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軍都へ




「見えた。あれが四菱の製作所だな」

「でっかー。どんだけ土地があまってるのさ、この世界」

「民営でも兵器を作るんだから、土地なんていくらでも使わせるっちゃ」


 神社のそばの民家で1泊した僕達は朝一番で出発し、何事もなく四菱という少し笑える名前の工場が見える辺りまで進んでいた。

 ハシゴで登った屋根から下りて、三歩に続いて歩き出す。今日も、茹だるような暑さだ。地図で顔を扇いでも、涼しさなんて微塵も感じない。


「北には飛行場もあったはずだ。格納庫が無事なら、四式重爆以外の味方も目覚めさせてやれるかもな」

「どうやって?」

「機体に触れて語りかける。皇国の危機に、力を貸してくれとな。魂が眠っている機体は見ただけでわかるから、そうやって味方を増やすんだよ」

「へえっ。最初に目覚めた人は、どうやって目覚めたんだろうね」

「自然と目覚めて、基地に残された全国民一斉避難計画の書類を発見したらしい。そこで決めたんだそうだ。いつか怨霊という天敵を根絶やしにして、人間を迎えに行くとな」


 話しながらも、足は止めない。

 人間を迎えに行く時に、僕は用済みになるんだな。思ったが、もちろん口には出さない。

 この世界にどれだけの怨霊がいるのかは知らないが、僕が生きているうちにこの仕事が終わらない可能性もある。

 子供って、出来ないのかな。

 そんな考えが浮かぶと、昨日の夜を思い出して頬が火照った。

 地図を見て、色々と落ち着かせる。


「三歩、止まって」


 小声で制止。

 歩きながら開いていた地図に、赤い丸が3つ現れていた。


「これを見て」

「相手は3。まあ、殺るしかないか」

「僕がマグレ当たりしたとしても同数。外したら、一気に不利になるね・・・」

「なあに、奇襲をかけるのはこっちだ。笠原の射撃を合図に攻撃開始だとしても、私が3射すればそれで戦闘終了さ」

「なるべく当てるつもりだけど、その時はお願い」

「任せておけ。静かに移動して、狙撃場所を探すぞ」


 なるべく音を立てないように、三歩の後ろを着いて行く。

 津守神宮を過ぎてからは木造の民家も多くなり、雑草は生えてはいるが歩きやすい道になっている。

 看板に描かれた実写風の女優さんに見られながら、商店らしき建物の中に入った。

 暴徒にでも襲われたかのように、店内は荒れ果てている。それを気にする素振りも見せず、三歩は怨霊を撃てる場所を探しているようだ。

 地図に映る丸は、50メートルほど先で動かない。

 割れた窓。

 三歩が屈んで窓の下まで進む。

 目だけを出して怨霊の方を確認した三歩は、僕を見てはっきりと頷いた。


「怨霊は人型で突っ立ってる。武器は、拳銃が1に小銃が2。右の小銃を狙え」

「了解。僕が撃ったら、三歩も撃つんだね?」

「そうだ。好きに撃つといい」


 小声の会話。

 窓から目だけ出して、怨霊を覗く。

 3体の怨霊は何をするでもなく、こちらに背を向けて遠くの工場を見ていた。

 これなら、僕でも倒せるかもしれない。

