表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/19

第八話・大阪夏ノ陣(後編)

いよいよ後編に突入です。


後編は、前編・中編よりかなりアクションな展開をしていますのでお楽しみ!



フォースアイランドについての感想もお待ちしております。

清二、洋介、金子の三人を乗せたハマーは一路西へと南阪南道(みなみはんなんどう)をひたすら走行した。




幅広の車内の筈だが、燃料が入っているポリタンクにスコップや道具が後ろの半分を埋めていた。


また、トランクにも色々な物が積み込まれていた。



一応後部は、二人が十分に座れるだけのスペースは確保されてたのが幸いである。



「紹介するよ、こいつは友達の金子」



清二は運転に集中している為か、片手を上げて返事をした。



10分程走り、河内松原市へと差し掛かった。


ポーンとナビが反応する。


・およそ、200メートル先、阪神高速入り口へ左方向です。その先、料金所です。



しかし、清二は阪神高速へ入らず高速出口にハンドルを切った。



「あれ?阪神高速には乗らないの?」



「あそこは事故車とかが沢山居たから、降りる事にしたんだよ」



三人を乗せた車両は坂を下り一般道へと進入した。



「南港に船を留めてるからそれで愛媛に帰るんだ」と清二。



「ちょっと待ってください、愛媛へ行くんですか?」と、慌てる金子。



「松山には安全な場所があるからね、安心しなさい」と、清二。



車はやがて、堺市に入り湾岸沿いを南港へむけて走った。



外の景色はまるで地獄絵図のようだった。



燃える建物や放心状態でさまよう人々。奴らの餌食になっていく人を何人も見たが、助ける事は出来ない。



たまに、"乗せてください"と車を叩く人もいた。親子連れもいた。



しかし、そんな事に構ってはいられない。

今は、生きて大阪を脱出する事が大事なのだ。



しかし、住之江区に差し掛かった辺りで渋滞に巻き込まれてしまった。



時計は5時過ぎを指している。夏なので辺りも少し明るくなっていた。



「みんな何処に逃げるんだろうね父さん」



「さあな、もう何処も安全じゃないからなあ」



「でも、松山は安全なんでしょ?」



清二は後ろを向き「ちゃんと安全な所が有るから安心しなさい」と洋介の目を見て答えた。



急に前の方が騒がしくなった。



「なんだろ、みんな後ろへ逃げてくよ」



なんと、大勢の人が車を捨てて後ろへ逃げ始めたのだ。



清二は車を降り、一人の青年を捕まえた。



「おい!何故逃げるんだ!」



青年は清二を必死に振り払おうとしながら「ラジオ聞いてないの?」と答えた。



「ラジオ?」



「そうだよ、攻撃が始まるんだ」



「攻撃?」

清二は空を見た。



遙か彼方からヘリコプターが数機編隊を組んでこちらに向かってくるのが見える。



「かもめふ頭へ行きたいんだ、抜け道を知ってるか?」



青年の胸ぐらをつかむ清二。



「し、知ってるよ。暫く大阪に住んでるからね」


清二は「乗れ!」と青年に命令し助手席へ押し込んだ。



「かもめふ頭はへは、その先のコンビニを左だよ」


清二は少しバックし、思いっきり前の車に追突した。前に空間が開いたと思うとまたバックし、少しずつ隙間を広げた。



「おっさん正気か」



青年は掴まるのに必死のようだ。



バックミラー越しにヘリの集団を確認する清二。


前方でいきなり爆発が起こった。


ヘリがロケット砲を発射したのだ。



「始まったか」



前方を見るとなんと爆発が爆発を誘発しこちらに向かってくるではないか。



そう、車は燃料を積んだ爆弾なのだ。



車はやっとの所で歩道へ乗り上げた。しかし、真横で爆発が起きた為、そのまま爆風で四人を乗せたまま車は宙に浮き、コンビニエンスストアのガラスに突き刺さった。



