第52話 恋バナを回避してみた
首相はマーナガル氏から詳しく話を聞くと言い、俺はそのまま退出するよう言われた。
首相とマーナガル氏を不安そうに見ているラクシャリーさん。
だが、俺についてきた。
「……不快な思いをさせてごめんなさいね。貴方は被害者なのに……」
俺は手を横に振る。
「いいって。ラクシャリーさんのせいじゃねーし、それに、それだけ娘が大事なんだろ。俺とは対立するだろうけど、娘を大切に想ってるってのはいいことだ」
うちのクソ両親と妹は、欠片も心配していないから。
じいさんが心配だが、じいさんが連中にいいように操られるとは思えない。
唯一の懸念はドークリー氏が魔法を使えるということだが……。
ただ、怖がって近寄れないレベルなら、魔法をかけるのも無理だろう。
ちょっとでも邪な考えで近寄ったらすぐ見破られる。
「……いや待て。そういうことか?」
邪な理由で近づいてじいさんに睨まれたのか。
この世界の連中は、俺がちょっとでも機嫌が悪くなると敏感に反応する。
確かに、知らない女が家をうろついてたら不審がるが、いくらじいさんでもあのオドオドした女が勝手に家に忍び込んだとは思わないだろう。妹の友人が迷って入り込んだと考えるはずだ。
そのじいさんに何かしようとして、じいさんが察知したのかもしれないな。
となると、じいさんが操られることはないな。
ちょっとだけ安心した。
*
俺は当初の予定通り次の目的地へ行くことにした。
「ドークリーと連絡がとれたら、とにかく貴方の無事を祖父の方に伝えるように言うわ。無責任な奴だけど……まさか、自分の失敗のせいで行方がわからなくなっているのに、怖いからって理由でご家族に伝えないなんて、思ってもみなかった」
ラクシャリーさんが怒りを滲ませる。
「ま、そういう奴もいるよな。それより座標の割り出しを優先してくれよ。たぶん、俺が直接伝えたほうが早いだろ」
端的に言うと、無理だろ。
アイツ、絶対に聞きやしねーぞ。俺は諦めたよ。
その思いが伝わったのか、ラクシャリーさんが謝った。
「……ごめんなさいね」
「ラクシャリーさんが謝ることじゃない。首相が謝るのなら親だからってわかるけど、ラクシャリーさんは無関係の奴だ。むしろ、ありがとな。関係ねーのに俺に良くしてくれて」
ラクシャリーさんが微笑んだ。
「私にとっては、それは当たり前のことだから」
…………めちゃくちゃいい人だ。
『お主、彼女に惚れたか?』
ハリーに乗ったらゼロエロが冷やかすように聞いてきた。
「恋バナとか言うヤツか? さすが自称乙女だね。でも俺、あんま好きじゃないんだよ」
ゼロエロに返す。
『……なんじゃ、つまらんのう』
ふてくされたように言うから笑ってしまった。
「なんつーか……向こうの世界でもちょいちょいトラブっててさ、あんま余裕がなくて、恋だの愛だのとは無縁で生きてきたんだよ」
ゼロエロがしばし沈黙した後、
『……さすが魔窟で生き抜いてきた魔王じゃな。戦いに明け暮れた人生だったのか……』
とか震え声でつぶやいたぞ? オイ、何言ってんだよ。
ともあれ次へ行こう。
俺としちゃ、とにかく元いた世界に帰してくれればいい。
座標が割れればゼロエロがどうにかしてくれるから、それだけはマジで頼むわ。
「そういや、コレって何?」
俺は白い塊を出した。
『それは、見せたものの形をとる魔道具じゃ。その塊よりも大きなものは無理なんじゃが、同程度の大きさなら同じ形になるぞ』
「へぇー!」
そりゃビックリだ!
「ミー、チャー、タマー!」
猫を呼ぶと、次々と現れ俺の膝に乗ってくる。
猫を指さし、
「これになれるか?」
と、俺が尋ねると、白い塊が震え……。
「白猫になった!」
スゲー!
「これならビーネさんだって使えただろう? なんで使わなかったんだ?」
『使い方を知らんのじゃろ。あとは、たぶんコヤツを持てないからじゃろ』
白猫になった白い塊がうなずいた。
「ずっとこのままなのか?」
それでもいいけど。
『いや、お主が「戻れ」と言えば戻るぞ。あるいは違う形になれと命令すればそうなる』
へぇー! 便利だな。
便利だけど……。
「誰の命令でも聞くのか?」
『お主がこれを持つ者なのだから、お主の命令しか聞かんぞ』
確かに持ったけどさ。
「うーむ。誰かに持たれたら、そいつに所有権が移るのか……」
『持てる奴、おらんじゃろ。我すら持てん連中に、これが持てるはずがなかろ』
……確かに、タロウすら持てないもんな。
推定一キロ以上はあるし。
「ま、持てる奴が出るまではめんどうみるか。……んじゃ、お前はユキだな」
『名前をつけたらもうお前のものじゃろ』
ってゼロエロが言った。マジで?
『あと、いいかげん癒やしのロッドにもちゃんとした名前をつけてやれ。「釘バット」ではかわいそうじゃ!』
え。
釘バットを見ると、プルプル震えている。
……確かにかわいそうな感じに見えるけど……。
「……そうだな。箱入りお嬢様だったみたいだしな……。じゃあ……ノエルとか?」
なんかこう、神聖な感じっぽいイメージで。
すると、釘バット改めノエルが跳ね出した。
『喜んでおるぞ。気に入ったようじゃ』
「……それは良かった」
癒やしのロッドに釘は悪かったよ。




