第13話 閑話
《マーナガルの思い》
マーナガルは、ドークリーの上司だ。
ドークリーが皆からどう評価されているかを知っている。
だが、上司だからこそドークリーのポテンシャルを知っている。
彼女が極度のあがり症で、特に萎縮すると力が発揮出来ない事、ゆえに皆の前だと緊張して失敗してしまう、特にラクシャリーを苦手としていて彼女がいると失敗ばかりで彼女に尻拭いをさせることになり、ますます彼女の前で萎縮して失敗し尻拭いさせる悪循環に陥っているのも解っているのだ。
実際、一人のときはもちろん、マーナガルの前でも失敗はしない。
呪文局では彼女に人前へは出ないような調査と精査をやらせていて、そこでは一度も失敗はないのだから。
むしろ、失敗率の高い複雑な呪文なども成功させている。
だからこそ、局長補佐の肩書きをつけているのだ。さすがにコネだけではその地位にはつけない。
だが、今回の件はかばいきれない。
甘やかされて育てられていたので私生活がだらしなかったのは事実だし、寝坊による遅刻は今回に限ってではない。
ラクシャリーが絡んだ会議にまさかの寝坊、慌てて転移しようとし、よりにもよって調査していた失敗率の高い複雑な呪文を成功させ、しかも三点移動させるとは……。
誰も気づいていないが、これは単なる入れ替えではない。三点移動なのだ。
自分が相手の位置に移動し、相手を自分の目的地に送る。
今まで誰も出来たことはない、高難易度の呪文を成功させた。
これを呪文局で行い、本人が戻ってこられたならむしろボーナスものだったのだが……。
マーナガルは、密かにため息をついた。
友人であり彼女の父親は、なんとするだろうかと。
首相のクローリー・マクラーレンは、妻が早逝してから娘を甘やかし続けた。
当人が忙しくしてあまり構えなかった負い目もあるだろう。だが、間違いなく溺愛している。
入局したのはえこひいきの結果ではあるが、ラクシャリーが考える『使えないのに親の七光りで入局した』わけではなく、友人に愛娘を預けただけだ。
緊張しなければ相応の実力はあるので、ラクシャリーが思うほど酷くはない。緊張しなければ。
……結果、緊張して実力が出せずにラクシャリーの仕事を増やす結果になっているが……。
しかもドークリーのせいで首相派とラクシャリー長官派とに分かれることになった。マーナガルはそれも頭が痛い。
どう思われようがマーナガル自身は中立を貫いている。
友人である首相は、仕事は出来るが娘に関してだけは、マーナガルにも思うところがあるほどに不平等だ。
ラクシャリーが一番の被害者だし、彼女の苦労が偲ばれる。
ここまで関係がこじれる前に、娘へのえこひいきを止めるべきだった。
今回の件、クローリーに友人として忠告したら対立することになり、マーナガルはラクシャリー長官派と見なされるだろう。
だが、誰かがやらねば……クローリーは間違いなく被害者であるヒムロを断罪しようとするだろう。
だが、今のこの状態でそうしたら、国の首脳部の対立が激化し、下手をしたら内乱の騒ぎになる。
それは避けたいし、そもそもヒムロが黙っていないだろう。
魔剣を携えた彼が、物理で制裁を加えるのは明らかだった。




