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緒戦終了




 命中までの読み上げ。

 そのわずかな時間がもどかしい。


「3、2、1、命中。敵駆逐艦1、轟沈。次発装填装置、作業開始」

「これで、大丈夫かな」

「長門なら巧くやるさ。ほら、T字戦に持ち込んだ」

「北郷ターン、か・・・」

「よく知ってるね、司令」

「そこの本棚に論文があったからね。軍事知識を吸収するために、暇があれば目を通してるんだよ」

「チビッコ達と遊んでばかりじゃないんだ?」

「当たり前でしょ」


 T字戦法とは、縦に並んだ敵艦隊に対して横腹を向けて、敵の先頭に攻撃を集中させる戦い方だ。夢で地図をくれた北郷って軍神さんが、昔の戦争で編み出した戦法らしい。


「長門、【旭日の必中砲撃】発動。命中。通常砲撃に移行します」

「さすがだな。それにしても、必中砲撃とは・・・」

「凄い大砲を積んでるって言ってたから、相手にしたらたまったもんじゃないね」

「敵駆逐艦2隻撃沈。青葉が続きます」


 怨霊も砲撃を開始しているが、縦に並んでいるのですべての砲門を長門達に向けられないでいる。

 そのおかげか、こちらは何の被害も受けていないようだ。


「20.3cm連装砲命中。敵駆逐艦1、撃沈」

「残るは中破の怨霊だけか。こちらに被害なしは嬉しいな」

「雪風が任せろと言ってますね」

「ちっこいのに頑張るじゃないか。司令に褒めてもらいたいんだろうね」

「いくらでも褒めるさ。早く終わらせて、ゆっくり風呂にでも入れと伝えて」

「了解」


 戦乙女達の楽しみはお喋り、そして食事とお風呂らしい。

 いつかオシャレの1つくらいはさせてやりたいが、今はまだ野に咲く花を髪に飾るくらいしかしてやれない。


「スキルは有用か、やっぱり」

「だね。これで数の不利を覆せれば、あるいは・・・」

「雪風、砲撃開始。あら、掛け声が司令とお風呂ー! になってますよ?」

「浴槽を汚す自信があるからムリ!」

「掃除するのはスキルを取っていない氷川丸と朝日丸だから、ちょっとかわいそうだね」

「だから入らないって」

「2人は抱かないのかい?」


 飛龍のストレートな物言いで、思わず2人の裸を想像してしまった。

 軍に入れられる前は豪華客船だったからか2人はとても美しく、いつも食堂で高級ホテルのような心のこもった給仕をしてくれる。その度にたわわなお胸が・・・

 いかんいかん。


「下手に戦闘スキルでも出たらどうするのさ?」

「それはないと思うけどね。魚雷のない戦艦達に、雷撃スキルが出たって話は聞かないし」

「スキルも色々あるようだから、編成の参考にしないと。マズイ指揮で、怪我でもさせたら申し訳ない」

「それにスキルだけじゃなく、付き合いの長さとか性格的な相性も考えないとね」

「軍事知識の乏しさが痛いな。本は嫌いじゃなかったけど、戦記モノとかも読んでおけばよかったよ」

「敵駆逐艦、轟沈。即時帰港でよろしいですか?」

「もちろん。さすがの戦闘だったと伝えて」

「了解です」


 平均すると、呉への攻撃は週に1度くらいらしい。

 明日からも迎撃部隊は置くつもりだが、その編成がまた悩みどころだ。


「長門、葛城、雪風を固定するか。それとも、満遍なくレベルを上げるか・・・」

「固定はいいかもね。それより司令、経験値はどうだったんだい?」

「忘れてた。軍隊手帳は、っと・・・」


 司令部レベル3、経験値140、スキルポイント1。


「3になってる。経験値は50ずつみたい。大淀、長門達にレベルと経験値を聞いて」

「了解」

