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作戦会議




 九五式重戦車は門を出て、のんびりと雑草の生えた道を進む。

 地図に怨霊の姿はない。

 どれくらい門から離れれば、怨霊がいるのだろう。あまり近場に群れていて呉を襲撃されても困るが、レベル上げを日帰りで行えないのはもっと困る。


「車両に分乗すれば、安全にレベル上げが出来るのかな」

「ん~。車両を使う前提で隊を組ませれば、そうなるっちゃね~」

「まあ赤トンボ殿も、自転車で怨霊を探しに行けとは言わんさ」

「自転車って、通勤通学じゃないんだから・・・」

「でも陸軍は自転車で歩兵を進軍させて、南方で大勝利したっちゃよ~」

「うっそーん・・・」


 自転車で進軍って。

 何を考えてそんな無茶をさせたのかは知らないけど、勝っちゃう所が日本っぽいなあ。


「川なんかも自転車を担いで渡ったんだ。その時の海戦には、呉にいる榛名もいたはずだぞ」

「砲撃とか、されなかったの?」

「されたさ。だが進軍は止めなかった。歩兵なんて、そんなものさ」

「訳がわかんないね、戦争って・・・」


 呉を出て30分、鉢巻山を左手に見ながら河沿いを進んでいると、橋の向こうに丸が2つ現れた。怨霊だ。箱は書かれていないので、本体は銃か何かだろう。


「いた。橋を渡った先、丸2つ。人型らしいね」

「飛龍、軽機関銃はいつでも撃てるよ」

「銃塔も準備は完了だ」

「なら、このまま進んで」

「了解」


 僕の座る場所は、ハッチに一番近い。

 なので怨霊を見ようと思えばハッチから顔を出すしかないが、そんな事をすれば怒られてしまうだろう。じっと待つ。三歩と飛龍なら、上手くやるはずだ。


「こっちに気がついたみたいだよ。HPはどちらも5、残念ながらザコだね」

「危険がなさそうなら、ダムまで進むんだ。まだまだ稼げるって」

「撃つぞ、笠原?」

「うん。やっちゃって」


 銃声が響く。

 九五式重戦車に悪いので口には出さないが、暗くて狭くてうるさいのが戦車という乗り物であるらしい。振動も凄いし、飛龍が言うように戦うための乗り物に快適さは必要ないのだろう。


「殲滅完了。回収はどうする?」

「するよ。少しでも鉄が欲しいし」

「なるほど。怨霊の本体も鉄だものな。飛龍、回収を頼む」

「はいよ」


 僕から外に出て地図を見る。


「敵影なし。やっぱり明るいと見やすいねえ」

「車内は暗いからね。ランタンがあるから出そうか?」

「ランタン?」

「ああ、ランプだよ。アタシの本体の中で使う乾電池式だから、車内でも安全」

「助かるよ。貸してくれる?」

「もちろんさ、ほら。じゃあ、回収して来るよ」

「お願い」


 LED照明を見慣れた僕からすると少し暗いが、ランタンはきちんと点灯した。

 回収を終えた飛龍に続き、車内に戻る。


「お待たせ。九五式重戦車、このまま本庄ダムを目指して」

「了解です」


 ガタゴト揺られながら、ランタンの明かりで地図を注視する。

 戦車といえど、敵や進行方向を見るための隙間があるのだ。そこから銃弾を撃ち込まれれば、車内で跳弾して大怪我もあり得るので気は抜けない。


「本庄ダムから先へも進むのか、笠原?」

「ううん。怨霊が水源地を押さえるなんて思えないけど、呉の水が使えなくなったら困るから見るだけ。これだけ敵が少ないなら、軍艦に乗せてもらって敵の多い場所を探した方がいいかもね」

