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クラス全員転生者!?

 快晴の今日は入学式、これから俺の華々しい高校生活が始まる!

 勉強と部活を両立して、友達を作って、あわよくば彼女を作って、あわよくば彼女と一線を!

 そんな風に期待に胸を膨らませて登校し、堅苦しい式典を終え自分の教室にたどり着いた俺の目に飛び込んできたのは、異常事態ハーレムだった。


「ねえねえ緋影くん!部活何にするの!?私、まだ決めてなくてさー!」

「野球部とかどうかな?私そこでマネージャーする予定なんだけど、すっごく雰囲気良さそうだったよ!」

「いやいや、案外調理部とかも良いと思う!美味しい料理食べれるよ!」


 三、四人の女の子に囲まれているのは、腹が立つくらいのイケメン。そりゃモテるわって納得する程の男だった。

 くそう、くそう…中学の時も、今いるあいつには及ばないけどイケメンがいて、女子には見向きもされなかったんだよなあ…。

 だが、俺には余裕があった。

 あんなイケメン、なんて事はない。どうせ顔だけのなんちゃってイケメンだろう。俺は性格も良くて顔も良い真のイケメンと友達なのだ。前世でだけど。



 前世の世界で俺は、世界征服を目論む魔王を倒すため勇者に選ばれ、仲間とともに幾多の困難を乗り越え、魔王の根城に到着し、そこで四天王に殺された。打倒魔王の悲願は達成されなかったが、安心してほしい。勇者は俺だけではないのだ。

 俺以外にも、王子でイケメンな勇者、その弟でグレていた勇者、頭脳派勇者、漢気溢れる勇者、スイーツ系女勇者、正義の女勇者など、個性豊かな勇者がいた。地味で通していた俺には成し遂げられなかったが、奴らのうちの誰かは魔王の元へ到達し彼奴を倒したに違いないのだ。

 本命は王子勇者。俺の友達で、とても強く、こいつ以上のイケメンなど存在しないと俺に確信させた奴だ。

 異世界に転生してしまった俺には奴の動向を知る術はないが、きっと魔王のいない世界で立派に王様やっているだろう。そう思わないとやってられん。



「ねえ、あれ、すごいね」

 ハーレムに近づかないように遠回りして自分の席に腰掛けると、隣の席の奴が話しかけてきた。俺と同じ、冴えない感じの男だ。


「初日から人気者なんて、余程カリスマがあるんだろうな」


 その言葉に、俺は苦笑せざるを得ない。


「あんなんただ顔がいいだけだろ。女子だってイケメンを捕まえるのに必死なんだろうさ」

「捕まえる?何故?」

「そりゃ、彼氏にすんなら美形の方がいいからだろ」

「ああ、そういうことか。彼女達はあの人と付き合いたいんだね」


 何だこいつ。世間知らずか?


「おい光輝。何話してんだよ」


 こいつ光輝っていうのか。

 俺と光輝に絡んできたのは、何か胡散臭そうな男だった。ニヤニヤしながら光輝の肩に手を回して、俺を馬鹿にするかのように鼻で笑う。

 何だこいつ腹立つ。


「悪いなあ、こいつ、俺と双子なんだけどさあ、頭がさ、ちょおっと弱えんだよねえ」


 双子っていうのにもびっくりだが身内をここまでこき下ろせるのもびっくりだ。光輝は辛そうに俯いてるし、お前ら本当に家族か?って問い詰めたくなる。

 前世の家族も今の家族もどっちもいい人ばっかりの俺には、到底信じられない状況だ。

 そうこうしていると、教師が入ってきたので皆席に戻った。あの嫌な奴は光輝の後ろで、その後ろの席は何とあのイケメンのだった。他の人の席奪ってハーレム築いてんじゃないよ、迷惑行為だぞ。

 先生が新生活の心得的なものを話し終わり、自己紹介に移る。


「青山哲也です。中学では柔道部でした。高校でも続けたいと思ってます」

「飯野彩音でーす。お菓子作りが好きで、得意なのはプリンです」


 ごく普通に進んでいき、光輝の番となる。


「不知火、光輝です…」


 何か悩むようなそぶりを見せた後、光輝は、覚悟を決めたかの如く顔を上げた。


「昔は、アーサーって呼ばれてました」


 アーサー?


