救出作戦開始
「飛行隊、離陸開始しました」
「宇品港を偵察後、江田島上空で敵機を待つ。作戦に変更はなしね」
「了解」
「戦車隊も出しますよ、司令?」
「うん。トラックで砲撃する場所まで移動して、念入りに周囲の索敵。くれぐれも、ムリはしないでと」
「了解」
三笠は動かない。
艦隊を出すのは、午後3時の予定だ。
それまで戦闘機は、何度出撃を繰り返す事になるのだろう。カ号観測機のレベルは気にするなと言ってあるが、隼達はここで経験値を稼げるだけ稼いでしまうつもりらしい。
「くっそ。早く操縦を覚えたいね」
「やめた方がいいと思うぞ、笠原」
「心配してくれるのはありがたいけど、僕にも出来る事があるならするべきでしょ」
「そうではなく、誰の分身に乗ってもモメるぞ?」
三歩が意地悪そうな笑みを浮かべる。
でも、ありそうな事だ。
「じゃ、分身じゃない飛行機に乗ればいいさ」
「どういう意味だ?」
「冠ちゃんなら、ここの飛行隊の機体を直せるでしょ」
「そんな旧型に乗る気か。どう思います、おふくろさん?」
「んー。司令の乗機なら烏口に設計をお願いして、冠ちゃんに組み上げてもらいましょうか」
「いらないよ、そんなの。わざわざそこまでしなくていいって」
そんな事に使う鉄があるなら、他の兵器を作った方がいい。
葛城に搭載予定だった橘花なんかを新たに設計して開発可能なら、戦況はだいぶ楽になるだろう。
秋水の鮮やかな手並みを見る限り、プロペラ機にジェット機で立ち向かうというのは、原付バイクに中型バイクでレースを仕掛けるようなものだ。
「そうは言ってもな。司令自らが戦うというのは、そういう事だぞ」
「・・・陸戦にだって、誰かが必ず付いて来る。その戦力を他に回せば、怪我をする戦乙女も減るのにね。僕が強くなれば、それもなくなるのかな」
「王将の回りは、金と銀で固める。単騎駆けする王将なんて、物語の中だけさ」
「肩を並べて銃を撃っても、僕だけ命中させられないからねえ・・・」
「いっそ抜刀隊を組織して、笠原がそれを指揮するのはどうだっちゃ?」
「いいねえ。武器が戦乙女になるのなら、博物館なんかには名刀達が眠ってるんじゃない?」
「日本刀には、それぞれ銘がある。ならば海軍の艦船と同じく、一振り一振りが本体。可能性はあるのかも知れんが、抜刀隊など許さんぞ」
もしそうなら、もし日本刀のすべてが力を貸してくれるなら・・・
「怨霊の飛行隊、来ました。映像を繋ぎます。数は、6!」
大淀が言うと、すでに右目には隼か誰かの視界が映っていた。
広島の市街地を空から見下ろしている格好だ。
かなり遠くに、豆粒ほどの飛行機。隼達の高度はかなり優っている。
「上を取ってる。上にさえいれば大丈夫って隼が言ってたから、安心なのかな」
「そうですね。相手はすべて九七式戦闘機。これなら楽勝でしょう」
「おふくろさん、九七式戦闘機の本体は呉にいないよね?」
「ええ。それなりの数が作られたのですが、まだ出て来てはいません」
おふくろさんが関東の赤レンガから運んで来た書類を読んだ限りでは、九七式戦闘機は固定脚の戦闘機だったはずだ。
それを発展させ、引き込み脚にしたのが隼。
言わば隼より1世代前の戦闘機だ。きっと、上手くやれる。
「隼飛行隊、降下開始しました!」
大淀が叫ぶ。
隼は急降下しながら、すれ違いざまに機銃を叩き込むつもりのようだ。
豆粒にしか見えなかった敵機が、ピンポン球ほどの大きさに見える。
「上からの攻撃が有利って聞いたけど、擦れ違ったら位置は逆になるよね。大丈夫なの?」
「この一撃で数機は落とせます。問題ないでしょう」
上からの攻撃がなぜ有利なのだろう。
