石の記憶 過去編 真希ちゃんの時代
真希が初めてその店へ行ったのは、雨上がりの午後だった。
占い雑誌の後ろに、小さな広告が載っていたのだ。
天然石、ヒーリング、オーラ診断。
白い背景に並ぶ水晶の写真が、やけに綺麗に見えた。
今みたいにスマートフォンで簡単に検索できる時代ではない。
だから雑誌に載っている店というだけで、どこか特別に思えた。
真希はページの端を折り、何度も住所を見返した。
駅を降りて、細い路地を歩く。
雑居ビルの階段を上がった先に、その店はあった。
扉を開けた瞬間、お香の香りがした。
ガラスケースの中には、水晶やアメジスト。
銀色のアクセサリー。
天使の小さな置物。
その横には、雑誌で見たようなオカルトグッズまで並んでいる。
少し怪しくて、でも綺麗だった。
真希は店の中をゆっくり見て回った。
その頃には、パワーストーンという言葉も少しずつ広がり始めていた。
書店へ行けば専門書が並び、スピリチュアルな人達が石について語っていた時代だ。
占い雑誌の片隅には、
「石の精霊が視える」
という占い師のコラムまであった。
誌面の写真を見ながら、
「この石には白い羽の精霊がいます」
などと真面目に説明している。
真希も友人達も、全部を本気で信じていたわけではない。
けれど、
「本当だったら少し面白い」
くらいには思っていた。
コンビニへ行けば、小さな石が百円で売られていた時代だった。
ラブラドライトも、ルチルクォーツも、今ほど高価なものではない。
透明な袋に入れられ、他の雑貨と並んで置かれていた。
学校帰りに買って、筆箱へ入れる。
そんな距離感だった。
店の奥では、購入者向けのオーラ診断をやっていた。
視えるらしい女性が座っている。
真希は半分冗談みたいな気持ちで見てもらった。
女性は真希を見るなり、少し黙り込んだ。
それから静かに言った。
「あなた、修行したら霊能者になれるわ」
珍しいオーラをしているらしかった。
真希は曖昧に笑った。
帰り道、買ったばかりの水晶を鞄の中で触る。
結局、修行などしなかった。
霊も見えない。
オーラも見えない。
人生は普通に続いていった。
それでも、時々思い出す。
雑誌を握りしめて石屋へ向かった日のことを。
あの頃、世界は今より少しだけ不思議だった。




