6話 ヒロインの影
数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。
拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。
6話 ヒロインの影
禁書庫の空気は凍りついていた。
「君も思い出したんだな」
カイト兄様のその言葉が、まだ耳に残っている。
前世。
つまり――
この人も転生者。
私はゆっくり息を吐いた。
「……いつからですか?」
カイトは少し考えてから答えた。
「八歳の時」
「結構前ですね」
「剣の訓練中に倒れてな」
私は苦笑した。
「それ、私と同じですね」
カイトもうなずいた。
「そうだな」
ゼノは腕を組んで二人を見ていた。
「転生者が二人か」
楽しそうに笑う。
「面白い国だな」
カイトはゼノを睨んだ。
「お前は黙ってろ」
ゼノは肩をすくめた。
「怖い王子様だ」
私はその二人を交互に見た。
「つまり兄様」
「うん」
「私が死ぬ未来も知ってるんですね?」
カイトは静かにうなずいた。
「知っている」
その答えは迷いがなかった。
私は少しだけ安心した。
「よかった」
カイトは眉を上げた。
「何が?」
「私を止めに来たわけじゃないんですね」
カイトは笑った。
「むしろ逆だ」
そして言った。
「未来は変えるつもりだ」
胸の奥が少し温かくなる。
やっぱり。
この人は敵じゃない。
「でも」
カイトはゼノを見た。
「こいつが師匠とは思わなかった」
ゼノは笑う。
「失礼だな」
「エリオットに封印をかけたのはお前だろう」
空気が少し重くなる。
私はカイトを見た。
「知ってたんですか?」
カイトは苦い顔をした。
「疑ってはいた」
「……」
「でも証拠がなかった」
ゼノは平然としている。
「王子様も忙しいからな」
私はため息をついた。
「とりあえず」
二人を見て言う。
「喧嘩は後にしてください」
カイトは苦笑した。
「そうだな」
その時だった。
禁書庫の外から声が聞こえた。
「王子殿下?」
侍女の声だ。
カイトは舌打ちした。
「見回りか」
ゼノはため息をつく。
「面倒だ」
そして。
パチンと指を鳴らした。
次の瞬間。
ゼノの姿が消えた。
「……」
私は瞬きをした。
「どこ行ったんですか?」
「姿を消しただけだ」
ゼノの声だけ聞こえる。
カイトは呆れた顔をした。
「相変わらず便利だな」
侍女の声が近づく。
「殿下?いらっしゃいますか?」
カイトは扉を開けた。
「どうした」
侍女は驚いた顔をした。
「殿下!こんな時間に図書館に?」
カイトは自然に答える。
「妹を探していた」
侍女は私を見る。
「エリオット様!夜更かしはいけません!」
「ごめんなさい」
私はしょんぼりした顔を作った。
侍女はため息をついた。
「体が弱いのですから」
その言葉を聞いて。
ゼノの声が小さく笑う。
(なるほど)
私は心の中で呟いた。
体が弱い設定。
でも。
もう違う。
封印は少しずつ壊れている。
そして――
数日後。
事件は起きた。
王宮の庭園。
私は侍女と散歩していた。
すると。
遠くから貴族の子供たちの声が聞こえる。
「王女様だ」
「病弱王女」
ヒソヒソ声。
私は慣れている。
物語でもそうだった。
「すぐ倒れるんだろ?」
「触ると移るかも」
侍女が怒る。
「無礼ですよ!」
でも子供たちは笑った。
その中に一人。
金髪の少女がいた。
高価なドレス。
侯爵家の娘。
私は知っている。
物語にも出てくる。
マリーナ・ルクセル。
典型的な貴族令嬢。
そして――
ヒロインをいじめる役。
つまり今は。
私を見下している。
マリーナは私を見て笑った。
「エリオット様、お体は大丈夫ですの?」
私は微笑んだ。
「ええ」
「でも無理して外に出ると倒れますわよ?」
周りの子供がクスクス笑う。
侍女が怒る。
「失礼です!」
でもマリーナは続けた。
「だって王女様は」
ニヤリと笑う。
「すぐ死んでしまう体でしょう?」
その瞬間。
空気が冷えた。
侍女の顔が青くなる。
普通なら大問題。
でもマリーナは侯爵家。
強い家だ。
だから調子に乗っている。
私はゆっくり息を吸った。
そして。
一歩前に出た。
「そうですね」
私は微笑んだ。
「昔はそうでした」
マリーナは首をかしげた。
「昔?」
私は右手を軽く上げた。
ゼノに教わった。
一番簡単な魔法。
パチン。
指を鳴らす。
次の瞬間。
マリーナのドレスが――
真っ黒に焦げた。
「きゃあああ!?」
マリーナが悲鳴を上げる。
子供たちも騒ぐ。
「な、何!?」
私は微笑んだ。
「ごめんなさい」
でも声は冷たい。
「魔法の練習中なんです」
マリーナは震えていた。
「ま、魔法!?」
貴族の子供たちは混乱している。
当然だ。
私は病弱で魔法が使えない設定だから。
私は首をかしげた。
「知らなかったんですか?」
ゆっくり言う。
「私、最近魔法が使えるようになったんです」
マリーナの顔が真っ青になる。
「そ、そんな……」
私は微笑んだ。
「安心してください」
そして。
少しだけ近づいて言った。
「次はドレスじゃなくて」
小さく囁く。
「髪になるかもしれませんけど」
マリーナは完全に固まった。
私は侍女を見た。
「帰りましょう」
侍女はまだ混乱している。
「は、はい!」
私は歩き出した。
背後で。
マリーナが泣きそうな声で言う。
「覚えてなさい……!」
私は振り返らずに言った。
「はい」
そして小さく笑った。
「また練習台になってくださいね」
背後で子供たちが静まり返る。
その夜。
禁書庫。
ゼノが笑っていた。
「やるじゃないか」
私は本を閉じた。
「プチざまぁです」
ゼノは楽しそうに言った。
「性格悪いな」
私は答えた。
「前世が長いので」
その時。
ゼノがふと空を見た。
「そろそろだな」
「?」
「三年後」
ゼノは言った。
「魔法学校に入る少女がいる」
私は静かに言った。
「リリア・フラワーズ」
ゼノはうなずいた。
「そうだ」
そして笑う。
「物語のヒロインだ」
私は窓の外を見た。
夜の王宮。
静かな庭園。
そして思った。
いいだろう。
ヒロイン。
来るなら来ればいい。
でも。
私の物語は、もう始まっている。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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