 「またやったよ、こいつ」と双子の片方が笑ったが、ガタッという音にそれはかき消された。

 音をたてて立ち上がったのは、俺、例のイケメン、いかにも不良っぽい男と、可愛い女の子。他の奴らもざわざわと騒ぎ始めている。


「…アーサー?」


 掠れた声でイケメンが尋ねた。光輝はゆっくり頷いた後で「クロウ…か?」と言う。

 クロウ。前世、王子勇者アーサーのパーティにいた、アーサーの親友の名前だ。

 その名を聞いて、ハーレム要員だった女子は「ないわ」と一瞬で冷めた。


「クソ野郎ッ!てめえ今までどこにっ」

「アーサー!あ、会いたかっ」


「はいはい、そこまでな。お前はオーディンで、そっちはアイリーンか?お前はジョンだろ」


 何で俺だけ確定なんだよ。合ってるけども。

 双子の片方はヘラヘラしながら光輝の肩を叩き、立ち上がった四人を見下すかのように顎を出した。


「なあ?残念だったな?俺とこいつ、双子なんだよ。なあオーディン?大好きなお兄様が俺の弟になったんだぜ?どうだよ、お前が甘えたくても素直になれなくて突き放した愛しい愛しいお兄様は、俺の弟になって、つまりお前は俺の弟になっちまったんだよ」

「てめえぶっ殺すぞあああああ!」


 不良が真っ赤になって叫ぶ。オーディンはアーサーの弟だ。欠点のない兄といつも比較されたことでグレた奴で、顔を合わせる度アーサーに突っかかっていたが、あれは一種のツンデレだったのだと今では分かる。何せ前世の世界ではツンデレなんて概念なかったからなあ。


「なあアイリーン?残念だったな?お前が仮にくっついたとしても、俺が兄として付属されんだよ」

「愛の前では無力ッ!」

「あ、さいですか」


 言い切った女の子の前では双子の片方も強く出られないみたいだ。

 アイリーンはアーサーに片想いしていた正義の女勇者だ。清廉潔白な彼女はアーサーと気が合うらしく、勇者が一堂に会する場ではいつもアーサーの側にいた。


「ていうかお前誰だよ。見当付かないんだけど」


 俺が言ってやると、片方はニヤリと笑い、


「聞いて驚け!俺は不知火夕陽。またの名をブラッド!」

「あぁー…」


 何人かの声が重なった。

 ブラッド。頭脳派勇者のとこの盗賊だ。言動がとにかく小物で、正義感の強い奴らからは良く思われてなかったが、コミカルな面もあったため大概の奴には好かれてた。俺も嫌いじゃなかった。

 今、普通に嫌な奴になってしまっているのはアーサーという大物が弟になって調子に乗っているからだろうか。というよりアーサーがブラッドに何らかの弱みを握られているのか。小馬鹿にされてたし。


「…あのさー、もしかしてなんだけど、ここにいるのって、結構顔見知りだったりする?」


 既に自己紹介を終えた飯野彩音がそう発言すると、ざわめきが倍になった。


「お、落ち着こう!とりあえず、最初から紹介し直さないか?」


 アーサーもとい光輝が取りなす。懐かしい光景だ。


「青山哲也、元はガードだ」

「ああー!リーダー!リーダーだったんですか!」

「うおおお!リーダーが生きてたああああ!」


「飯野彩音ことソフィアでーす」

「えーっやっば!全然変わってなーい!」

「ちょっと!変わってなくないわよ可愛くなったでしょ!」


「香取英司。ロイド」

「総帥だあああああ!」

「総帥!総帥!」

「ちょっと止めてくれないか恥ずかしい。若気の至りだったんだよあれ」


 そんな感じで異様な盛り上がりを見せながら自己紹介は進められていった。


「改めて、不知火光輝だ。昔の名はアーサー」

「…おかしいなあ、こんな筈じゃ…あ、ブラッドです」

「瀬尾緋影、クロウ。言い寄ってきた奴、皆知り合いって分かると気恥ずかしくなるな…」


 そういやハーレム作ってたなこいつ。正体が知れた途端に興味をなくされるとは、あの女の子達もやっぱり前世で共闘してただけはある。

 お、そんなこんなで俺の番だな。


「田中実、前世はジョン!皆、またよろしくな!」

「ああ、あいつ…」

「変わらず普通のままだな…」


 反応薄くない?普通のままっていうけど普通って何だよこら。三行で説明しろよ三行で。


「…野上亮介。オーディン」

「花岡愛梨です。アイリーンでした。また会えて嬉しいです」


 前世も今も可愛いとは卑怯なり、愛梨アイリーン

 そうしてクラス全員が転生者と分かり、思い思いに昔話に花を咲かせているところで、俺はクロウもとい緋影と共に、ブラッドもとい夕陽に声をかけた。


「で、お前は光輝を何で脅してるんだ?」

「女か?エロ本でも貸したか?」

「だーっうるせえなあ!分かるだろ!あいつ馬鹿だから自分が転生したって周りにペラペラ話すんだよ!それで一般人にどんな反応されるかなんて想像つくだろ!いじられキャラにでもしてやんねーと受け入れてもらえないってのに無駄に正義感強いから目立つんだよ!だから言ってやったんだよ!お前は異常なんだって!俺がいないとこで喋んなってよ!」