「んー。6隻も駆逐艦を倒して、黒チハと同じとはね」

「本体の大きさとかは関係ないみたいだね。今回の怨霊は見てないけど、黒チハにはツノが2本も生えてたから、それが関係あるのかもねえ」

「新しいスキルか。何にするんだい?」

「【設備投資】も欲しいけど、【開発の基礎】だろうなあ。先がありそうだし」


 ゲームなら、【開発の基礎】を取得しなければ選択肢が現れないスキルがあるはずだ。

 そしてそれが本当にあるのかどうかは関係なく、僕達は基礎工業力が低い。なので、迷わず取得する。


「全員がレベル3だそうです」

「司令部レベルと同じ上がり方か。陸兵とは違うんだね、ありがとう」

「艦の連中は大変そうだね」

「元のHPや攻撃力が強力だから、なのかなあ」

「えっ、なにこれ!」


 鎮守府がグラグラと揺れている。


「地震だ。執務机の下に入って。早く!」


 大淀、飛龍と大きな机の下に潜らせて、僕も続く。

 それから30秒もすると、揺れは収まった。


「もう大丈夫かな。大淀、怪我人がいないか無線を。松型駆逐艦の子達、泣いてなきゃいいけど・・・」


 机から出て応接ソファーに座り、大淀の報告を待つ。

 忙しそうに無線で確認をする大淀は、なんだか困っているようだ。


「どしたの?」

「えっと、使ってない倉庫がレンガ造りの建物になったとか、地面からお姉ちゃんが来たとか、情報が錯綜しておりまして・・・」

「なんだいそりゃ。司令、行ってみないかい?」

「地面からお姉ちゃんってのは、松型駆逐艦の子達だよね。今、どこ?」

「正面玄関だそうです」

「じゃ、そこは見てくるから、レンガ造りの建物ってのは慎重に調べてもらって。念の為に単独行動なしで、武装してからね?」

「了解です。詳細が判明したら、無線を飛ばします」


 飛龍が三十年式歩兵銃を持って先に立つ。

 僕は左腰に三笠刀と三十年式銃剣。

 そして右腰にモ式大型拳銃、モーゼルC96だ。武器庫で好きな銃を選べと言われた時に一目惚れして、それから毎朝実弾訓練もしている。後期型だとかで使い勝手が良いと、三笠も太鼓判を押していた。


「なんだってんだろね、一体」

「怨霊じゃなきゃいいけど・・・」


 執務室は3階。

 階段を駆け下りる途中で、松型駆逐艦達の笑い声が聞こえてきた。


「無事なようだね」

「てか、すっごい楽しそうなんだけど」


 最後の階段は飛び降りる。


「あ、しれーきたぁー!」

「おねーちゃん、しれーだよー!」

「貴様が笠原か?」


 言ったのは、見た事のない女の子だ。

 竹ちゃん達より少し大きいが、冠ちゃんよりは小さい。金髪のボサボサヘアーを無造作にくくって、丸くて大きなメガネをしている。


「えっと、どちら様で?」

「烏口だ。冠スパナの常駐型と思えばいい」

「なんで、こんな所に?」

「400年、床の隙間に挟まってたんだよ。言わせんな恥ずかしい」

「はぁ、お疲れ様でした?」

「おい、大女。ここの司令はバカなのか?」

「うーん。肝が太いんだよ、きっと」

「・・・ふん。まあいい、来い」


 烏口と名乗った女の子は、昨日まではなかった階段を1人で下りて行く。


「竹ちゃん、大淀に司令は無事だって言っといてくれる?」

「わかったー」


 頭を撫でて、飛龍と一緒に階段を下りる。

 地下は事務所のようになっていて、製図机がポツンと置かれていた。


「ここは・・・」

「第零司令部開発課、ってトコだ。所属はオレ、烏口と冠スパナな。どちらもレベルは1。これから開発を成功させれば、レベルも上がる。冠スパナはこれからずっと人型で過ごすから、適当に空き部屋でもあてがってやってくれ」