そう思っていると、隼の照準器が九七式戦闘機の機体、プロペラからコックピット、翼のすべてを捉えていた。
「そうか。上からなら、機銃が当たる範囲が大きい・・・」
「ええ。そして、こんな美味しそうな獲物を逃す子達ではありません」
正面から擦れ違いざまに機銃を撃つのと、上から急降下しながら機銃を撃つ。見えている範囲が違うのだから、どちらが当たりやすいかは考えなくてもわかる。
飛行機で戦うというのは、ただ機銃で敵機を撃てばいいのではないらしい。
まずは有利な位置取り。それで、勝負は決まるのか。
「攻撃開始しました!」
「さすがだな。それぞれが別の敵機を狙うかっ!」
飛龍が嬉しそうに叫んだ。
九七式戦闘機の機体に穴が開く。同時に黒煙が上がり、機体は炎に包まれた。中には即時に爆散した機体や、黒煙の尾を引きながら墜落していく機体もある。
「凄い。擦れ違っただけで、6機を撃墜した・・・」
「隼が先頭の2機をやりましたからね。墜ちた機体は、後日回収させましょう」
「見て。急降下しながら、宇品港に突っ込んでく!」
「あの子はっ。高射砲でもあったらいい的ですよっ!?」
宇品からの攻撃はない。
だが、いつ撃たれても不思議ではないだろう。
「大淀、隼に無線を。即時上昇。これは、命令だとね」
「了解です」
「ありがとうございます、司令」
「本当は口を出したくはないんだけど、あれじゃ見てて心配だから。それより、熊野丸も摂津丸も無事みたいだね」
「ええ。あれなら、目覚めても重傷で動けない、なんて事はないでしょう」
今の無茶な偵察のおかげで、地図には少なくない数の怨霊の印が浮かんでいる。熊野丸と摂津丸の上に怨霊はいないようだ。これなら、何とかなるかもしれない。
「機銃と大砲は海に向かって配置されてる。これって、艦隊の砲撃で潰すの?」
「戻った隼達を護衛にして、飛龍を上げた方が安全かもな」
「なるほど。高射砲ってのがないなら、爆撃が効果的なんだね」
「命令してくれたら、いつでも行けるよ。無駄な被害を出さずに怨霊のいる地点だけを爆撃してみせるから、任せてくれていい」
「おふくろさん、どう思う?」
「飛龍がやれるというのなら大丈夫でしょう。爆弾は25番より小さな物もここにはありますので、宇品が焼け野原になる心配もありませんし」
「なら、飛龍はこの陽動が終わったら準備を始めて。爆撃は艦隊の宇品接近直前。あ、そうなると救出部隊の枠が1つ空くね・・・」
まだ新しい敵機は来ていない。
「九五年式軍刀、入る」
「お疲れさま。わざわざ悪いねえ」
「なんの。司令の護衛が出来るのなら、いつだって馳せ参じるさ」
「九五年式軍刀さんにも映像を回しますね」
「ありがたい。司令、茶はどうだ?」
「ん。いただくよ」
魔法瓶の湯を使って茶を淹れ、九五年式軍刀が湯呑を僕に渡す。
「ありがと」
「気にせんでくれ。ほう、緒戦は終わったのか」
「うん。こっちは5機なのに、鮮やかに6機を撃墜。江田島まで戻って次を待ってる。来てくれるかな、怨霊は」
「どうじゃろなあ。敵地の上空に侵入すれば迎撃に来るのはわかっとるが、それを短時間で繰り返した事はない。意外ともう、敵機は上がって来んかもしれぬのう」
それならそれで安心できる。
経験値が欲しいならスケジュールを組んで敵地へ侵入し、1日1戦するだけでいいのだ。
戦いは、日本を取り戻すまで続く。焦っても良い事はないだろう。
「ですが我が軍のじゃじゃ馬達は、楽をさせてもらうつもりはないようですね。隼から通信。高々度から再度、宇品上空に侵入するとの事です」
「やっぱ大人しくしてるはずないか。宇品を越えるのは禁止。そして、早目の離脱を心がけるように伝えて」
「了解です」
