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3話

 その夜から、あたしたちの心はひとつになった。


 自分たちのために、ウジガミ様と向き合うだって。村の奴らの思い通りにならないんだって。

 あいつらのためなんかに、連がこの村から出て行かなきゃいけないだんて、絶対させてやるもんか。


 けど、ウジガミ様は、悪いものだ。この村から追い出さなきゃいけない。


 あたしや連がウジガミ様の言い伝えに逆らおうとするほど、村の奴らは追い詰められていった。どれだけ嫌がらせしても、一向に出て行こうとしない連に焦り始めたんだ。


 何故ウジガミ様は出て行こうとしないんだ・・・


 このままじゃ、ウジガミ様と一緒にこの村だって・・・



 終わる。



 連は、村の社に閉じ込められることになった。


 その焦りは絶望に変わって、結局その場しのぎの方法しか思いつかないほど、村の奴らだってウジガミ様に追い詰められてた。とにかく、ウジガミ様を隔離しようって。臭いものには蓋をしようって。


 けどそれは、明かりも何もない社に連を閉じ込めて鍵をかけただけの、隔離っていうより監禁に近かった。



 あたしはそれでも、村の奴らの目を盗んで毎日連に会いに行った。


 あたしがまだウジガミ様に構うから、誰もあたしに話しかけてこない。それだけじゃなくて、学校の机の中にカミソリが入ってたり、あたしの教科書が引き裂かれたり、連みたいな嫌がらせだって受けてた。



 ウジガミ様の味方するなんて、あの子も同類。村から出て行きゃいいのに・・・


 怖い声が聞こえる。


「ウジガミ様、出て行こうとしないんだよね。もういっそ、社ごと燃やしちゃえば?」


「それいいね。なら、あのスズって子もうざいし一緒に燃やしちゃえ!!」


 そんな陰口は毎日だったけど、あたしは全部無視した。


 みんなに避けられて一人過ごすあたしを、時折サキが見ていた。けど、目が合うとまるで見ちゃいけないものを見てたみたいに目線を反らして、逃げるようにいなくなる。


 あたしは本当に悔しくて、拳を握り締めながら、それでもその悪意にじっと耐え続けた。


 連が、もっとつらいはずの連がそうしているから。


 あたしが、連のことをずっと守るんだから。


 絶対、負けてやるもんか・・・






 その日は朝から暗い曇り空で、すぐどしゃ降りの雨が降ってきた。


 雨の中でも、あたしは連に会いに行こうとした。オンボロの社は、雨漏れなんかしてないかなって。連は、濡れてないのかなって。


 そうして、傘を持って家のドアを開けたとき


「・・・ウジガミ様のところに、行くんだね」


 サキが、傘も差さずに立っていた。ずぶぬれで、服も髪もびしょ濡れで、でもそんなのお構いなしみたいにただじっとあたしを見つめている。真っ赤な瞳と鼻をして。


 ・・・泣いてるの?


 サキの流した涙が、雨と一緒に頬を流れる。輪郭を伝って、ぽつんぽつんと落ちていく。


「・・・何の用?」


「ウジガミ様のところに、行くんだよね?」


 サキは、笑わない。瞬きもせずに、じっとあたしを睨みつける。


「だったら何?」


「行かせない」


 強い声で、サキが言う。


 どしゃ降りの雨で、あたしの視界がどんどん煙っていく。


「ウジガミ様のところになんか、行っちゃダメだよ!ねぇ、スズちゃん!行かないで!!」


 泣き顔のまま、サキはすがるように叫んだ。それは『説得』っていうより、『哀願』って感じだった。びしょ濡れで、なりふり構わない様は見てられないくらいに格好悪くて、あたしの胸が締め付けられていく。



 なんで・・・今更・・・サキだって、あたしのこと無視してたじゃない。



「そんなこと、サキに言われる筋合いなんてない・・・」


「あるよ!!だって、スズちゃんのことが好きだもん!!」


 サキが、はっきりと『好き』って言った。


「こんなちっぽけな村の中で、やっと出会えた友達じゃない!!放っておけないよ!!手放したりなんてできないよ!!」


 ・・・ウジガミ様のことは、連のことは簡単に見捨てたくせに。


 ・・・嘘つき。



 ダメだ。サキの言葉を聞くたび、どんどん心が冷たくなっていく。雨のせいかな・・・


 雨脚が強くなっていく。サキの声がかき消されそうなくらい、雨の音が五月蝿くて。


 ・・・ねぇ、サキ。遅いんだよ。


 あたしは、もう連を選んだんだ。


 その覚悟だって、したんだよ・・・



「ごめん。連のほうが、大事だから」


 あたしは冷たく言い捨てた。


 サキはショックを受けた顔をして、「そっか・・・」って呟いた。


 それからじっとあたしを見つめて、いつもみたいな笑みで、ニッコリ笑って。


「スズちゃんなら、そう言うって思ってたよ」


 サキが急に微笑むから、あたしはドキッとする。



 どうして、笑ってるの・・・


 何を、考えてるの・・・



 雨に打たれながら微笑むサキは、妖艶でキレイだって思った。濡れた髪が、肌が、艶やかに煌いてる。服が濡れて肌に張り付いた姿を、何だか見ちゃいけない気がして。色っぽくて。


 そんなサキを見るのは初めてだったから、笑みを浮かべたサキがちょっと怖かった。


「・・・私ね、ウジガミ様に手紙を書いたんだ」



 ・・・・っ!!



「ウジガミ様の社に、窓から入れたんだ。スズちゃんのこと、スズちゃんがどんな嫌がらせを受けてるのかって。『全部、ウジガミ様を庇うからなんです』って」


 ・・・っ、なんで・・・なんでそんなことしたの・・・


 連は、あたしが平穏に暮らせるようにって、ウジガミ様になったんだよ?


 だから全部我慢して、社に閉じ込められたって、この村に居続けるんだって・・・



 ・・・なのに、あたしのことを知ったらさぁ!!


「昨日、返事が来たんだ。『出て行く』って。もう、行っちゃったんじゃないかな?」



 ・・・っ、このクズっ!!



 あたしは腕を振り上げる。


 サキの頬に、思い切り。自分の手のひらだってじんじん痛む。



 けど、サキは殴られたってまだ笑ってた。


「・・・最低」


 サキを押しのけて、あたしはどしゃ降りの雨の中を走り出す。


 傘なんて差してる余裕ない。急がないと、連が・・・


 顔に打ち付ける雨粒がすごく痛い。濡れていく服がとても冷たくて、寒い。


 でも、そんなこと気にしてられないくらい連のことで頭がいっぱいだった。



 ・・・連が・・・連がっ!!



 不意に後ろを見ると、サキがじっと立ち尽くしながらあたしを見つめていた。殴られたってのに、優しそうに微笑んで。物悲しそうな瞳で、ただあたしを見つめてる。


 口元がかすかに動いた気がした。けど、その言葉は雨音に掻き消されてあたしには聞こえなかった。







「―――っ、嫌われちゃった・・・」



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