「【開発の基礎】を取ったから、か・・・」

「その通り。それと開発試験場もどっかに出来てるだろ、あそこには精密機械関連が多いから、勝手に触らせるんじゃねえぞ?」

「うわ、そりゃ危ない。飛龍、大淀に説明して調査中止!」

「あいよ。しかし、またデタラメなスキルだねえ」


 開発なんて作業が、たった2人で可能なのだろうか。

 それに冠ちゃんがこの烏口の手伝いをするのだとしたら、整備員をまた増やした方がいいのかもしれない。


「それで、開発ってどうするの?」

「指標を示せばいい。それに向かってオレが設計と加工を繰り返し、冠スパナが手伝いをする」

「烏口の知識は、どのくらい?」

「司令の知力に依存だ」

「うっわ、絶望的じゃん・・・」

「ふざけんなよ、テメエ。これでもこっちじゃ、アインシュタイン並みの天才だっつーの!」

「僕にそんな知力がある訳ないじゃん!」

「あるんだよ。軍隊手帳には記載されねえが、あっちの科学を齧ってるってのはそれだけのアドバンテージになるんだ。司令に軍事知識の欠片もなくったってな」


 戦時中の科学だって、これっぽっちも僕には理解できない。

 でももしかしたら、あっちの世界の科学の未来を見て育った事が、烏口の力になるのかもしれない。


「ふん。やっぱり頭は悪くねえな。こっちの缶詰なんかの科学と、司令が育った世界の科学は別物だ。だが、どちらが正解ってのはねえんだよ。どちらも知っているオレサマに、何を望む?」

「あっちの最先端科学と、こっちの科学の融合」

「OK。100年で追いついてみせよう」

「僕、死んでるじゃん!」

「知るかよ。ほれ、さっさと出てけ。オレは忙しいんだ」


 追い出されるように階段を上がると、海鷹が階段に向かってきている所だった。


「お疲れ、海鷹」

「ん。小型船舶、総数238」

「げ、そんなにあるの、戦乙女になってないボートとかって!?」

「修理できそうなのは、冠スパナがするって」

「了解、ありがとうね。執務室でお茶でも飲んでて」

「笠原は?」

「長門達の出迎え。その後は、まあわかんない・・・」

「火を見るより明らかだろうって。海鷹、行こう。司令のいない執務室は、アタシ達が守らないとね」

「ん。笠原、頑張って」


 そのまま正面玄関から鎮守府を出て、第一上陸場まで歩く。

 もう、蝉も鳴いていない。

 秋なのだ。

 そして、冬が来る。

 戦乙女達の本体が寒さを感じるのかはわからないが、瀬戸内海での作戦行動ならこの冬は乗り越えられるだろう。


「しれぇー!」


 艦を降りた雪風が走ってくる。

 受け止めて小柄な体をそのまま抱き上げると、雪風は子供のように笑った。


「やれやれ、報告もまだだというのに」

「お疲れ、長門。鮮やかな撃破だったね」


 敬礼。

 海軍式というやつだ。

 いつの間にか雪風も長門の後ろに立って、ビシリと敬礼を決めている。


「恐れいります。只今から、また迎撃待機でよろしいでしょうか?」

「いや、風呂が用意してある。ひとっ風呂浴びたら、酒でも飲んでるといい」

「そうですか。司令はどうなさるのですか?」

「午後の射撃訓練をして、そっちに合流する。相談したい事もあるんでね」

「では、食堂でお待ちしています」


 射撃場に歩き出すと、すぐに大淀から無線が来た。

 とりあえずの待機編成を伝え、立ち止まって軍隊手帳に万年筆を走らせる。

 下手な射撃をどうにか人並みレベルにしようと頑張っているが、どうにも上達している手応えがない。

 これでは、斬り込んだ方が早いと思ってしまう。

 そんな事をしたら三歩に怒られるかな、そう思いながら見上げた空は、高く青く澄んでいた。



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