1話 王女の覚醒
いつも読んでいただきありがとうございます。
他にも作品がありますので読んでもらえたら嬉しいです。
1話 王女の覚醒
王立図書館の最奥は、昼でも薄暗い。
高い天井まで届く本棚が並び、古い羊皮紙の匂いが漂っている。司書たちでさえ滅多に足を踏み入れない場所だ。
その静かな空間で、私は小さな椅子に腰かけながら分厚い医学書をめくっていた。
「……やっぱり、おかしい」
ページを閉じて、私は自分の胸に手を当てた。
この体には、はっきりとした病名がない。
王宮医師たちの診断はいつも同じだった。
――「体力が弱い」「魔力が少ない」「生まれつきの虚弱体質」。
だが、それは説明になっていない。
前世で長く病院生活を送った私には分かる。本当の医療とは、原因を突き止めることだ。
曖昧な言葉で片付けるものではない。
「魔力の循環……」
私は次の本を開いた。
それは魔法理論の基礎書だった。
この世界の人間の身体には、魔力の流れ――魔力回路が存在する。血管のように全身に広がり、そこを魔力が循環することで魔法が使える。
だが、私の体には問題がある。
本に書かれている図と、自分の感覚を照らし合わせて気付いた。
「流れてない」
魔力が、途中で止まっている。
胸の奥で。
「……まるで、ダムみたい」
堰き止められている。
だから体が弱い。
だから魔法が使えない。
そして――
だから、長く生きられない。
私はゆっくりと息を吐いた。
「……やっぱり」
答えは見えてきた。
これは病気じゃない。
魔法だ。
誰かが、私の魔力回路を封じている。
その時だった。
「エリオット?」
優しい声が聞こえた。
振り向くと、カイト兄様が立っていた。
金色の髪が窓から差し込む光に輝いている。まだ少年だが、すでに王子としての風格があった。
「また難しい本を読んでいるのか?」
私は慌てて本を閉じた。
「お兄様」
「体は大丈夫か?」
カイトはすぐに私の隣に座り、心配そうに顔を覗き込んだ。
この人は本当に優しい。
物語の設定ではなく、心から。
だからこそ――余計に怖い。
この優しさが、私の死をきっかけに別の少女へ向くことが決まっているなんて。
「大丈夫です」
私は微笑んだ。
「勉強してただけです」
「勉強熱心なのはいいが、無理はするな」
カイトは軽く私の頭を撫でた。
その手は温かかった。
前世で欲しかった、普通の家族の温もり。
「兄様」
「ん?」
「もし……」
私は一瞬迷った。
でも聞いた。
「もし誰かが、王族に魔法をかけることって出来るんですか?」
カイトの表情がわずかに変わった。
ほんの一瞬。
だが私は見逃さなかった。
「……どうしてそんなことを聞く?」
「ただの疑問です」
カイトは少し考え込み、静かに答えた。
「理論上は可能だ」
やはり。
「ただし、非常に高度な魔法だ。王族の結界を突破する必要がある」
「結界?」
「王家には代々、強力な守護魔法がかかっている。普通の魔術師には干渉できない」
私は内心で確信した。
やっぱり誰かがやった。
しかも相当な実力者。
「でも安心しろ」
カイトは優しく笑った。
「この城にそんな危険な魔術師はいない」
――それはどうだろう。
物語を知る私には分かる。
この王宮には、裏で暗躍する人物が何人もいる。
宰相。
貴族派。
宮廷魔術師。
そして――
未来のヒロイン。
私は本を抱えながら立ち上がった。
「兄様」
「どうした?」
「私、もっと勉強します」
カイトは少し驚いた顔をした。
「何のために?」
私は答えた。
「強くなるためです」
カイトは優しく笑った。
「エリオットはもう十分頑張っている」
違う。
そうじゃない。
私は心の中で呟いた。
死にたくないだけだ。
「兄様」
「ん?」
「もし私が強くなったら」
私は真っ直ぐカイトを見た。
「ずっと一緒に剣の練習してくれますか?」
カイトは即答した。
「もちろんだ」
迷いもなく。
面白いと思ったら、下の評価★ボタンやブックマークをお願いします!




