8話 兄の秘密
数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。
拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。
8話 兄の秘密
火柱の事件から数日後。
王宮は静かだったが、私の心は休まらなかった。
マリーナの顔を思い出す。あの青ざめた表情。小さく笑いながらも、胸の奥に鋭い痛みが走る。前世のあの感覚――「……私の復讐は、まだ序章にすぎない」
図書館の一角。私はゼノと向かい合い、魔法の訓練を続けていた。
「胸の封印の進行状況は?」
ゼノは手元の古びた魔法書を見ながら答えた。
「第二層も半分ほど壊れたな」「順調ですね」
私は少し胸を張った。五歳の身体ながら、前世の知識と今の魔力が融合して、封印破壊は予想以上のペースで進んでいる。
「ただし」
ゼノの声が低くなる。
「第三層――覚醒封印は、簡単には破れない」
胸がギュッと締め付けられる。覚醒封印。王族の魔力が完全に覚醒する前に私は強くなる必要がある。「なるほど、焦りは禁物ですね」
ゼノは頷き、にやりと笑った。
「ところで、そろそろ話しておくか」「話って?」
ゼノは私の肩を軽く叩いた。
「兄上だ。あの王子、ただの優しい王子じゃない」
私は一瞬、手が止まる。
「どういうことですか?」ゼノは低く言った。
「お前と同じだ。あの王子も転生者だ」
私は驚き、そして心の奥がざわつく。
「え……?カイト兄様も?」
「そうだ」
ゼノは真剣な顔で言う。
「お前が前世の記憶を持っていること、あの王子も知っている」
胸の奥で小さな鼓動が高鳴る。兄様が……同じ転生者?それなら、あの優しさも、あの微笑みも、全部……計算ではない、かもしれない。
「つまり……二人で私の未来を守るつもりなんですか?」ゼノは首をかしげた。
「いや、まだわからん。奴はどう動くか読めない」「……」
私は心の中で小さく笑った。だって、このゲームは私の手の中にある。
その夜。
王宮の庭園。
月明かりが白く差し込む。
カイト兄様が私に声をかけた。
「エリオット、よく頑張っているな」「兄様……」「無理はするな。体が強くなっても、心を壊すなよ」
私は微笑む。小さな拳を握りしめた。
「もう、誰にも壊されません」
その時だった。
庭の向こうから、柔らかく華奢な声が聞こえる。
「……あの、王女様ですか?」
振り向くと、金茶色の髪、優しい瞳を持つ少女が立っていた。
小柄で、気弱そうだが、どこかしっかりとした雰囲気。
「……リリア・フラワーズ」
私は一瞬で理解した。
物語のヒロイン。
前世のあの少女だ。
「……あの、魔法学校への入学が許可されました。三年後ですけど。宜しくお願いします。」
私は一歩前に出る。
「……なるほど、来るのね」
リリアは微笑む。純粋で、愛されることが運命の少女。でも私は知っている。
私の死を、悲劇として利用する存在
胸の奥に、冷たい光が走る。
「……歓迎します。でも、注意してください」
リリアの顔が少し曇る。
「注意……?」
「この国の王女は、簡単には死にません」
私は小さく笑った。
そして指先を少し光らせる。
魔力の小さな火花が飛ぶ。リリアの目が大きくなる。
「えっ……?」
私は静かに言った。
「私を、誰も侮れません」
リリアは戸惑い、ほんの一瞬怯む。
その瞬間。
私は胸の奥で小さくつぶやく。
(プチざまぁ、開始)
「あのヒロインに利用されるなら、今のうちに……」
ゼノの教え通り、私はこの瞬間の魔力を最大限に使う。
小さく火花を飛ばし、リリアの目の前で地面に小さな魔法陣を描いた。
「な、何ですか!?これ……」
リリアは動揺し、周囲の空気は凍る。
私は微笑む。
「ちょっとした魔法です」
火柱や破壊ではないが、リリアには十分にショック。
「王女様……」
彼女の純粋な目が、ほんの少しだけ恐怖に変わる。
私は心の中でつぶやく。
(この世界では、私が主人公。あの偽善ヒロインの物語は、これから壊していく)
カイト兄様が隣で静かにうなずく。彼の瞳にも覚悟がある。
「エリオット、行くぞ」
私は指先をかざし、リリアを真正面に見据えた。
「覚悟してください。誰の物語にも、もう使われません」
庭に立つ三人。月明かりがすべてを照らす。
物語は、ここから大きく動き始める。
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