第二話・闇に潜む者
二話も一応体裁を整えました。
今後、もう少し改良するかもしれません。
一方、洋介達はガソリンスタンド上空を旋回し続けていた。
ライトプレーンの燃料は殆ど残っていない。
洋介は時計を見た。しかし、文字盤が上手く見えない。自分で吐いた息により曇ってしまったのだ。
ミリタリーウォッチについた水滴を吹き時間を確認する洋介。
その時、暗闇の中に、高志は動く物を見つけた。まさか、"奴ら"なのか?それとも…そうだ、あれはトラックだ。
「おい、矢島さんのトラックだ!」
二人の任務は、トラックが燃料を積み込む間の援護である。
「こちらイーグルワン、トラック隊を見つけました。これより援護を開始します」
「こちらベースワン、幸運を祈る」
トラックがガソリンスタンドに入ってくると荷台から数人の男達が降りてきた。その中には矢島良子の姿もあった。
「青いポリには灯油、赤はガソリンよ!」
この作戦において、堀部良子は隊長を努めていた。
「だめた、出ないぞ」
男の一人が給油用のホースを掴み叫んだ。
「静かに!、奴らに見つかったらどうするの。地下に貯蔵用のタンクがある筈よ」
堀部はそう言うと脇にある倉庫へ入っていった。
部屋の中は静かだった。時が止まっていると言う表現が似合っているかもしれない。
書きかけのホワイトボードの日付は2009年8月28日になっている。
矢島は慎重に倉庫の中を歩いた。一番の恐怖である"奴ら"が建物内に居るかもしれない。この半年間、何度と無く奴等に出くわした。だからこそ、怖いのである。 良子は壁にはめ込んである箱を開けた。そこには、スイッチといくつかのメーターがあった。
その中から良子は"スタート灯油"と"スタートガソリン"の二つのスイッチを押した。
部屋中に大きなポンプ音が響きわたった。これで地下タンクの燃料を得る事が出来るのだ。
その間に外では男達はトラックの荷台から次々にポリタンクを降ろす。 先ほどの男が嬉しそうに「よし、出てきたぞ」と言った。
その時、急に辺りが暗くなった。月が雲に隠れたのだ。
矢島は運転席のドアを開け、身を乗り出し空を見た。
月は分厚い雲に阻まれているので、直ぐには明るくならない。 矢島は仕方なく、ヘッドライトのスイッチをひねった。
すると、スタンドは先ほどとは比べ物にならないくらい明るくなった。ヘッドライトの明るさは強烈だ。
作業はしやすくなったが、代わりに危険性もどんどん増していた。
やがてトラックの荷台はポリタンクで一杯になった。
空から見守る高志が暗闇に何かを発見した。
「おい、あの田んぼを照らしてくれ」
洋介は操縦席の右脇にある小さなスイッチを入れた。
ライトプレーンに装備されたライトが勢いよく点灯する。
「おい、見ろ!大変だ」
高志は洋介の肩を叩いた。
なんと田んぼにはぎっしりと人の大群が居るのだ。
人といっても彼らに意思は無い。何故なら既に死んでいるからだ。
「こちらイーグルワン、緊急事態です!」
「イーグルワン、どうした?」
「奴らです。大群で向かってきます」
清二はこの事態を恐れていた。"奴ら"に対抗できる手段は無い。このままでは全滅してしまうのは明白だ。最高責任者として、彼らを無事に帰還させなければならない。
清二はマイクをとった。
「距離は?」
「スタンドから200メートル位です」
清二はテーブルの地図を確かめながら「トラック隊は後どれくらいで作業が終わるか?」と質問した。
良子が無線に出た。
「こちら堀部、もう間もなく終わります」
「奴らが200メートルの所まで迫ってる。大群だ!」
堀部の顔が一気に青ざめた。
「了解」
「イーグルワン、トラック隊が脱出するのを援護しろ!」
「了解」
高志は積んでいた火炎瓶にターボライターで火を着けた。瓶にアルコールを入れて作った在り合わせの武器だ。
「よし、そのまま降下しろ洋介!」
洋介は操縦幹を前に倒した。すると、ライトプレーンは風を切りながら急降下を始めた。速度計の針がぐーんと上がる。
そして高志は田んぼと道路の境目をめがけ、火炎瓶を投げつけた。
辺り一面に炎が燃え広がった。冬の乾燥した草は勢いよく燃えている。
「こちら堀部、積み込みが完了しました。脱出すします!」
堀部の声がレシーバーから聞こえてきた。
バックミラーで全員が乗り込んだ事を確認する矢島。
最後に乗り込んだ堀部が荷台から運転席の壁を叩き出発の合図を送る。 合図を聞いた矢島は直ぐにトラックを発進させた。
「トラックが出るぞ!」
直ぐにライトプレーンは動き出したトラックの後を追い始めた。
「前を見ろ、洋介!」
前を見ると、なんとトラック前方に沢山の"奴ら"の姿が見えた。
高志は再び火炎瓶に火を着け、奴らに向かって投げつけた。
地面に落ちた火炎瓶はパリーンと割れ、奴らを丸飲みにした。
トラックは、その燃える奴らに体当たりし"奴ら"を蹴散らし突っ走った。
洋介が叫んだ
「駄目だ、燃料が!」
計器を見ると明らかに回転数が落ちている。
方法は一つしか無かった。
洋介は操縦桿を前に倒した。
殆ど滑空状態の機体はトラックめがけて降下を始めた。
トラックの屋根に着陸させようとしているのだ。
ライトプレーンの前輪が荷台に接触したが、その反動で再び空に機体が引き戻されてしまう。
洋介はもう一度トラックに向け降下を始めた。 エンジンは燃料不足の為、ガタガタと音を立てている。
最後のチャンスだ。
洋介は今度は車輪全部が着地するようにゆっくりと操縦幹を操った。今度は上手くいっただ。
次の瞬間、機体は屋根のやや後ろ側に着陸した。
しかし、これだけでは終わる程甘くは無い。
風で機体が流され、今にも前輪が浮きそうな状態なのだ。
矢島はとっさの判断でアクセルをゆっくり戻した。
翼が付いている以上、いつトラックから落ちるか分からないのは確かだ。
このままでは、機体が飛ばされてしまう。そう感じた堀部は荷台の中からロープを見つけ、屋根によじ登り始めた。
そして、前輪にロープを巻き付け、屋根のわずかな突起に固定した。
前輪は屋根に辛うじて接地している。 トラックはようやく一の門へとたどり着いた。ここまで来ればもう"奴ら"の姿も見えない。
「こちらトラック隊、間もなく一の門です」
矢島の連絡を受け、スピーカーの向こうからは歓声が聞こえている。
最初に開けた時と同様、ライトプレーンを乗せたトラックは一の門を通過した。
門を通過すると、直ぐにライトプレーンは降ろさた。
トラックの方は一の門近くの倉庫へと入っていった。
倉庫ではホースを持った男性が数人待機している。そして、荷台から、燃料を降ろすと直ぐにホースでトラックを洗い始めた。
ホースから出ている水は農薬である。 効果があるかは別としてトラックには奴らの血が付いていたので洗う必要があったのだ。
"奴ら"の血が危険で有る事は皆理解していた。
矢島と良子は握手を交わした。