「なんとか助かったな」と清二。



金子は埃が肺に入ったのかせき込んでいる様子だ。



清二はアクセルを吹かしたが、タイヤが空回りしているようで、少ししか進まない。



その時、店員姿の男が窓を叩いてきた。



見覚えのある目だ。



店員は顔を窓にへばりつき必死に中の獲物を得ようとしている。



「父さん、未だなの!」と叫ぶ洋介。



「今やってるとこだ!」


清二はアクセルを踏み続けた。



青年が答えた。

「押して駄目なら引いて見ろってね」



清二は「確かに」と答えギアをバックに入れた。


するとスリップするような音を轟かせ、ハマーはバックを始め、無事に建物から抜け出す事に成功した。


しかし、安心してはいられない。今度はヘリの方が攻撃を仕掛けてきたのだ。



ヘリは動き出した黄色のハマーを見つけると機銃掃射を開始した。



「あいつ等、撃ってきたよ」と洋介。



「その路地を右へ入って!」と青年。



「分かった、分かった、そう急かすな」と清二。


一瞬だが、緑色の平べったいボディが見えた。


「ありゃコプラか?」と清二。



AH-1コブラは対地用に開発された攻撃ヘリだ。



コブラは住宅街に入った清二達を追い回した。



バリバリと音が鳴り、車の直ぐ横に有った自販機が吹っ飛んだ。



しかし、車の方がスピードが早かったので自販機の落下地点とちょうど鉢合わせになり、ボンネットに自販機がドスンと落下。



自販機は反動で回転し、フロントガラスに当たったと思うと、そのまま車の後ろへと跳ね飛んでいった。



フロントガラスには少しヒビが入ってしまった。


「このままじゃヤラられる!何処か屋根のある所は有るか!」と清二。



「屋根?急かすなよ…そうだ、次の角を左に行けばショッピングセンターがある」



清二はサイドブレーキを引いた。


タイヤから煙が上がり車は大きくドリフトをした。



余りにスピードがつきすぎていたので、車体右側が民家の塀にめり込んだが、清二は再びアクセルを踏みこんだ。


路地を抜けるとショッピングモールの広大な駐車場へとハマーは進入した。



「中に入った方がいいな」と清二。



車はスロープを登り、屋内駐車場へと入った。



「何故に俺達を追い回すんだよ!」と金子。



「分からない。あいつ等の気に障るような事でもしたかな」と清二。



車はゆっくりと駐車場内を進んだ。しかし、ヘリのパイロットは諦めていなかった。



なんと、外側から建物ごとロケット弾で吹き飛ばそうとしていたのだ。



「コブラは居なくなったか?」と清二。



洋介は補強された小さな窓から周囲を見回し「行っちゃったみたいだね」と答えた。



衝撃が走った。



ヘリコプターがロケット弾を打ち込んだのだ。



ショッピングモールは半壊してしまい黄色のハマーは、ヘリから丸見えになってしまった。



「父さん、早く!」



清二はアクセルを思いっきり踏み込んだ。



ヘリもホバリングしながら、今度は機銃でハマーを攻撃した。



弾が当たったのか、金属音が車内に響きわたった。


三連式のガトリング機銃から容赦無く弾丸が発射され続けた。



車は、スロープを登り更に上の階へと移動した。


はやがて屋上に出た。



「あいつ、何処にいった?」



見渡す清二。



しかし、ヘリの姿が確認出来ない。



最初に見えたのはプロペラだった。



甲高い音を立てながらコブラの平べったいポディが姿を現す。



一瞬パイロットと目が合ったと思えば、機銃が回転を始めた。



車のボンネットに弾が当たり火花が散る。



「しつこいぞ!」



清二はギアをバックに入れ有る程度ヘリから距離をとり、サイドブレーキを使い車を反転させた。


もう隠れる所は無い。



清二はナビの画面を見た。そして「掴まってろ!」と叫びヘリの方向へ再び転換させた。



