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アメ降るホシの黎い空  作者: ペーはぁど
14/14

一人目 違和感と違和感

遅筆なせいかどこかで設定矛盾が出そうなのが怖いです……


「先輩、今日は間違えなかったっスね」


「ああ、ようやくだよ。だいぶ違和感というか慣れない変な感覚がなくなってきた」



 席が変わってから十日が過ぎようかという頃、ようやくまっすぐ間違えずに今の席にたどり着けるようになっていた。


 最初のうちは無意識に従って動いていたため間違えてばかりだった。そのせいで同僚どころか後輩にもからかわれることになってしまった。

 今の後輩の発言もそれを加味してのことだ。


 何故か間違えるのは自分だけで、同僚も後輩も全く苦にしていないのだからまるで別世界にやって来たかのようだった。



「まあ、あの席にいたのも長かったから仕方ないのかもしれないけどな」


「どのくらい使ってたんスか?」


「二年くらい、かな。異動からずっとあそこだったよ」


「そりゃ長いっスね。お疲れ様です」



 普通なら二年もあれば自身が異動したり、他人の異動に合わせてかわったりするのだろう。だが何故かそのままだった自分の席。


 まだふとした時に元の位置にいるんだと錯覚してしまうのも無理はないのかもしれない。



「さて、メールのチェックでもするかな」


「ウチはまた現場行ってきます。あ、あと相談があるんですけど、午後からいいです?」


「? ああ、いいけど。昼休憩あけか?」


「んー、多分昼くらいには戻ってくるんでお昼食べながらとかでもいいんですけど」


「……割り勘だぞ?」


「当然じゃないっスか。ウチから声かけてるんですよ?」


「それなら好きなタイミングでいいぞ」


「了解っス。じゃあ行ってきますねー」



 後輩はカバンを持つと足取り軽くドアをくぐっていった。



(さて、メールのチェックでもするか)



 始業時間まで少しだけあるせいか、オフィスの人は昼間より少ない。

 おかげで簡単な返信ならすぐに終わるだろう。


 そう思っていた。



「あー……ゴホン。ちょっといいかね?」



 まだメールは一通目なのだが、すぐ近くから声がかかる。顔を上げると課長が立っていた。



「なにか御用ですか?」


「うむ。人がいない間に聞いておこうかと思ってね」



 人がいないとはどういうことだろうと見回すと、オフィスの部屋には課長と自分だけだった。


 始業前だがそれはどういうことだろう。全員トイレやら飲み物の購入やらに出ているというのだろうか。

 ちなみにこのビルに喫煙所はない。



「……なにか作為的なものを感じますが、どうぞ」


「そう固くなるな。最近の篠崎さんはどうかと思ってね」


「篠崎ですか? これと言って大きなトラブルもなく、仕事をこなしています。課長にも報告はあるはずですが……」



 わざわざ立ち上がって話すこともないだろうと思い、それだけ返答する。

 課長の真意が読み取れない。



「それは聞いている。それでも苦労していることもあるだろうし、会社の愚痴とかストレスとか溜め込んでないかと思ってね」


「多かれ少なかれあるとは思いますが、うちの会社に関してはあまり聞きませんね」


「うむ。それなら良かった。それもこれも良くできた先輩がいるからだろう」


「よくできているかはわかりませんが、支障なくできているといいなとは思っています」


「うんうん。それはいいことだ。ところで君は――」


「わ、忘れ物したっスー!?」



 突然、話題の後輩がオフィスに戻ってきた。出ていってから少しばかり時間がたっていることを考えると気づいたのはエレベーターの中とかだろうか。


 後輩は自分の席まで戻ってくると、引き出しから何かを取り出した。



「……何を忘れたんだ?」


「あ、先輩、実は仕事用の携帯を忘れたんス。いやー、人がいなくてよかった。こんなの誰かに聞かれたら恥ずかしいっスよ」


「……俺はいいのか」


「先輩に関しては今更な気がするんで……って課長!? おられたんですか!?」


「先程からずっといたよ。あー、さっきのは聞かなかったことにするから早く行きなさい」


「――しっ、失礼します」



 後輩はどうにかそれだけを絞り出すと、戻ってきたときよりも早いスピードで出ていった。


 よっぽど恥ずかしかったのかもしれない。



「……今のは問題ないミスですよね」


「……そうだな。現場に間に合わんということもないだろうから、ミスにしなくてもいいだろう」



 普段ならちゃんとしろと怒鳴り散らす課長のお言葉である。先に口に出したおかげか、どうやら今回は気にしなくていいらしい。



(良かったな、後輩。昼に愚痴られそうなのだけが気がかりだけど)



 奢らないといけなくならないといいが。まあ本人に伝えれば大丈夫だろう。

 そう信じることにした。



「あ、ところで課長、先程の話は……」


「……いや、もういい。そろそろ始業時間だからな。仕事をしてくれ」


「あ、はい……」



 課長はそれだけいうと自分の席に戻っていった。



(何だったんだろう……)



 作業をしながら課長の方をチラチラと伺うが、これといって普段と変わった様子はない。

 一時間たっても二時間たっても課長はいつも通りだった。



(何もないならそれでいいか)



 カタカタとキーボードの音がオフィスに響く。なにか変なタスクが降ってくることもない。


 作業を切りのいいところまで進めて顔を上げると、さらに一時間がたっていた。



(そろそろ戻ってくる頃か?)



