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アラサー、リア充から転落しました  作者: おじぃ イラスト:mononofu
4/10

元彼

 綾乃のヤツ、いまごろ何してんだろ。


 一ヶ月前に10年間付き合ってた彼女、綾乃に別れを告げた俺はいま、親と同居のマンションの一室で、少し後悔してる。


 付き合い始めた高3の春、当時所属していた陸上部に入ってきた新人が、もろに俺好みの前向きで元気な女子、綾乃だった。


 気に入られたくて、俺は陸上競技未経験、ちゃんとした走り方さえ知らない綾乃に手取り足取りとにかく熱心に、でも決して怒らず優しく指導してきた。


 その甲斐あってか綾乃のフォームは段々綺麗になってきて、スターティングブロックをはじめ競技用具の使い方も覚えた。


 そして夏休み前の終業式の日、道具を片付け終わったときに綾乃から告白され、見事付き合うことになった。夕方4時くらいだったと思う。


 だけど二人いっしょに過ごす時間は意外と少なかった。受験は関係ない。俺の親父が大阪へ転勤することになって、高校卒業と同時に引っ越さなきゃいけなくなったからだ。


 思えば18歳だし、俺だけ神奈川に残って一人暮らしすれば良かったんだけど、車好きな俺は免許を取って早々に中古のスポーツカーを買って綾乃に会いに行くのが楽しみになって、実際そうした。


 遠距離恋愛でも車があれば大丈夫。


 なんて甘い考えを挫かれたのは綾乃が大学を卒業して社会人になった4年前のこと。


 就活中、特に就きたい仕事はなく、それを人事に見抜かれたのか40社受けても内定をもらえず、仮に41社目で合格したとしても会社に飼い殺されるのが段々イヤになってきた俺はノリと勢いでどうにかなりそうなバイトで食い繋ぐと決めた。


 若いうちならなんとかなると思ってたけど、関東に行くガソリン代が結構痛手で、片道分は綾乃に出してもらう。月1、2回のデートで、それが当たり前だった。カネに余裕のある綾乃はたまに往復分出してくれた。


 それでも遣り繰りが苦しくて、いつからか綾乃が2ヶ月に1回は大阪に来てくれるようになった。新幹線で。高速バスじゃなくて、俺なんか自腹で乗ったことない新幹線で。


 しかも普通車指定席が満席だとグリーン車に乗る。俺なんか普通電車のグリーン車さえ自腹で乗ったことないのに(愛車のガソリンはハイオクだけど)。小田原おだわらまで2時間しかかかんないんだから自由席車両のデッキに立ってけよ。


 こんな感じで新大阪駅のホームで見送るとき、何度もコンプレックスを感じた。


 俺とのデート意外でも、綾乃は幼馴染みの紫音と高級なラーメン屋に行ったとか、カフェに行ったとか、北海道とか北陸で美味しいものを食べてるなんて写真をよくSNSにアップしてる。


 俺なんかいつもカップ麺で、コーヒーといえばたまに自販機で缶コーヒーを買うくらい。北海道? 海渡ったのかよ。北陸なら大阪から近いし俺といっしょに行けよ。でもカネに気を遣わなきゃいけなくなるから紫音と行ったんだろ?


 2歳下の綾乃に、知り合ったときはまだあどけなかった綾乃に、立場も所得も大差をつけられた。男のプライドをズタズタにされた。


 それだけじゃない。付き合ってから何年かしたころ、綾乃と会話をしても、なんだか心が通い合ってる気がしなくなってきた。初めのころは俺が先輩としてリードしてたはずなのに、いつしか綾乃が俺を見る目は、いたずら盛りのガキをあやすような困り顔になってた。


 そして、あれこれ色々と耐え兼ねた俺はあの日、ふるさと茅ヶ崎の海で、綾乃に別れを告げた。


 それから半月くらいは喪失感に支配されたけど、よく考えてみればカネが浮いた分ゲームに課金しやすくなったし、これからはプライドを傷付けられなくて済む。しかも画面の向こうの新しい彼女にならスマホ一つあればすぐ会えるし絶対に俺を見下したりしない。それに綾乃が嫌がるからやめてたタバコも吸い放題! わーい! たのしー!


 おっとそろそろバイトの時間だ。あ~めんどくせ。


 両親も働きに出て一人きりの賃貸マンションの一室。タバコを一本吸って、俺は深夜のコンビニバイトに出かけた。

 お読みいただき誠にありがとうございます!


 この自称優しい元彼。いつも笑顔を振り撒き爽やかな印象でありながら実は自尊心が強く、綾乃と別れると決めたら意志を曲げられなくなり、後悔している節もあるようです。


 こういう人が頑固オヤジになるのかな~などと彼の将来を想像しつつ描きました。

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