブタ……」


 鼻血の跡も綺麗に消えた勇者の鼻の穴は、正面に向いていた。

 意図せず錬生してしまったが、直ぐに錬生し直せば問題にならないはずだったけど、


「回復した事で、固定されちまったな」


 周囲の微妙空気にオロオロとする勇者へ、そっと手鏡を差し出す俺。


「何を。……」


 手鏡に写る自分の顔が信じされないのか、勇者は、恐る恐る聖剣に自分の顔を写す。

 あ、真っ白だ。

 聖女は、自分が関わったからか、勇者に寄り添っている。

 魔女の顔からは、何を思っているのか読み取れない。

 極端なのは、女騎士。


「ぺっ」


 今も地面に這いつくばっているが、勇者の顔を見るなり、唾を吐きだした。

 

「ぺっ」


 俺を見てもう一度。

 お前、面食いにも程があるだろうが。

 後、俺を見て唾吐くな。


「にしても……」


 廃人と化したブタ勇者。

 なんとも微妙な顔の聖女。

 勇者を蔑む、泣きづら魔女。

 勇者から無理やり顔を背けて、あごに傷を負っている女騎士。

 なんだ、このグダグダ感は。


「はあ、とりあえず俺は行くぞ。じゃあな」

 

 だれか一人でも正気に戻ったら、面倒な事になるのは明白。

 即行動だろこれ。

 来た道を歩き始めた俺の腕に、ハーフエルフは腕を絡めて一緒に歩き出す。

 一緒に来るのね。

 と思ったら、おもむろに彼女が振り向いた。

 勇者を指さして、親指を立てた後、


「あんた達は、それで満足してなさい」

 

 と、ハーレム要員? な彼女たちへ言い放つ。

 彼女は、空いている手を握って腕を引き絞り、

 

「私は、これに――あ、違った」


 俺に絡めた片手を加えて、両腕を立てて見せつけた。


「溺れていくから」


 今、変な刺激をあたえないでー!

 正気に戻ったらどうするんだよ。

 それはそれとして、


「な、なんで知ってるんだよ。見た事ないだろ」


 小声で尋ねると、彼女は隠すことなく教えてくれた。


「まだ暑さが残って大変よね。テントの入口を開けたくなるの分かるわ」


 あー、朝の寝相が、目に入ったのね。

 夜御盛んな勇者は、聖女、魔女、女騎士と一緒のお部屋。

 同席を拒否していた彼女は別の部屋。

 俺はというと、馬小屋か、宿のちょっとした場所にテントを張って、そこで寝ていた。


「まさかって、ビックリした」

 

 未熟な自分の失敗結果だよ。

 それより、君の発言にびっくりだよ。



 □ □ □



 ちょっとした後日談だ。

 後ろが騒がしいが、気にしないで欲しい。

 勇者PTが、その後どうなったのかは知らない。

 国王は、やっぱり国内の情勢がきな臭くなって、魔王にちょっかいを掛けている場合ではなくなった。

 再度、俺に装備の作成を命令されたが、お金をそろえてからと突っぱねた。

 不敬罪とか言ってくる前に、引越した。顔も変えてやった。

 ハーフエルフの彼女は、今も俺といる。

 やっぱり声が気になるみたいだったので、新しい喉を作ってあげた。

 感謝の気持ちを、三日三晩味わうことになった。

 俺にも彼女が出来たから、ちょっとはましな顔にしようとしたが、彼女に止められた。

 先に、勇者PTのその後を知らないと言ったが、実は一人だけ知っている。

 魔女だ。

 どこで聞きつけてきたのか、家の扉を開けると、魔女が裸で土下座していた。

 あの後、不貞腐れた勇者は、お前も不幸になれと魔女の腕を治すことを良しとしなかったんだと。

 勇者は魔術を使うのに絶対じゃないとしたが、山越、谷越、着替えに食事、それ以外では不便だろう。

 特にそういう世話を、自分以外に焼かれる事を、あの勇者は嫌っていたし。

 商売として、魔女に新しい腕を作った。旅先でなく、研究室であれば、腕の癒着も問題なく行える。

 ちょっと過激な設定にしたが、決して実験よろしく調子に乗ったわけではない。

 腕の機能は、定期的に更新しないと停止するようになっている。

 だから、買い逃げは出来ない仕様だ。

 まあ、今の魔女なら、滞りなく支払えるだろう。

 後悔している事もある。

 悪戯心で、魔女の考えるイケメンに顔を変えた事があった。

 ハーフエルフに怒られたので、直ぐに戻したが、その日から魔女の猛アプローチが始まった。

 頼むから、お前たちそれ以上研究室の物を壊さないで。


「あ、それは本当に駄目! ちょ、待てって、マジで!」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 何度も読んでるのに今頃見つけちまった…。 >魔女のぐずった声と顔に、聖上は微笑みで答えた 聖上→聖女 >テントの入口を開たくなるの分かるわ 開たく→開けたく
[気になる点] 改めて読んでみたけど…… 両腕を立てて……の下りがわかりません!
[一言] なぜ、国王は異世界勇者に頼ったのだろうか?錬生術師と聖剣だけで結構な軍事強化ができたはずなのだが? 腕や顔の人体錬成が出来る時点で、主人公は人体の魔改造〔ビルドアップ・骨格強化(女性的には…
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