断章『バスターミナル』他
写生文のための断章メモ
断章(五)
バスターミナル
暮色のまだ浅い夕空に、灰色と白い雲がまだらに浮かんでいた。Rマーケットの裏口の自動ドアが開き、老婦人が中へと入って行った。入り口脇の宝くじブースの窓口の前に、水色の作業着姿の男がしばらく立ち、また離れて行った。店前のバスターミナルには、いまN町行きの市バスが停車していた。広場のベンチに老人が腰掛け、煙草を吸っていた。やがてマーケットの自動ドアが再び開き、こんどは買い物でふくらんだビニール袋を両手にした中年の婦人が出てきた。一本のポールの上部から四本のアームがU字状に伸び、その先端には球形のカバーに収められた照明が取り付けられていた。広場の外灯はすでに点灯されていた。ヘッドライトの光をゆっくりと流しながら、市バスが構内から車道へ出て行った。
断章(六)
ローソン前
あたりは夕暮れていた。ローソンの前に車が二台駐車していた。ドアが開いた車の側に、若い女が一人立っていた。コンビニから若い男が出てきた。男は両手にカップコーヒーを持ち、片方の手の指にレジ袋を提げていた。男が女に近づくと、女はカップを受け取った。そして、二人は車に乗り込んだ。ドアが閉まり、車はしばらく動かなかった。
断章(七)
団地の駐車場
団地の丈高い居住棟に挟まれて、幅広の長い道が出入り口へと続いていた。常夜灯に照らされた並木の葉叢は紅葉していた。地面に落葉が裏表を見せ、また重なり合って散らばっていた。道の突き当たり、出入り口の向こう側に密集する丈低い家々の屋根のはるか上に、丸い月が出ていた。彼は歩を止めてしばらくその夜空に浮かぶ月を眺めやった。そのとき、民家のブロック塀がライトを浴びて薄闇に白く浮かび上がった。一台の車がカーブして団地の敷地内に入ってくるところだった。二つの鋭く白く光る車のヘッドライトが彼に正対して直進してきた。車は彼との距離を半分くらいに縮めると、もう一度カーブして駐車場のスペースへと入って行った。停車した車から中年の男が出てきた。スーツ姿の男は、居住棟の方へ背を向けて歩いて行った。駐車場に停めた男の白い車のボディには、赤茶色の外灯の光が反射していた。
断章(八)
放水路沿いの小道
大池公園脇の四ツ辻から延びる小道を、ときおり軽くスキップし、思い出したように小走りになりながら、三歳ほどの女の子が歩いてきた。女の子は不意に立ち止まると、道端にしゃがみ込み、何か小さなものを指先でつまみ上げた。そして振り返り、それを目の高さに掲げて、あとから来る母親に見せた。追いついた母親は顔をしかめ、短く何か言った。女の子はうなずき、手の中のものを枯芝の上へ放った。彼が二人とすれ違ってその場を見ると、赤い単四乾電池が一つ転がっていた。小道に沿って幅広の放水路が続いていた。大池から流れ出た水は浅く、水面には側道に並ぶ木々の影が揺れていた。葉を落とし尽くした桜の枝に白いマスクが一枚ぶら下がっていた。