 意外にまともな理由だった。こいつも苦労したんだな。確かにアーサーは前世と今の価値観の違いで苦しみそうではある。真面目だからな。


「じゃあ何でオーディンとかアイリーンとか煽ったんだよ」

「俺だって!ストレス溜まってるんです!そもそもアーサーとかいう聖人と兄弟になるのが何で俺だよ!?クロウお前でいいじゃん!お前がその顔で女に持て囃されてた裏で俺は光輝の面倒見てたんだぞ!ちょっとくらい嫌味言ってもいーだろーが!あいつが俺の弟なんだぜすげえだろってちょっとくらい自慢してもいーだろーが!くそが!光輝の奴、いちいち俺の言うことに凹みやがるから罪悪感が半端ねえんだよオオ!」


 散々喚くと、夕陽はスッキリしたようで、「まあ、このクラスでならもう面倒は見なくて良さそうだな。光輝も俺も、自分らしくいられるだろうよ」と大きく伸びをした。

 話が一段落したので、俺はずっと疑問だったことを尋ねる。


「ところで、魔王はどうなったんだ?」

「ああそうだ。クロウお前、アーサーより生き延びたんだろ?どうなったんだ?」

「えっアーサー死んだの?」

「じゃあお前の隣の席のあいつは誰なんだよ」


 いやそういうことじゃなくて、夕陽の口ぶりだとアーサーが魔王に殺されたみたいだったから。アーサーが負けるところなんて想像つかない。

 戸惑う俺を「まあ俺も光輝から聞いた時はそう思ったよ」と夕陽はなだめ、黙り込んだ緋影の肩を叩いた。


「…アーサーが死んだ時、魔王は満身創痍だった。生き残った俺一人でも、トドメはさせる。させる筈、だったんだ…!」

「…させなかったのか。じゃあまだあの世界では、魔王が…!?」


 緋影は力なく頷き、夕陽は衝撃を受けてよろめく。

 ふと、引っかかった。

 このクラスは全員記憶を持った転生者で、あの時旅立った勇者パーティ、一人も欠けることなくこの場に揃っている。

 そんな偶然が、ありうるのだろうか?


 次の瞬間、俺達は光に包まれ、気づくと目の前は教室ではなく城内に変わっていた。近くにはアーサーやオーディンにちょっとだけ似た顔立ちのおっさんや、同じく似た顔のドレスの女の子がいる。

 魔王を倒すまで、勇者という役目は俺達を離してくれそうもなかった。






*****






 訳の分からない会話で打ち解け勝手に交流し始めたと思ったら光と共に一瞬で姿を消してしまった新入生らの担任である鈴木は、空っぽの教室を前にして呟いた。


「退職しよ」

田中実   前世名ジョン(地味系勇者パーティの勇者) モテない

不知火光輝 前世名アーサー(王道系勇者パーティの勇者 イケメン王子)

夕陽と双子

瀬尾緋影  前世名クロウ(王道系勇者パーティの剣士 アーサーの親友)

モテた

不知火夕陽 前世名ブラッド(頭脳派勇者パーティの盗賊) 光輝の兄


野上亮介 前世名オーディン(邪道系勇者パーティの勇者 アーサーの弟)

ツンデレ不良

花岡愛梨 前世名アイリーン(正義系勇者パーティの勇者 アーサーに片想い) 可愛い


青山哲也 前世名ガード(漢気系勇者パーティの勇者) 柔道部

飯野彩音 前世名ソフィア(スイーツ系勇者パーティの勇者) 調理部希望

香取英司 前世名ロイド(頭脳派勇者パーティの勇者 総帥) 黒歴史持ち


鈴木 一年一組の担任

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[良い点] テンポよく、おもしろかったです! [一言] 先生が魔王のオチかと思いきや、まだご存命でクラスごと召還… 先生ドンマイ
[気になる点] この続きが気になる! [一言] 鈴木…! あんたは前世の記憶戻ってないのか。
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