他界の終わり
「俺、絶対他界一のミュージシャンになるからさ!」
大好きだった佳祐君がそう宣言して、白線の内側に一歩踏み出したのを私はこの目で見た。そして思った。なんてカッコイイんだ。私もいつか、彼のいる他界で一緒に生きたい、と。
「それで、彼に告白したんだけれど…」
「未だ返事はなし、と」
「やっぱり振られちゃったのかなぁ…」
「返事ができないだけかもよ、お盆くらいまで待ってみたら?」
「うん…」
下校中、友達の理沙に佳祐君の事を相談しながら、私は携帯の画面を眺めた。未だに彼からの返事はない。私はため息をついた。彼のことを思い出して、胸が痛くなる。
「…でもさあ、やっぱり他界一の彼の隣にいるには、何かしら他界一のものを持った女になる必要があると思うんだよね私!」
「ふぅん…」
オーバーリアクション気味に熱く語る私に、理沙は拍子抜けなくらい平坦な声で応えた。
「決めた!私も他界一目指す!」
「他界一って…例えばどんな?」
「うぅぅぅうぅん…」
平坦な理沙の言葉に私は首を捻った。まいった。何も思いつかない。私には一番になるような特技が何もない。
「でもでも、そいえば理沙のお父さんって他界的に有名な建築家なんでしょ!?」
「まぁね」
「すごいじゃんそれ!絶対理沙にも他界に通用するナニカが遺伝してるよ!サラブレッドだよ!」
「そうかなあ…あんまり意味ないよ、そういうの」
相変わらず興味があるのか無いのか、まぁ無いんだろうけど一本調子な理沙を私は見つめた。理沙は毎回こんな感じだ。私より断然美人で頭も良く、性格も最高だ。だけど何というか、向上心がない。こんなにポテンシャルがあるのに、何だか勿体無いといつも思ってしまう。
「理沙は他界とか興味ないの?」
「まぁ…何れは行くつもりではあるけど。今は目の前の世界で精一杯かなあ」
「えええ!?」
さらっと他界宣言され、私は衝撃を受けた。なんだかんだ言って、彼女も先のことはしっかり考えているんだ。しかも他界まで視野に入れて。やっぱり理沙はすごい。
彼女なら、何れとは言わず今すぐにでも他界に行けそうな気がする。私が後押ししてやろうか。交差点で信号を待つ理沙の背中を、私はじっと眺めた。赤から青に変わる瞬間、理沙が私の方を振り向いた。
「…そういえばさぁ。近くに新しく喫茶店が出来たらしいんだけど、そこの店員が、めっちゃレベル高いらしいよ」
「マジ??」
信号が青になった。私はもう一度携帯を確認した。まだ他界に飛び出していった佳祐君からの返事はない。反応の無い他界一もだが、レベルの高い喫茶店の店員もやっぱり気になる。
私は理沙の背中を押しつつ、二人でニヤニヤしながら噂喫茶店へと一歩踏み出した。