 三十年式歩兵銃を窓から突き出して構える。

 怨霊は、ピクリとも動かない。


「いくよ」


 囁き。


「ああ」


 返ってくる返事も、僕の耳に届くか届かないかの大きさだ。

 息を止め、銃爪を絞る。

 間を置かずに、三歩も撃ったようだ。


「やるじゃないか、笠原っ!」


 ボルトを操作しながら三歩が叫ぶ。

 僕もボルトを動かしたが、薬莢が排出される前に銃声が響いた。


「倒し切れないだとっ!?」


 僕の装填は終わっている。

 HPバーに少しだけ赤い色を残してこちらに拳銃を向ける怨霊を狙い、もう1度銃爪を引いた。


「くそっ、当たらない!」

「任せろ!」


 三歩は、ボルトを操作しながらすでに立ち上がっている。

 銃声。

 2つ重なった。

 怨霊が倒れる。

 慌てて三歩を見ると、三剣ちゃんを乗せていない方の頬から一筋の血が流れていた。


「三歩、血がっ!」

「なあに、かすり傷だ。気にしなくていい」

「そうもいかないって、薬は!?」

「三剣達は人間じゃないっちゃからね。気になるなら、舐めればいいっちゃ」

「舐めっ!?」


 こんな昼間っから、その手のジョークとは・・・


「三剣達の傷はゆっくり休むか、所有者とくっついてればいつの間にか治るみたいだっちゃ。こんな傷なら、笠原が舐めたら全快するっちゃ」

「なるほど・・・」


 三歩は銃を背負って腕組みしながらそっぽを向いているが、心なしか頬が赤い。

 身長こそ僕より頭ひとつ低いが、三歩は言葉で表現するなら勝ち気そうな美人のお姉さんだ。その頬を舐める自分を想像すると、変態が女性を襲っているとしか思えない。


「ええい、男は度胸!」

「だから、かすり傷だと言ってるだろうが!」

「それでも、血を流してる三歩なんて見てらんないんだよっ。いいから大人しくして!」

「寄るな、変態!」

「冗談になんないから黙ってて、泣くよ!?」


 頬を舐める。

 多分、顔は真っ赤だ。

 舌を離して頬を見ると、傷は綺麗に消えていた。


「ふう、良かった」

「なんだろうこの、汚されたような感覚は・・・」

「うっさいよ。でも、1体だけ強かったんだね」

「ああ。レベルが高かったんだろう。この先、気を引き締めないとな」


 商店を出て、怨霊の死体があった場所まで歩く。

 地図に赤い丸はない。

 一番手前の抜け殻のような軍服の先には、映画で見た事のある拳銃が真っ二つになって落ちていた。


「.32自動拳銃だな。将校が持っていた輸入品だろう。あっちは三八か」

「えっ、三八って妹さんだよね!?」

「どれだけの数が作られたと思っているんだ。それに、魂が眠っているのは1丁だけだと言っただろう」

「あ、そっか・・・」

「回収。おお、さすが将校。米を持っていたらしい。ツイてるな」

「お米は嬉しいねえ」


 工場を目指して歩き出す。

 火災の危険があるからか、工場までの敷地に民家は見られない。

 長くても膝くらいまでの草を踏みながら歩くと、工場の入口と壊れた飛行機が見えて来た。飛行機を運ぼうとしていた時に攻撃されたのか、車輪のついたボロボロの荷台も見える。