 オフィスを見回すと、埋まっていたはずの席にチラホラと空席ができていた。すでに十二時を過ぎている。昼休憩にでも入ったのだろう。



「せんぱーい、戻りましたよー。いやー、お腹空いたっス」



 伸びをして肩周りをほぐしていると、薄っすらと汗をかいた後輩が戻ってきた。現場での作業もなかなか大変だったようだ。



「おう、おかえり。今日はもう大丈夫なのか?」


「引き継いできたんで大丈夫だと思いますよ」


「そうか。そんじゃ昼行くか?」


「そうっスね。行きましょうか」



 後輩が同意したのでパソコンを一旦ロックした。おなじみの待機画面が映し出される。



「先輩、律儀っスね。身内しか入ってこないのに」


「何かあってからじゃ遅いだろ? お前も気をつけろよ」


「ウチ、今のメインは外なんスけど……」


「それでもパソコンを使わないわけじゃないだろ? 普段からやっとかないとそのうち忘れるぞ?」



 いくら同じ会社の同僚とはいえ、本決まりになっていないものを見られていいわけではないと思う。


 一度、後輩に情報管理の研修でも受けさせたほうがいいだろうか。



「それはそうっスね。でも短時間なら見逃してほしいっス」


「そりゃ飲み物買いに行くとかトイレくらいなら指摘するつもりはないけどな」


「なら大丈夫っスよ。それよりお昼行きましょうよ」


「そういえばそうだったな」



 いつものように財布と携帯電話を取って立ち上がる。

 後輩は先にオフィスを出ていった。



「課長、お昼行ってきます」



 上役に念の為一言伝えておくべきだろう。



「うむ。気をつけてな」



 返事はすぐに帰ってきた。簡素だが声音は優しかった。


 後輩を追いかけてオフィスを出ると、ちょうどエレベーターの扉が開くところだった。

 足早に近づくとちょうど扉が閉まり始める。あわてて乗り込んだところですぐに下り始めた。エレベーターも急いでいるのだろうか。


 ―八――七――



「ちょうどだったっスね」


「……ハァ……ハァ……走らないと間に合わなかったぞ?」


「いいじゃないっスか。間に合ったんだから」



 言外に早すぎると言ってみるが、後輩はどこ吹く風だ。反省している様子はない。


 ドクドクとこめかみが拍動する。頭痛薬はあっただろうか。すぐに収まるといいが。



「……今回はそれで許してやるよ」


「さすが先輩。器がデカイっスね」



 調子のいいやつである。

 毎回こんなことをされたらたまったものではない。一度ちゃんと話しておく必要があるかもしれない。



「……今日からしばらくは絶対に奢らん」


「ちょっ――今、先輩の中で何があったんスか!?」



 まるで友達のように接してくる後輩に対して腹が決まっただけだ。何があったとかそういう話ではない。

 ただちょっとだけ意趣返しが含まれているかもしれない。



「一度胸に手を当てて考えてみろ。そうしたらわかるかもな」


「どういうことっスか!? そもそも胸とかセクハラっスよ!!?」


「なーにがセクハラだ。お前は違うだろうが!!」


「なっ!? いくら先輩でもそれはちょっと酷すぎませんか!? 断固抗議するっスよ!!」



 声を荒げたせいか、頭痛がひどくなったような気がした。そんなことは無いと言い聞かせてゆっくりと呼吸をする。

 後輩の抗議の声が頭に響いた。


 ――六――五―



「先輩、ウチだからいいっスけど。他の人にはしちゃダメっスからね?」


「どういう――」



 ズキンと頭に何かが響いた。思わず顔をしかめる。

 後輩はそれを見ていたのか、キョトンとした表情になった。



「? どうしたんスか? 顔が真っ青っスよ?」


「いや、なんでもない……」



 目の前にいるはずの後輩の顔が先程までよりもひどく遠く感じる。まるでテレビ画面でも見ているような気分だ。


 落ち着くために深呼吸をする。後輩に見つからないように。



「いや、おかしいっスよ。さっきまでと顔色違いすぎますって」



 ――四―――三――


 そうこう話している間もエレベーターはどんどん降りていく。どこかで止まるようなこともなく、一階までまっすぐに。



「ちょっと頭痛がしただけだよ。気にするほどのことじゃない」


「ほんとにそれでいいんスか? 休まなくて平気っスか?」


「……大丈夫だ。昼休みもあんまり長くないんだし、飯の時間がなくなるぞ」



 少しずつ痛みに慣れてきた。痛みそのものも収まってきている気がする。

 顔色は本当に悪いのだろう。でもそれはきっと痛みのせいだ。



「そんなことより先輩の体調っスよ!」


「問題ない……落ち着いてきたし」


「…………本当にいいんスか?」


「ああ、それより飯はどこに行く? コンビニじゃ味気ないだろ?」



 そう言って話題をそらす。

 大丈夫だ。痛みはだんだん引いてきた。思い込みじゃない。


 ―――ニ――



「んー……いつもの喫茶店は最近通い詰めだし、席さえ空いてればファミレスとかでも。ドリンクバーありますし」


「たまにはそれもいいか。それじゃ近くのファミレス覗いてみよう」



 喫茶店よりリーズナブルなファミレスは財布に優しい。今回は時間を潰す目的はないがあったとしても利用しやすい。


 スマホを取り出して地図アプリでファミレスを検索する。近くに何件かあるようだ。


 ――一―――



「近いところからいってみるか」


「そうっスね。あ、ところで先輩――」



 ――ポーン― 


お読みいただきありがとうございます。

ゆっくりとですが更新していきますのでお楽しいいただけると幸いです。

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