真白な少女
「よし、完成っと!」
私は大きく伸びをした。丁寧に丸めた大福はお皿に並んでいる。私はその皿にラップを掛けた。今すぐ食べてもいいけれど、と私は独りごちる。手を洗い、エプロンを外した。ちらと時間を確認した。まだ少し余裕がある。居間の掃除でもしていようか。
今日は友達をこの家に呼んでちょっとしたお茶会をする事になったのだ。それぞれお菓子などを持ち寄って、とりとめもない話をする。あの大福も、彼女らと一緒に食べるためのものだ。あとはみんなが集まるこの部屋を少しでも見栄えよくするだけだった。
余計なものを片付け、掃除機を掛ける。思ったよりは大変な作業に、私はふうと息をついた。
「あの…」
誰かの声がして、私はどきりとした。私はここに独り暮らしで、他人の声がすると言うことは来客を意味する。全然気付かなかった。私はどう取り繕おうかと考えながら振り向いた。だが、目の前にいたのは見知らぬ少女だった。白いワンピースに身を包み、肌は色白だ。髪の毛は光をよく反射する銀色。苺をかたどった髪留めで二つに分けてまとめている。まるで雪国から来た妖精のようだった。
「よ、よろしければお掃除お手伝いしましょうか?」
私が呆然と見つめていると、少女はおどおどしながら言った。か細い声はうつむきがちであることと加えて少し聞き取りづらい。
「初対面なのに、それは悪いよ。すぐに終わるから待ってて」
「だ、大丈夫です! それに私はあなた様に作られた恩義がありますので! 返さない訳には参りません!」
私は断ったが、少女は頑として聞き入れてくれなかった。とはいえ人手が欲しかったのは事実なので、私の方が折れてありがたく手伝って貰うことにした。二人での作業はあっという間に終わり、私は少女にお茶を出す。彼女は嬉しそうにお茶をすすった。
「ありがとうございます、お母様」
「その呼び方はさすがにやめてくれない?」
「そうでございますか? では、ご主人様と」
「それも却下」
「えーっと、女王様」
「ガラじゃないよ」
「お姫様?」
「それもどうかなー」
「え、えと、お姉様!」
お姉様。その言葉に、はたと私の思考は一度途切れた。様付けなのは変えてくれないようだが、それはそれでありかもしれない。少なくとも、女王様やお姫様よりは身近な呼び方だ。
「じゃあ、それで」
「はい、ありがとうございます、お姉様!」
ふと時計を見れば、そろそろ友達が来てもおかしくない時間だった。私は少女を自分の部屋に連れて行く。
「ちょっとこの部屋で大人しく待っててくれる?」
「はい、お姉様」
さすがにこの子を今日のお茶会に呼ぶ訳にはいかない。できるだけ静かにしているよう念を押し、私は来客に備えた。
お茶会は楽しい一時となった。私の作った苺大福は、なかなかの好評だった。ただ奇妙なのは、作った時より数が一つだけ減っていることだった。もっともいくらか余分に作っておいたので、問題になることでは無かったのだが。
アザとーさんからのお題で、「苺大福の擬人化」という事でした。
少女の正体は本文では明記しませんでしたが、もうお分かりですね?
個人的には、苺大福って買うより作るものという感覚です。年末に餅つきをする時に一緒に作るんですよ。年によっては栗やら桃やらグレープフルーツなども入れます。って関係ないですね、すみません