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散歩は鍛錬




 朝の海を眺めながら、肩を並べて歩く。

 九五年式軍刀とだ。

 三歩達といつもの鍛錬代わりに散歩に出ようとしたら、玄関に思いつめた表情の九五年式軍刀がいたので、2人だけで鎮守府を出た。

 まだ本格的な訓練は禁止されているので、ゆっくりと第一上陸場を目指して歩く。


「で、何を考えてるの?」

「単独での偵察任務に出していただきたい。まずは、舞鶴かのう」

「この間の作戦を、気にしてるの?」

「そうではない。だがそうかも知れぬ。まあ、ワシにもわからぬよ」

「誰かに何か言われた?」

「それはないのう。誰もが、よくぞ司令を生きて帰してくれたと言っとった」


 立ち止まって、息を整える。

 服を着ると見えないが、この間の傷痕は体中にあって、後遺症がなかったのは奇跡だと氷川丸が言っていた。

 ちなみに氷川丸は治療スキルを、朝日丸は料理スキルをそれぞれ得ている。

 カ号観測機もレベルとスキルが出たので、今日から始まる摂津丸と熊野丸の救出作戦では陽動部隊に編成して、一気にレベルアップを狙う予定だった。


「理由を聞いてもいい?」

「・・・時代遅れの兵器でも、役には立ちたいのだ」

「こないだみたいな潜入作戦なんかには、九五年式軍刀がいてくれないとキツイんだけど?」

「おふくろさんも三笠殿も、あれで身に沁みただろう。もうあんな作戦は許可などせぬさ」

「それでも、必要であれば僕は行くよ?」

「それは・・・」


 助けられる人がいて、それを見捨てる事なんて出来やしない。

 自分が死んでもいいとは思わないが、見捨てればきっと僕の心が死ぬ。


「だから、九五年式軍刀がいてくれないと困るんだよ」

「だが、敵陣に斬り込む機会などそうはない!」

「なら翼を得ればいい。空戦を見ていると、どうも剣の立合いに似ている気がする。僕がおふくろさんに、操縦の訓練をしてもらう予定なのは知ってるね?」

「あ、ああ・・・」

「九五年式軍刀も飛べばいい。一緒に」

「司令と、空を飛ぶのか・・・」

「戦乙女のレベルが上がれば、飛行機はこれからも増える。作戦ごとに戦闘機や爆撃機、カ号観測機なんかを使える人間がいないと困る。パイロットは、1人でも多い方がいい。剣豪である九五年式軍刀なら、出撃すればきっと大戦果だろうね」

「世辞はよしてくれ。だが、空か・・・」

「ムリはしなくていいよ。戦車だってもう分身を出せるから、そっちにも動かす兵が欲しいし」


 戦乙女は、レベルと同じ数の本体を出す事が出来る。

 でも手も触れずに操れるのは、レベル1から出す事が出来た本体だけ。いつからか戦乙女達は僕の名前が書いてあるそれを本体と呼び、人が触れなければ動かせない2体目からを分身と呼んでいた。


「いや、空も面白そうだ。今まで、さんざん土の上で戦ってきたのだからのう」

「治ったら、一緒に操縦を習おう」

「・・・ワシは治っとる」

「抜け駆けは許さないよ!?」

「じゃあ、そういう事で。またの!」


 九五年式軍刀はそう言い捨て、鎮守府の方向に走り去ってしまう。

 仕方ないのでゆっくり散歩を続けていると、三剣ちゃんを肩に乗せた三歩と飛龍が追いついてきた。


「何とかなったようだな?」

「うん。たぶん今頃、おふくろさんに操縦を教えろって詰め寄ってるだろうね」

「数時間後には陽動が始まるってのに、おふくろさんも災難だ」

「僕の怪我が治るのを待ってくれたら、危険な大発動艇の救出部隊に着いて行けたんだ。そうすれば、誰かが怪我をしてもすぐ治せるんだよ。それを待たないって言うんだから、これくらいはね」


