第57話 湖畔で思い返してみた
――そして今俺は、再び湖畔に来ている。
ここ数日に起こった出来事を話す。
*
「次は海に行くか。海の魚が食べたくなった」
俺がそう告げると、全員(ただし人間は一人もいない)が同意した。
『いいのう、いいのう。海は見たことがないのじゃ!』
目のないゼロエロに見えるのかと尋ねてはいけないようだ。
猫たち、お前らはやっぱり俺の言葉がわかるんだな。
何度もうなずいているもんな。
「んじゃ、海に出発しようぜ!」
浮かれながら海に向かってドライブしていたところ。
「プェーッ!」
「ん?」
いつもの鳥がやってきた。
ナッツを与え、籠の中を見ると……。
「ん? 手紙?」
手紙らしき封筒が入っていた。
「マジかよ、誰だよ? 俺、文字が読めないって知ってるだろうに……」
ゼロエロが事もなげに言う。
『なら送り返せばよいのじゃ』
確かに。
俺は肩に留まった鳥を撫で、
「運んできてもらって悪いけど、俺、文字が読めないんだよ。だからこれ、持ち主に送り返して」
「プェッ!」
返事をすると飛び立った。
「賢いよな。言葉がわかってる」
『そういう鳥じゃ』
ふと見たら、白い鳥がいて驚いた。
「え? どこから飛んできた?」
すると、ゼロエロが答えた。
『ユキじゃ』
「ユキ!?」
勝手に鳥になってるんですけど!?
『学習しているのじゃ』
「あ、そういうこと」
なれそうな見本があったからなってみた、ということか。
「飛べるのか?」
うなずくと、俺の肩にとまった。
「おー! 賢い」
ユキをなでる。
すると、スリスリと頭をこすりつけてくる。
「いやコレ、生きてるだろ。こういう反応、無機物はしないって」
ゼロエロはもちろんのこと、ハリーにしろ、タロウにしろ、ノエルにしろ、反応が機械的じゃない。
生き物の反応だ。
古代の魔法使いがどうやってコイツらを作ったのかって考えるのが怖いよ。
嫌な予感しかしないんだけど!
なんせ、猫を時間停止のマジックバッグに放り込んで放置して幾千年か幾万年かってするような連中だよ?
絶対に倫理観がないと思う!
――そんなことを考えつつ、ユキをなでていた。
港町に着く手前で、また鳥が手紙を配達してきたよ。
「誰だよ? 手紙は読めないっつってんのに……」
『待て。これはボイスメールじゃ』
ゼロエロがそんなことを言った。
ボイスメール? つまりは音声ってことか。
「えーと? どうすればいいんだ?」
『開封すれば音声が流れるぞ』
ということなので、ハリーを駐めて開封する。
『こちらは、司法裁判所です。文字が読めない方のためにボイスメールでお届けしております。局内にて禁止魔法が行使された事件についての裁判が開かれます。これを受け取った方は関係者として出廷してください。日時と場所をお知らせします――』
そんなことを繰り返された。
「……マジで? もうちょっとで海なのに?」
しかも、コレってドークリー氏の裁判だろ?
本人いないのにやるの?
『行かんでよいじゃろ。それより海じゃ!』
ゼロエロが事もなげに言うし。
「いや、まずいだろ……」
ラクシャリーさんに尋ねたいけど、あの録音機器はビーネさんに預けてきたんだよな。
いや、それよりも。
「おいゼロエロ。ボイスメールとかあるんじゃねーか」
なら、録音機器いらないじゃん!
『あるが、お主は魔法を使えんじゃろうが』
「ゼロエロが使えるじゃん」
『我が代理で話すのか? 構わんが……うまく伝わるかわからんぞ』
あ、なるほど。ボイスメールは魔法を使って自分の声を録音するらしい。
俺は頭をかいた。
「そういうことか……。まぁいいや。諦めて戻るよ。ボイスメール頼めるか?」
『構わんが、専用の手紙が必要じゃ。それに魔法で声を吹き込み、封印するのじゃ。本人にしか開けないのじゃ』
「へぇ、便利だな」
急場の連絡はそれでいいか。ゼロエロに代筆……って言うのかわからないけど、してもらおうっと。
そうして俺はラクシャリーさんにボイスメールを送り戻ったのだが……。
指定場所に着くなり、囲まれた。
「……なんだ?」
ハリーから下りると、一人が近寄ってくる。
「異世界から現れたヒイロ氏ですね?」
と、知らない誰かが話しかけてきた。
「そうだけど。……裁判に関係者として出てくれって言われたんだけど、なんで囲んだ?」
嫌な予感しかしないんだけど?
「決まりです。……申し訳ありませんが、すぐ裁判が始まります。案内しますのでついてきていただけますか?」
「いいけど……」
え、もう?
ギリギリの時間を指定してきたの!?
俺が歩きだそうとしたら止められた。
「言い忘れました。裁判所には、杖や攻撃できる道具は持ち込み禁止です。預からせてください」
「え、無理だろ」
素で言っちゃったよ。
知らない誰かが呪文を唱え、ゼロエロに撃ち出したが、当然効果はない。
ゼロエロが鼻で笑った。
『我にそんなものが通用すると思うのが間違いじゃ』
知らない誰かの顔が引きつる。
あんまり心証を悪くしてもなって思ったので、尋ねてみた。
「俺が異世界から来たのは知ってるんだよな? ……これが俺しか持てないのは聞いてないのか?」
「……聞いておりませんが、確認させてください」
手を差し出したので、ゼロエロを乗せようとしたら悲鳴をあげた。
「無理無理無理! 重い重い重い!」
おい、素が出てるぞ。
「軟弱だなー」
『その上失礼なのじゃ! 我の体重は軽いのじゃ!』
ゼロエロが怒る。
しゃがみ込んでいるけど、大丈夫か?
「……こんなの無理だよ……。重すぎる……。どうすればいいのよ……」
とか、涙声で愚痴ってるぞ。
かわいそうになったので、
「ハリーの中に置いとけばいいだろ。ちょっと待ってな」
と、声をかけた後、ハリーのドアを開けてゼロエロ他荷物を乗せる。
その時。
『必要になったら我を呼べ。お主がどこにいようが駆けつけてやる』
と、ゼロエロが囁いてきた。
俺は笑う。
「そのときは、度肝を抜く演出もお願いするわ」
そう返して、ハリーのドアを閉めた。