「おい!正気かよ、俺は未だ死にたくない!」と青年の言葉も虚しくハマーは走り始めた。



ヘリは清二達が近づいてきた為、後退し高度を下げ射程を確保しようとしたが、車の方が早かった。



黄色いハマーは屋上のブロック塀を突き抜けた。


そして運悪く、高度を下げていたヘリの操縦席の下辺りに空中で追突したのだ。



ハマーH1のベースは軍用に開発され、しかも清二の手で更に強化された鉄の塊が装甲も薄いコブラに追突したのだ。いくら自衛隊のヘリでも適うはずは無い。



ハマーはそのままヘリを突き抜けた。



真っ二つに割れるコブラ。



ローターはヘリのボディから切り離され真上に飛んでいった。



しかし、いくら重装甲のハマーでも屋上から落下しては助からない。



だが、清二には秘策が有ったのだ。



次の瞬間、防音壁を踏み潰し車は高架の上に着地した。



清二はナビでそこに高速が有る事を知っていたのだ。



しかも、運良くヘリまで破壊に成功した。



ハマーが着地した数秒後、ローターを無くした機体は炎と共に墜落した。


清二は「何とか勝てたみたいだな」と額の汗を拭った。



「俺を殺すきかよ!」と青年が叫んだ。



「あそにいたら爆発に巻き込まれて終わりだったんだぞ」と清二。



かなりのダメージを負っていたが未だ走る事が出来た。



「かもめふ頭は、この先だよ」と青年。



清二は再び車を走らせた。



遠くで爆発音が聞こえた


。「まだ、攻撃してるみたいだね」と洋介。



「ひどいもんだなー」と金子。



時刻は朝の6時になった所だ。



「それにしても酷いな。たった数日でこんなになってしまうなんて」

あちこちに止めてある車を避けながら清二が呟いた。



「なんで大阪だけがこんな事に」と洋介。



「みんな何も知らないんだな」と青年が話し始めた。



「政府が、大阪を見捨てたんだよ。ラジオくらいきけっつうの」



「政府が?」と清二。



「ああ。これ以上ウイルスを蔓延させない為だってさ」



「とにかく、早くおさらばしたいな」と清二。



車は南港東インターを降りた。この辺りには未だ人の姿がちらほらと見えた。



車は倉庫群を進み、かもめふ頭へとつながる橋へと向かった。



「あの橋を越えれば直ぐだ」

清二が白い吊り橋を指す。



かもめ大橋と言うその橋は四つの柱から斜めにケーブルが延びる斜張橋と言われる部類の橋である。



その先の広大な埋め立て地には関西電力の火力発電所があり、200メートルもの高さがある白い煙突がそびえ立っていた。



その形から白ネギの愛称で親しまれていた煙突は洋介にも馴染みのある風景だ。



大阪から松山へ帰るフェリーから、ライトアップされた白ネギを何度も見ていたのだ。



「ここに船があるの?」と洋介。



「もう着くよ」と清二。


低いエンジン音を響かせながら車はとある倉庫に入った。



倉庫の中には矢島と堀部が居た。


「遅かったじゃないか」と矢島。



「また随分派手にやったみたいね」堀部がボディが大きく破損したハマーを見て笑った。



「船の準備は出来てるか?」と清二。



「無線を聞いていたんだけど、とうとう攻撃が始まったようね」と堀部。



「ああ、まさか自衛隊に攻撃されるとはなー」と清二。



堀部は先に船へ乗り込んだ。



それは小さなカーフェリーだった。



カーフェリーと言っても小島との行き来に使う車も10台積めるかどうかの小さな船だ。



船体には薄く"ふぇりー瀬戸"と白く書いてあるが今にも消えそうな程である。



清二はハマーをその小さな積載エリアに駐車させた。



"ふぇりー瀬戸"には、その他二台の中型トラックとカバーのかかった荷物が載せてあった。



いよいよ大阪からの脱出である。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