「本当なら索敵は、航空機の仕事なのにねえ。悔しいよ、アタシは」

「戦闘機のレベルが上ったら、中国・四国地方の制空権は奪う。それまで我慢して、飛龍」

「楽しみにしてるよ」


 地図上では、もうそろそろ本庄ダムが見えそうな距離だ。

 敵の姿がないか確認して、ハッチを開ける。


「何もいないや。戻ろうか」

「了解です」


 本庄ダムまでは安全に進めるのはわかった。

 次は海沿いを調べよう。

 そちらも怨霊が少ないなら、適度に怨霊がいる地域を海から探すしかない。


「三歩、江田島から宇品までの間にも島があったよね。軍の施設もあった?」

「あったぞ」

「なら、そこを潰しながら陸軍のレベル上げかな。大物がいても、艦砲射撃で黙らせればいいし」

「それはいいな。宇品攻略へのいい足掛かりになる」

「ま、海岸も見てからだけどね」


 海沿いの道は、広島方面と尾道方面がある。明日と明後日で偵察すればいい。

 呉に帰るともう夕食時で、見張り以外の全員が鎮守府の食堂に集まっていた。


「お疲れ、笠原はん」

「ただいま。本庄ダムまでに出た怨霊は2。どっちも低レベルだったよ」

「となると、陸軍のレベル上げとやらが捗りませんね・・・」


 三笠とおふくろさんは僕と同じテーブルだ。

 それに近衛である三歩と三剣ちゃんと飛龍、幕僚長である大淀が加わって食事をする。


「明日と明後日で海岸線も見るけど、陸軍のレベル上げは峠島と似島でする事になるかなあ」

「ほう、上陸作戦かいな」

「大砲なんかが怨霊になってたら、艦砲射撃で黙らせてもらいたいんだ。いいかな?」

「あったりまえやんか。それより笠原はん、おふくろさんも聞いたってんか。うちらは瀬戸内海を深夜に潜水艦で移動して、これだけの仲間を救出したやろ。そん時にな、宇品港や他の港も見てん」


