第58話 裁判を受けてみた
――ま、なんとなくわかってたよ。
娘を溺愛しているって話の首相があのまま引き下がるわけがないってさ。
どうせ俺を罠にかけるために呼び出したんだろうって思ったら、それよりも酷かった。
俺は法廷に入ってすぐ魔法で拘束され、そのまま判決を言い渡された。
「異世界人ヒイロ。貴殿をドークリー・マクラーレンを拉致し入れ替わった罪で、全財産没収の上国外追放とする。なお、同盟国への立ち入りも禁じる。未開発閉鎖地区への転移となる」
仰々しいことを並べ立てられた。
首相は……よし、いるな。
俺がガン見していると、首相が薄く笑った。
「娘の仇、この程度で済むのだから感謝してほしいな。死刑が廃止されていなかったらそれになっただろう」
言い返そうとした直前、外から騒ぎが起きてラクシャリーさんたちが飛び込んできた。
「……い、いったい何をやっているんですか!? あなたたち、正気ですか!?」
首相が眉根を寄せる。
「正気じゃないのは君たちだろう。局全員が洗脳されているとわかった。娘はそれを告発しようとして飛ばされたのだ」
「何を言っているんです!?」
ラクシャリーさんが叫ぶ。
「君たちを洗脳しているこの異世界人、彼の持ち物をすべて取り上げた上で未開発閉鎖地区へ飛ばす」
ラクシャリーさんが真っ青になった。
「彼は、魔法が使えないんですよ!?」
「知ったことではない。そもそも彼は異世界人だ。国が補償する義務はない」
それを聞いたラクシャリーさんが愕然としている。
「君たちも、洗脳されているという事実を知られたくなかったら言うとおりにするんだな。彼は……なんだ?」
首相が俺を見ていぶかしむ。
俺が笑っているからだろう。
「舐められたもんだな」
俺が眼光鋭く見ると、周囲にいた連中が「ヒッ!」と息を呑む。
「俺がおとなしく従うとでも思ってんのか?」
首相が生唾を呑んだが、それでも余裕の笑みを浮かべた。
「その状態でなにができる? たとえ魔法が使えたとしても、魔法封じで縛られていて、古代遺跡物も持っていない貴様が、何ができるというのだ?」
俺はまた笑う。
「アンタ、聞いてなかったんだな。俺がなんで古代遺跡生物を従えられたのか。……そもそも、そんなんいらねーんだよ!」
俺はティッシュより脆い魔法の縄を引き千切り、目の前にある囲いをつかむと首相に向かって投げつけた。
悲鳴があちこちで叫ばれる。
囲いは首相のギリ横を通り過ぎ、壁に当たって爆散した。
首相は、何が起こったのか理解できてないようでボーッと俺を見つめる。
「俺のいた世界じゃ、魔法は使えないんだよ! だったらどうなると思う? 己の肉体を鍛え上げ、魔法なしでも戦えるようにするに決まってんだろうが! テメェらのへなちょこ魔法なんざ、この俺に効くわけねーだろうがよ!!!」
俺に判決を言い渡した裁判官は真っ青を通り越して真っ白だ。
息をしてないんじゃないかってくらい、呼吸が浅い。
周囲の、俺を拘束していた連中はガタガタ震えている。
俺がそのまま首相に迫ると、首相が慌てたように周囲を煽る。
「怯むな! 拘束しろ!」
「やってみろ! 顔面砕いて二度と呪文が唱えられないようにしてやるわ!」
かぶせて叫んだら、周囲は我に返ったように泣き叫びながら逃げている。
首相の前にある柵を正拳突きで破壊したら、大きな悲鳴があがった。
「魔王だ……!」
「異世界から魔王が召喚された……!」
「世界が滅ぼされる……!」
とか言われたんですけど。
「世界を滅ぼす前に、テメェらを滅ぼしてやるわ!」
そう叫んだら、大声で泣かれた。
「あァ? 俺が魔王だとしたら、俺を召喚したテメェの娘は、『世界の悪』だよなァ?」
俺がそう言うと、首相が俺を睨んだ。
「そんなたわ言を……」
「今この場にいる奴で信じない奴、俺の前に出てこいや! 頭かち割ってやっからよ!」
全員、頭を抱えてしゃがみ込んだ。
なぜかラクシャリーさんたちもだ。
「……助けて……!」
「……命令に従っただけなんです……!」
そんなすすり泣きが聞こえてきた。
「なら、最期まで全うしたらどうだよ? かかってこいや!」
「「ヒィイ!」」
悲鳴をあげるだけだし。
首相は大量の冷や汗をかきながらも俺を煽る。
「……私に手をかけたら、貴様は犯罪者確定だ。娘は、被害者になる」
「ハッ! ……なるほどな」
俺はせせら笑うと、首相の襟首をつかんで捻り上げた。
「……ぐぐ……」
コイツをマジでぶん殴りたいが。
「……これを望んでるんだろ? ――来い! ゼロエロ!」
俺は叫ぶ。
壁が破壊されてゼロエロが飛んできた。
そして俺が伸ばした手に納まる。
俺は首相を放り投げるとゼロエロを抜き放ち、首相の鼻先に突きつけた。
「俺を反逆者として処分したいんだろ? ……なら、首を洗って待ってろよ、首相。テメェの首を、この魔剣で綺麗に落として局の門の上に飾ってやるわ。……巻き添えを喰らいたくねー奴はソイツから離れておきな。猶予をやるから、それでも首相を守りたいって奴は、一緒に首を落として並べてやる。あの世で仲良く陰謀を企ててろよ」
そう言って裁判官を見ると、裁判官は悲鳴をあげて首を左右に振る。
「やめて! 私は頼まれただけなの! 悪かったわ! もうしないから、助けて!」
俺は再度首相を見た。
「次に会うときは、テメェの首をもらい受けるときだ。覚悟しておけよ」
俺はそう言うと、叫ぶ。
「ハリー! 来い!」
ゼロエロが開けた穴からハリーが突っ込んできた。
俺はゼロエロを鞘に納めると、ハリーに乗る。
「町のない、景色のいいところに案内してくれ」
ピッと音がして、ハリーがナビゲートしてくれた。




