4話
日が沈みかけた頃に雨脚は弱くなって、気が付けばどしゃ降りの雨は止んでいた。雨が降ったとは思えないくらいそれは澄んでいて、空も森も村も全部、夕日で真っ赤に染まっていた。
雨上がりの独特の匂いが鼻につく。
あたしもびしょ濡れで、まとわりつく服が気持ち悪い。
けどそんなことどうでもいいくらい、あたしは連のことで必死だったんだ。
ウジガミ様の社まで全力で走り続けて、やっとたどり着いたとき。
あたしは息を整える暇もなくて、ただ唖然として動けなかったんだ。
「連・・・いないの・・・?」
社の戸は開けっ放しで、中は夕日が差し込んで明るくて、誰も居ないことが一目瞭然だったんだ。
・・・嘘でしょ。
・・・遅かったの?
・・・連は、いなくなっちゃったの?
・・・あたしを置いて?
「・・・っ、嫌・・・嫌!嫌ぁっ!!」
泣き崩れてた。連がいないって思った瞬間、涙が止まらなくなって。
どうして・・・どうしてこうなるの・・・
あたしはもう、連がいないとダメだよ・・・連がいなきゃ、どうしていいのかわかんないよ・・・
「・・・連・・・連っ・・・」
「ここにいるよ、スズ」
後ろから聞き慣れた声がして、すぐに振り向く。
たしかに、いたんだ。逆光で見えにくかったけど、あたしの大好きな人が。斜陽で真っ赤に染まって、まるで人間じゃないみたいで・・・神様みたいで・・・
そうだよね、だって氏神様なんだから。
ねぇ、あたしおかしいよ。さっきから全然涙が止まらない。
泣く必要なんてないはずなのに。
あたしは急いで連に駆け寄る。
連がそっと手を差し出して
「一緒に帰ろう?」
・・・そうだ。一緒に帰るんだ。あの夜二人で見上げた、あの星に。
十億年かかったって。二人で一緒に。
二度と離さないように、連の手を強く握る。
そしてそのまま、連に手をひかれていく。
雨上がりに、二人の影が。
夕焼けの中に飲み込まれて溶けていったんだ。