宇品港の向こうには、広島城がある。
軍都広島の中心であり、1万人以上の日本軍兵士がいた中国地方の最大拠点。高射砲だって、配備されていたに違いない。
気にならないと言えば嘘になるが、隼達を危険な目に遭わせるくらいなら、偵察なんかはまだしなくていい。
熊野丸と摂津丸の救出さえ出来たなら、後は徐々に怨霊を駆逐して広島を取り戻せばいいのだ。急ぐ理由もないだろう。
「本丸が見えておるのう、司令」
「だね。どれだけの武器があるかも想像できない広島城、か。見えているのに遠いな・・・」
「歩みを止めねば、いつか辿り着けよう。2人で城内に斬り込む日を、愉しみに待とうではないか」
「・・・いいね。その時は背中を預けるよ」
「おう、任された」
九五年式軍刀と笑い合う。
隼達は高度を下げずに宇品上空を旋回し、また江田島方面に抜けたようだ。
「斬り込みなど、絶対に許さんがな」
「本気で言ってるなら、さすがに兵士の資格なしと判断して飛行訓練なんかも中止だね。姐さん」
「だな。何ならその椅子に縛り付けて、指揮だけさせてればいいんだ」
「冗談だって。大淀、敵影は?」
「未だにありません。再度突入させますか?」
「んー、ちょっと待ってて」
テーブルに広げた地図には宇品上空に侵入した時刻、敵機を発見した時刻、6機を撃墜した時刻が書かれている。
2度目の宇品上空侵入は5分前。最初の侵入は、20分前だ。
「高度そのまま。江田島上空で、5分間の旋回待機」
「了解です。・・・その後はどうするのかと隼が訊いておりますが」
「敵機が出現する条件を探る。5分後は、最初の侵入からちょうど30分後だ。それでまた侵入して敵が来ないなら、最後の敵機を撃墜してから30分でまた侵入。それでも来ないなら、1時間後にまた試す」
「・・・なるほど。伝えます」
怨霊の出撃に規則性があるのなら、それは出来るだけ早く把握しておきたい。
無論、見つけたと思った規則性を過信するつもりは毛頭ないが。
「笠原、怨霊の再出撃に時間が関係すると思っているのか?」
「可能性の1つ、だね。前に話した僕のいた日本のゲームなんかじゃ、一般的なシステムだった」
「ゲーム・・・」
「許せないよね」
「何がだ?」
「三歩達の世界をゲームのようにした存在がいるなら、僕は許せない」
「お、おい・・・」
日本を取り戻す。
人間を地上に迎え入れる。
そうしたら僕には居場所がなくなるだろう。それまでに上がったレベルに物を言わせて、神様でも殴りに行こうか。
「まるで立合い前の剣客のような顔じゃのう、司令」
「悪そうな笑顔だっちゃ~♪」
「いや、これはこれでソソるじゃないか。だろう、姐さん?」
「・・・まあ、いつもの腑抜けたツラよりはいいな」
「司令はいつも凛々しい表情ですよ?」
「大淀、それはないやろ!?」
「はいはい、それくらいにしときなさい。妄想で表情を変えてしまった事に気づいてしまった司令が、もの凄く恥ずかしそうですよ?」
わざわざ指摘しないでと言いたいが、本当の事なので咳払いをしてこの場を誤魔化す。
「おほんっ。えーっと、そろそろ5分だね。大淀、隼に無線をお願い」
「笠原、照れてるっちゃ~♪」
「三剣ちゃん、それにおふくろさんもだけど、そういうのは思っても言わないで欲しいんだ・・・」
お茶を飲んで溜息を吐くが、三剣ちゃんは笑顔のままだ。仕返しに煙草でも吸うように下半身を舐め回しながら指揮をしてやろうかとも思ったが、それをしたら明日から変態司令とか呼ばれそうなのでやめておく。
ちなみにおふくろさんは舌をペロリと出してから、小さく頭を下げた。年上なのにかわいいな、ちっくしょう。
「5分経過。侵入開始です」