 大発動艇の操縦は、艦載機の分身をすべて積んだ海鷹。護衛はこの3人だ。

 検証の結果、大発動艇を操縦中に本体を出すと、大発動艇とその乗組員を本体の思う位置に移動させる事が可能なのがわかった。

 だからもし怨霊に囲まれても、艦載機の分身で牽制しながら一目散に逃げれば大丈夫というのが三笠とおふくろさんが出した結論だ。


「このまま飛行場に回ろうか。先に出る隼達にも、声をかけたいし」

「カ号観測機のために連続出撃するんだって、ずいぶん張り切ってたっちゃ~」

「しかしカ号観測機は空戦が出来ないから、5機編成で敵機を迎え撃つんだろう。大丈夫なのか、飛龍?」

「秋水がいれば、何とでもなるよ」


 プロペラで飛ぶ戦闘機の時代に、ジェット機というのはそれほどの脅威であるらしい。

 飛龍が心配していないなら、まず航空陽動部隊は大丈夫のようだ。


「三歩、陸戦部隊は大丈夫かな?」

「全員が戦車に乗り込んでの陽動砲撃だ。逃走用のトラックもすでに配置してあるから、心配はいらないさ」

「なら怖いのは、海か・・・」


 宇品港に、怨霊の黒い軍艦はない。

 だがあちらも戦乙女と同じ生態なのだとしたら、陽動艦隊が宇品に向かえば怨霊が出撃してくる可能性はある。

 海戦の中を大発動艇で進むなんて、台風の海に笹舟を浮かべるようなものだろう。


「ああ、心配になってきた・・・」

「初の大規模作戦だからな。深夜に宇品港に接近しての救出を危険と判断したなら、宇品を攻め落とすかこうするかしかないさ」

「これで宇品の戦力は計れる。だからまだチャンスはあるんだ。ムリはしないでよ?」

「司令が言うかねえ・・・」


 似島を後回しにしたのは、もう大砲がないと判断できたからだ。

 今日の救出作戦で宇品に脅威がないと判断できれば、広島を取り返す足がかりが出来る。

 ゆっくりと僕の歩調に合わせて辿り着いた飛行場には隼達だけでなく、陸を進んで陽動砲撃をする全員が揃っていた。


「司令。おふくろさんなら、鎮守府でありますが・・・」

「ん。みんなに頑張ってって言いに来たんだ。お願いだから、怪我はしないでね?」

「はっ。ありがとうございます。司令に怪我をさせるような存在は、この世から抹消してやるであります!」


 直立不動で敬礼した九二式重機関銃に返礼し、また固っ苦しい言葉遣いになってるよと言いながら頭を撫でる。

 へにゃっ、と音が聞こえるんじゃないかと思えるほどに相好を崩した九二式重機関銃は、それをごまかすようにそっぽを向いて煙草を咥えた。


「じゃあ僕達は行くけど、絶対にムリはしないでね。特に隼」

「ア、アタシかよっ!?」

「うん。カ号観測機のレベルは大切だし、偵察と陽動が作戦上大切なのも知ってる。でも僕にとっては君達の方がずうっと大切なんだから、それだけは忘れないで」

「・・・う。わかった」

「じゃ、夜の宴会を楽しみにしてるよ」


 敬礼をして鎮守府に戻る。

 執務室には三笠とおふくろさん、それに大淀がいた。


「おかえりなさいませ。正午の作戦開始まで、お休みになったらいかがですか?」

「そんなに寝てばかりはいられないよ。大人しくしてるから、ここにいさせて」


 応接セットのソファーに腰掛け、地図と軍隊手帳を眺め回す。


「そういえば、司令部レベルが上がってたんだった。整備士を増やすか、呉の設備を整えるか・・・」

「新しいスキルの選択肢は出てないのか、笠原?」

「えーっと、おおっ!」


 新しく【スキル共有化】というのが出ていた。

 指定した戦乙女のスキルを、部隊に適用するらしい。


「【スキル共有化】だって。編成した部隊にのみだけど、指定した戦乙女のスキルを適用する。九五年式軍刀のスキルを適用すれば、生存率はグンと上がるね。って、おふくろさん。九五年式軍刀は来なかった?」

「来てませんが、どうしてですか?」

「おかしいな。飛行機に乗って出撃する日が来たら一緒に行こうって言ったから、おふくろさんに訓練を頼み込むかと思ったのに。思い詰めて、舞鶴偵察に出たりしてないといいけど。大淀、ちょっと調べてくれる?」

「了解です。お待ち下さい」


 三歩が淹れてくれたお茶を飲み、【スキル共有化】を取得する。

 部隊編成欄の下に、共有化するスキルを書く場所が追加されていた。万年筆で、【惜しまねばこそ拾う命】と書き込んでおく。


「いましたが、これは・・・」

「どこにいるの?」

「葛城の格納庫です。彩雲の前で、土下座をしてますね」

「なんでさ!?」

「映像と無線を繋ぎますので、司令が聞いてあげて下さい。彩雲が涙目で、冠ちゃんの後ろに隠れちゃってますよ。・・・繋ぎました。どうぞ」

「あー、九五年式軍刀。何やってんの?」

「司令っ、お助けっ!」


 まず聞こえたのは、彩雲の悲鳴だ。

 冠ちゃんを盾にしながら、涙目で叫んでいる。


「まずは土下座をやめて立って。お願いってより脅しだから、それ」

「・・・むう、何も彩雲に迷惑はかけておらん」

「いきなり本体を操縦させろなんて、迷惑以外の何なんですかっ!?」


 そんな事を土下座しながら頼んでいたのか。

 彩雲でなくても、それは泣ける。

 偵察機の彩雲はまだレベルが1で、分身が出せない。本体が傷付けば本人のHPも減るし、痛みだってあるのだ。

 土下座をするほどの頼みならばと思わぬでもないだろうが、はいどうぞと貸し出せるはずもない。


「飛行機の操縦は、おふくろさんの許可がないとさせないよ。新しい軍規だと思ってくれていい」

「むうっ。だが、今日は忙しいだろうからと・・・」

「原付バイクに乗るのとは訳が違うんだから、ムリは言わないの」

「・・・わかった。せめて、救出部隊に同行できればいいのだがなあ」

「摂津丸と熊野丸が目覚めたら、すぐに部隊編成するからムリだって。まあ、レベルもない状態で部隊に入れるのかはわからないけどね」

「三十年式歩兵銃だ。九五年式軍刀、出来れば私達の留守中は笠原の護衛を頼みたいのだが?」

「おお、それはいい。喜んでやらせてもらおう」

「なら早く戻ってくれ。そろそろ陽動が始まるぞ」

「承知した。では彩雲嬢、ムリを言ってすまなかった。失礼する」


 走り出した九五年式軍刀をポカンと見送る彩雲を移し、右目の映像が途切れた。


「彩雲、大丈夫かな?」

「何をされた訳でもないので大丈夫でしょう。それより、隼さん達がそろそろ上がりたいと言ってますが?」

「11時23分なのにか、気が早いねえ。5機だけで上がるんだから気をつけてって伝えて」

「了解です」


 軍隊手帳の部隊に、隼達の名前を書き込んだ。

 まずは、宇品の偵察とその後に来る敵戦闘機を片付ける。

 初の大規模戦。

 湯呑に伸ばした手が震えているのは、武者震いだと思う事にした。



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