第55話 釣りをしてみた
ゼロエロが教えてくれてタロウから受け取った『多目的道具』とやら……雑に作った寄せ木細工っぽい箱……を、くるくると回しながら眺めていると、ゼロエロが解説してくれた。
『なれる形にならなれるぞ。……ユキは手本を見せればそれになれるが、それは手本がなくとも覚え込ませた道具にならなれる、という違いがあるな』
なるほどな。
確かにちょっと用途が違う。
「んー、じゃあ、湖で食用の魚を釣りたいんだけど、釣り竿になれるか?」
俺が言うと、箱が急激に変形した!
箱だったのに、釣り竿になったよ!
「おぉ! スッゲー!」
ちょっと楽しくなってきた!
ただし、俺は釣りをしたことがない。
そして、向こうの釣りとこっちの釣りが同じかどうかも知らない。
「ゼロエロ、釣り方知ってる?」
『知らん。だが、その道具は知ってるじゃろ。その道具になれるということは、その使い方も知っていると言うことじゃ』
「ふーん、そういうものなのか」
感心しながら釣り竿を眺めると、釣り竿が音声で指示してきた。
『湖の近くまで行ってください』
コレってアレだ! 音声で使い方をナビゲートする感じ?
俺が湖の近くまで行くと、またナビが入った。
『釣り竿の先端を、湖面に近づけてください』
「湖に? ……こんな感じか?」
釣り竿の先を湖面へ下げると……先端から何かが飛び出して湖に突っ込んでいったんですけど!?
「うお!? 今、なんか入ったぞ!?」
『魚を捕まえにいったのではないか?』
ナニその釣り竿! めちゃくちゃ能動的だな!?
釣り竿の先端は、湖の中を泳ぎ回っているらしい。
釣り糸が能動的に動いている。
『魚影発見。捕獲を試みます』
「あ、うん。お願い」
よくわかんないけどお任せしようっと。
すると、釣り糸の動きが激しくなり……。
『捕獲に成功しました。引き上げます』
そうアナウンスがあったかと思ったら、リールが勝手に巻かれ、魚とともに先端が戻ってきた。
「マジで捕獲じゃん」
魚、網の中だったよ。
……これは、釣りなのだろうか。
しかしながら俺は釣りをしたことがない。
ゆえに、これは釣りなのだと思う。
「やったぜ。これって食えるんだよな?」
『食用を捕獲しました。ただし、調理には下処理が必要です』
釣り竿が答えてくれる。
「ハリー、下処理をお願いできるか? たき火で焼きたいから、串に刺すまでやってほしいんだけど」
ピッ! と、いつもより大きめに鳴った。
はりきってるのかな。
下処理をハリーにお任せし、俺はたき火の準備。
いいあん梅で夕方になったので、雰囲気が出てくる。
「よーし、たき火の準備オッケー」
『お待ちかねなのじゃ~』
ゼロエロとタロウが浮かれている。
俺は猫三匹を抱っこして椅子に座らせ、
「火の近くは危ないから近寄るなよ」
と、諭しておく。
返事をするみたいに鳴いたよ。
なんか、言葉がわかるみたいなんだけど……さすが異世界の猫。賢い。
ほどなくしてハリーが魚を出した。
よくわからんけど下処理されているらしい。
だが……。
猫たちが魚に反応した。
椅子から飛び降り、俺の足にすがりついて、甘い声でねだる。
控えめに言って、めちゃくちゃかわいい!
「ハリー、ごめん。塩を振ってない魚も焼かないといけないや。猫に食わせるから」
ピッ。
と、返事をしてやってくれるハリー。
やはり、良い嫁になると思う……。
串に刺さった魚を、たき火からちょっと放して焼く。
「盛り上がるなー」
『そうだのう!』
ゼロエロも同意している。
食べられないのにね。
猫たちはかしこまって俺の足もとに座っているよ。
尻尾の振りが尋常じゃないけど。
軽く焦げ目がついてきたかなと思ったら、ハリーが「ピッピッ」と鳴くので、恐らく反対側を焼けってことなのかと思い回転させる。
そろそろ焼けたかなと思うと、ハリーがまた「ピッピッ」と合図を送ってきた。
「じゃあ、まずは猫三匹のからだな」
冷まさないといけないからな。
すると、またハリーが「ピッ」と鳴くので、振り返ったら車から皿が突き出されている。
皿に置くと、ハリーが回収し、何やら施した後戻してきた。
「おぉ、食べやすそうに処理されている」
なら、最初からハリーにやってもらえばいいじゃん、というのは違う!
一緒に焼くのを楽しみたいんだ!
「ホーラ、俺が焼いてハリーがほぐしてくれた魚だぞ」
猫三匹の前に置くと、すごい勢いで食いついた。
それを横目に見つつ、俺も食べる。
かぶりついたらうまかった!
「うわっ! すっげーうまい」
湖の魚だから泥臭いのかと思ったらそんなことなかった。
…………いや?
「ハリー。下処理って、泥臭さをとる処理も入ってる?」
ピッ!
と、誇らしげに鳴ったよ。
たぶん、おいしくなるように下処理されてるんだろう。俺の使えない魔法か何かで。