「酷いね・・・」

「怨霊の航空機に爆撃でもされたか。航空機の怨霊はなぜか、航空機を壊したがるからな。敵は?」

「見える範囲には、いないみたい」

「なら行こう。あそこに残骸があるなら、あの建物で最終組立が行われていたはずだ」


 工場の中には、何機かの飛行機があった。


「外の壊されたのと同じだね・・・」

「四式重爆、飛龍。デカイ図体だからな、陸戦でもそれなりに頼りになるはずだ」

「どれも組立中だっちゃ」


 工場は広く、真ん中を開けて左右に飛龍が並んでいる。

 中には、骨組みが見えている機体もあった。


「いや、奥を見ろ」

「わあっ、大鼾で眠ってるっちゃ!」

「魂が眠っている機体?」

「そうだ。叩き起こすぞ、三剣」

「了解だっちゃ!」


 駈け出した三歩を追いかけて、工場を走る。

 機体に触れるというより叩いたと言った方がいいほどの音を出した三歩は、2つあるプロペラの片方の根本におでこを当てていた。

 僕に出来る事はない。

 地図を監視しながらじっと待っていると、アクビをする声が聞こえた。


「目覚めたの?」

「ああ。飛龍、シャキッとせんか!」

「んあーっ。ありゃ、ずいぶんと若返ったねえ。三十年式歩兵銃姐さん・・・」

「フン。年寄り扱いしたら、この場で本体を解体してやる」

「しっかし、何で人間みたいになってんだい、アタシらは?」

「それを説明する。座って、水でも飲みながら聞け」


 口を挟まず、地図を見ながら三歩の説明を一緒に聞く。

 それにしても、飛龍もとびきりの美人なのにはびっくりだ。

 しかもデカイ。

 身長もあるが、痩せ型の三歩の隣にいるのでその大きさが際立っている。

 飛行服のボタンがはち切れそうだ。


「なるほど、理解した。そんでその、人のおっぱいばかり見てる男が、第零司令部の司令長官なんだね?」

「・・・そうだ。後で殴るからな、笠原」

「な、なんでさ!?」


 飛龍が飛行帽を外し、頭を振って赤く長い髪を下ろす。

 やっぱり美人だなあと思って見ていると、飛龍は三指をついて頭を垂れた。


「武器も持たぬのに身を挺しておなごを庇うとは、日本男子の鑑。レベルを得るためではなく、この身を司令長官に捧げましょう。幾久しく、お受取り願いたい」

「え、そんな事で、僕を所有者にするの?」

「空で迷えば、一瞬であれど命取り。これでも、判断力には自信があるんでね」

「はあ・・・」

「じゃ、本体に入ってサクッと破ってくらあ。見張りは頼んだよ、姐さん」

「済ませたら出て来るといい。米を炊いておこう。赤飯はムリだがな」

「そりゃ楽しみだ。行こうぜ、司令長官」


 立ち上がった飛龍が、僕の頭を抱えるようにして歩く。

 で、でっかいのがムニムニ・・・


「こら、地図は置いていけ。それと戻ったら2発は殴るからな、笠原」

「なんでさっ!?」


 説明すると色々マズイのでアレだが、簡単に言うと大きいと幅が広がるらしい。

 つまり、おっぱいには脂肪なんかではなく、可能性が詰まっているのだ。

 機体を降りると、飛龍の胴体に僕の名前が黒で書かれていた。

 飛龍は数人で乗り込む爆撃機という種類の飛行機で、機内はそれなりに広い。本体は飛龍がいつでも出したり消したり出来るので、いつか空の散歩に招待してくれるらしい。


「ただいま、いたっ! 待っ、ぎゃっ!」

「まったく、もう夕方だぞ。今日中に飛行場まで行きたかったのに」

「すまないね、姐さん。司令長官が止まってくれなくってさ」

「まあ、英雄色を好むとも言う。それにあの状態の笠原を、覚えたての飛龍が止めるのはムリだろうさ」

「ちょっと驚いたね。どんなエンジンを積んでるのか、バラしてみたくなったよ。20ミリも12.7ミリ機関砲も、もう半分近く弾が補充されてるし。なんと25番も、1発だけだけど補充されてるんだよ」

「夜もその調子だからな。覚悟しておくといい」

「うへえ、溺れそうで怖いね・・・」

「万年筆と地図と一緒に、ソッチの固有技でも与えられたのかもな。メシが冷えたから、雑炊でいいな?」

「あ、はい。お願いします・・・」


 米を持っていた将校用の拳銃はジャガイモも持っていたらしく、キジとジャガイモ入りの雑炊を皆で美味しくいただいた。


「今日は、ここに泊まり?」

「それしかないだろう。もう、陽が落ちる」

「明日は飛行場か。仲間がいるといいね」

「滑走路が使えたら、アタシで呉までひとっ飛びだね」

「やめておけ、飛龍。なぜかはわからんが、航空機が飛び立つと1機から4機の敵機が飛来して戦闘になる。護衛の戦闘機もなしじゃ、死ぬために上がるようなものだぞ」

「はぁ。怨霊ってのは、どうなってんだろうねえ・・・」



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