 そんな危険な方法で仲間を集めたのか。

 三笠も無茶をする。


「宇品、ですか・・・」

「陸軍の拠点だったんだよね?」

「はい。大陸にしても東南アジアにしても、宇品からの出港が多かったんです」

「そこに、艦影が見えとってん」

「怨霊?」

「まさかっ!」


 おふくろさんが腰を浮かす。


「せや。摂津丸に熊野丸。徳山港には、映海丸の姿もあったで」

「よくぞ、無事で・・・」

「その3人は?」

「陸軍の揚陸艦と戦闘艦艇です。特に熊野丸は三式指揮連絡機を8機も搭載してましたので、もしかしたら宇品に3人が眠っている可能性も・・・」


 これは何としても早期に宇品を手に入れなければならない。

 陸軍の資料で見た限りでは、三式指揮連絡機は短距離で離着陸が可能な珍しい機体で、対潜攻撃が得意だったと記憶している。


「そのためにも、まずは峠島か。明後日までに、意見を考えといて。明後日の夜、作戦を決める」

「了解や」

「はっ」


 出来るなら呉に最低限の戦乙女を残し、全軍ですぐにでも救出に行きたい。

 でもそれで犠牲が出れば、僕は僕を許せないだろう。

 陸軍には悪いけど、ここは慎重に事を進めさせてもらう。

 三笠とおふくろさんはお酒を飲みながら、何やら内緒話をしていた。たまに僕を見て、視線が合うと顔を逸したりする。

 その意味がわかったのは、部屋に戻ってからだ。


「ほな、はじめよか」

「こんな行き遅れで申し訳ありませんが・・・」

「ドントコイデス!」


 海沿いの偵察は、九五式重戦車より足の速いチハに乗せてもらった。

 結果は、驚きの戦果なし。

 どうやら怨霊は、宇品か広島城辺りに固まっているようだ。


「おかえりなさいませ、司令。食事は会議をしながらとの事ですので、個室にお願いします」

「了解。すぐに行くよ」


 ロクに汗もかいていないので、手と顔を洗って個室に向かう。

 三歩達も一緒だ。


「お待たせ。って、何この食器?」

「食事しながらの会議やって言うたら、氷川丸と朝日丸が張り切ってん。なんぞ、コース料理を出すらしいで」

「はー、いいのかな僕達だけ・・・」

「軍隊なんて、そんなもんさ。兵卒と仕官じゃ、メシが違って当たり前」

「ふうん。まあ、金曜じゃないから別にいいか」

「司令はカレーがお好きですものね」


 食事をしながら、三笠とおふくろさんの作戦を聞く。

 6艦編成の艦隊で峠島に接近し、砲撃されるのであれば艦砲射撃。

 砲撃がなしなら大発動艇を下ろし、陸軍全員で上陸。

 埠頭の先に戦車を並べ、簡易陣地構築。

 そこから隊を分け、まずは峠島内の怨霊を殲滅する。


「やっぱりそうなるか。レベルは均等に上がるように調節するとして、武器は足りる?」

「赤レンガからかなり運びましたので、大丈夫です」

「なら、それで行こうか。いつ出られる?」

「明後日の早朝ではどうでしょうか」

「了解。気合を入れないとね」

「まさか、司令まで上陸する気ですかっ!」

「もちろん。5分に1回は怨霊を殺さず足だけ撃ち抜けるし、僕がいる所には三歩と三剣ちゃんと飛龍がいる。レベル上げの手伝いは任せて」


 いくらなんでも、レベルが1の戦乙女達だけを戦場に放り込むなんて出来やしない。

 口には出さないが、僕達が前衛として怨霊を迎え撃つつもりだ。


「おふくろさん、怨霊は戦わないとレベルが上がらない。姐さんと三剣ちゃんは国の違う武器の怨霊同士が戦ってるのを見た事があるらしいけど、峠島に輸入兵器がそんなにあったとは思えない。だから笠原を連れて行っても平気だよ」

「ですが、司令に何かあったら・・・」

「まあ、愛しい人を戦場に出すんは誰かて嫌やろな。ほんでもレベルが高いこの4人は、頼りになるはずやで?」


 しばらく無言で食事をしていると、ため息を吐きながらおふくろさんは僕の従軍を了承してくれた。


「だだし、私のそばを離れないで下さい。【優しく厳しき訓練教官】という私のスキルは、近くにいる兵の取得経験値とやらを増加させ、若干ですが負傷する確率を下げるそうなので」

「おお、いいスキルだねえ」

「うちのスキルも、役に立つかもしれへんなあ」

「三笠のはどんなの?」

「【栄光艦の奇跡】言うて、作戦の成功率上昇やて」

「わお。三笠は呉で迎撃待機の指揮だから、ちょうどいいねえ」


 さすがは陸海の責任者。

 有用なスキルが出たものだ。


「それでは、明後日の○六〇〇に作戦開始で」

「マルロク?」

「失礼。午前六時です」

「軍隊用語かー。了解っ」


 おどけて敬礼をすると、おふくろさんは笑ってくれた。


「隼達のレベルが上ったら、ついに空に上がれるのか。楽しみだねえ、おふくろさん」

「そうね。でも、今から憂鬱だわ」


 言いながら、おふくろさんは僕を見る。

 実は三笠とおふくろさんが僕の部屋に泊まった日、制空権を取り返したら僕に飛行機の操縦を教えると約束したのだ。

 どうやって頷かせたのかは言えないが、あれは色んな意味でファインプレーだった。


「司令、まさか・・・」


 なんとでも言うがいい飛龍君。

 今夜僕の部屋に泊まるのは君達なんだから、何も怖くない!

 むしろ楽しみだ!


「姐さん、なんとか言ってやってくれよ!」

「あの笠原の笑顔を見ろ。絶対に勝つと確信しているぞ。それに九五式一型練習機殿が許可したなら、私が反対する筋合いではない」

「ぐぬう・・・」

「諦めるっちゃね。あの顔は、助平な事を考えてる顔だっちゃ」



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